第4話 俺の親父の実家は幽霊屋敷 後編

「怖ッ!!俺は今日そんな部屋に寝るのか…」

「ああ。一人でな」

「えぇ…一緒に寝てくれよ。頼むよー」

「一人の方が霊障は起きやすい…と思うぞ?」


 下らない会話をしながら、篤は「一緒に寝てくれよー」としつこく言ってくるが、無視して夕飯の準備を進める。やっとの思いで夕飯を作り終え、皿に盛り付けた料理が目の前に並ぶ。


 食欲をそそる香りが漂い、篤は自分が好きな〇〇ちゃんの話を始めた。けれども、その話は目の前の料理にかすりもしないほどつまらないものだった。



 ◇


 夜が更け、何事もなく風呂に入っていた篤。

 最初は一人で入るのが怖かったと言っていたが、やっとのことで入ることに決めたのだ。


 篤が入っている間はテレビを見ながら過ごしていた千春だったが、その時突然、浴室から篤の悲鳴が聞こえてきた。


「うわあぁぁぁっ!!!!」


 その悲鳴に驚いていると、篤は風呂上がりの水に濡れた身体のまま茶の間に飛び込んできたのだ。半ばパニックになっている篤を宥める事数分――篤は何が起こったかを震えた声で説明し始める。


「急に風呂場の電気が消えたんだ…最初は千春がイタズラでもしてんだろうと思ってたんだけど、風呂場の扉ってすりガラスになってるだろ?そこに誰かが顔を押し付けて風呂場を見てたんだ…」

「…俺はずっとここに居たぞ?」

 真面目な顔つきで言う。


「そんなもん分かってるよ。俺が悲鳴をあげたらそいつは、スッとどっか行ったから慌てて俺も風呂場から出たんだから」


 しばしの間、二人の間に沈黙が訪れる。聞こえてくるのはテレビから流れる音だけ。


 そんな沈黙も、突然の家の呼び鈴の音で崩れる。


「「うおッ!!」」


 お互い声を出し驚き固まる。時計をみると夜の十時三十分を過ぎた頃。こんな時間に誰が家に訪れるのだろうか?


 篤は未だ裸の為、千春が玄関まで見る事に。

 不審者の可能性もある為、玄関の明かりをつけ声を掛ける。


「どちら様ですか?」


 応答はない。すりガラスになっている玄関の向こうには人影がない事から誰も居ないのは明らかだったが、千春にはカギを開けて外に出て確認する勇気はなかった。




「誰も居なかった…」

「マジか…」

 青ざめた顔で篤は呟く。


「いつまで裸で居るんだよ。とりあえず服着ろよ」

「脱衣所に全部置いてきた。…俺達友達だよな?」


 引き攣った笑顔で千春の肩をがっしり掴んでくる篤に、無理矢理脱衣所まで連れていかれ、篤の生着替えを見るという誰得?という出来事があったが、その後千春が風呂に入ってる時は特に何も起こらなかった。




 千春が風呂から上がると、篤はカメラの準備をしていた。


「そろそろ寝るか?」


 時刻はもう午前零時を過ぎたところ。


「俺達、友達だよな?」


 本日二度目の言葉を浴びせられ、嫌々ながらも篤と仏間の隣の部屋に布団を敷いて寝る事になる。


 俺より先に寝るなよ!という篤の言葉を無視し、千春はそうそうに眠りについたのであった――





「おい!千春!起きろッ!」

 寝ていた千春は篤に激しく揺さぶられて目を覚ました。


「なんだよ…今何時?」

「もう七時過ぎてるよ!それより、仏間を見ろよっ!」


 篤の言葉で仏間に視線を向ける――仏間の襖は全開に開いていた。


 絶対に寝る前は閉まっていた…家中を施錠したことも寝る前に篤とは確認済みだ。


 千春たち以外に家には人が居るはずはない…。


 なんとも言えない雰囲気のまま篤は朝食を食べ、逃げるように自転車に乗って帰って行った。


 まだ朝の八時…両親が帰ってくるまでどうしようか。篤の背中を見つめながら悩む千春であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る