心霊スポット動画配信者

ゆりぞう

過去の体験

第1話 初めて幽霊を視た 前編

「―――――っ!?――――っ!!千春ちはるっ!!」

「ん?どうした?」


「どうしたじゃなくてさ…何回も呼んでたのに、ボーっとしてるから幽霊にでも憑かれたのかと焦ったわ」


「いや、そういうわけじゃなくてさ。ここに来るのは中3振りだなって」


「え!?この曰くだらけのキャンプ場に来た事あんの!?なにそれ、初耳なんだけど!」


「あれ?あつしに言ってなかったか?俺が初めて幽霊を見た場所の事」


「あー…それってここの事だったのかよ」


 千春たちは趣味で色々な心霊スポットを訪れて動画を投稿している。千春は親の都合で県外の高校に進学して、そこで篤と出会った。だが、篤は千春が幽霊を見える事を知ると、自分の趣味である心霊スポット巡りに、無理矢理連れまわすほどの心霊マニアであった。


 お互いに社会人である彼らは、休みの時には心霊スポットに突撃し、動画を撮影してサイトに投稿して小遣い稼ぎをしている。これでも意外と人気のチャンネルで、登録者数は20万人を先日超えた。


 そんなある日、ひょんなことから千春の地元の話になって、地元の心霊スポットを動画撮影したいと、駄々を捏ねる篤に根負けした千春はここに連れて来たのだ。


「千春が初めて幽霊を視たっていう場所だろ?動画撮影する前にさ、曰くだったり千春が視た幽霊の話をもう一回聞かせてくれよ」


「まぁいいけど…」




 ◇






「今日の夜さー〇〇市の化けトンいかね?」

「あそこのトンネルってマジで幽霊出るって話だぞ?本当に行くの?」


 中学3年の夏、部活動が終わって暇を持て余した同級生が、学校の放課後の教室で、下らない会話をしていた。


 幽霊なんて存在しない――千春はそんな連中を内心馬鹿にしてた。自分自身が幽霊を視た事がないと言うのが1番大きいのだが。


千春ちはる。もうすぐ夏休みだけど、仲のいい奴で集まってキャンプにいかない?」

「別にいいけど…んで、いつキャンプすんの?」

「3日後の午後にキャンプ場を予約する予定。千春が来るなら全部で4人だな。場所は〇〇キャンプ場な」

「あー…あそこか」




 場所は地元にあるキャンプ場。

 自然に囲まれていて、近くにはダムや子供が遊べる公園などがあり、小学生の時に子供会で行った事がある場所だった。


 高校は親の転勤で県外に行くことが決まっており、最後の思い出というわけでもないが、たまには良いかと思いキャンプに行くことを了承した。


 3日後に現地集合といわれた千春は、そのキャンプ場が家から近かった事もあり、着替えなどをリュックに詰め込み自転車で向かうことにする。







 キャンプ当日。空を見上げると雲一つなく冴え渡っている。


 事前に天気予報を確認して、キャンプの日は晴れという事は分かっていたが、いざその日になり晴れだと分かると安心する。


 そんなことを考えながら夏の日差しが照り付ける中、自転車をこいで目的地であるキャンプ場に到着した。


 森を切り開いたキャンプ場は、夏休み真っ只中だというのに千春たち以外には1人もキャンプをしている人がおらず、意外と人気のないキャンプ場というのが印象的だった。


「千春っ!こっちこっち!」


 千春を誘った張本人である拓哉が、無駄にでかい声で話しかけてきた。隣にはクラスメイトの女子2名。


 夏だからなのか分からないが、やたらと露出が高い服装と派手なメイクをしてるほうが咲。


 もう一人の女子は咲のように派手というわけでもなく、どっちかというと地味な女子であるサクラ。未だになんでこの2人が仲が良いのか良く分からない。


 時刻は夕方四時――千春達はテントなどを設置した後に、バーベキューの準備をしていた。


「なぁ。このキャンプ場って俺達しかいないのか?」

「んー…どうだろう。この時間で居ないって事は俺達だけなんじゃね?つまり、貸し切りッ!夜も騒ぎ放題だぜっ!!」

 拓哉が少しはしゃいだ口調で言う。


「残念だったわね。あんたたちがそんな事言うから他にも来たみたいよ?」


 咲の言葉に、千春達は自然とキャンプ場の入り口に目を向ける。キャンプ場に入る為には必ず通らなければならない一本道がある。その道は千春達がいる場所から正面にあるが、その道を通ってくる三人家族の姿が目に映る。


 両親と、小学生低学年くらいの女の子。


 木々の木漏れ日から差し込む光が、母親のカラフルな花柄のワンピースを照らしているのが、この時やけに千春の頭にこびりついていた。


「でもテントを持ってるわけじゃなさそうだし、この上のコテージに泊まるのかな?」


 千春は忘れていたが、サクラが言った通りこのキャンプ場には入り口から右手に公衆便所がありその隣には階段がある。その階段を上るとコテージがあるわけだ。その家族は階段を上っていったので、どうやらコテージに泊まるらしい。



「お?やっぱり夜は騒いでも良さそうだな!花火も持ってきたし楽しみだなっ!」

「コテージに泊まるからと言って、他のお客さんが居るのには変わりないんだから、騒ぐのはなしよ。そんな事より早く炭をおこしなさいよ」


 咲は見た目は派手だけど意外と常識はあるようで、正論で拓哉を黙らせていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る