第8話 終わらない話
蒼は天井を見つめていた。
奥の扉が開かれ、警官がご飯を持ってきた。
「おい。飯の時間だ。最後の時はゆっくりと味わえよ」
入り口に置くと、蒼は咳をし出した。
「ん? おい。どうした」
すると、蒼の口から血を吹き出した。
「おい! どうした!!」
警官はすぐに鍵を開けると、駆け足で蒼の駆け寄った。
「おい! 誰」
叫ぶ瞬間に蒼は頭を掴み、自分の膝に顔を打ち付けさせるとそばにある枕を警官に押し当てた。暴れ狂う姿、久々の殺しに体が興奮を覚えた。
徐々に息が絶えていき、むしろ指一本も動かさなくなった。
すぐに服を脱がせ、自分が着ていた服を着させて警官にきさせた。床に落ちている血を拭い、食事をベットの下に置いた。
鍵を持つと帽子を深く被ってそそくさとその場を去った。
「おい! 何かあったか」
防犯カメラの様子を見ていた人なのか、警官が駆け足で聞いてきた。
「少しあいつが苦しみ出したんで、どうしたんだろうと思って」
「そうか。ん? お前、見ない顔だ」
蒼を警官の首を掴むとそのまま持っていた色鉛筆で首を2回刺した。
「変に言うな。ばか、気持ち悪っ。あれ?」
蒼は自分の発言に疑問を感じた。
「久々だな。このセリフ。そもそも俺、なんで俺殺した人たちに向けて気持ち悪って、声出ていたんだっけ?」
蒼はそう思いながらそばで倒れている警官を運び、どこに捨てようかと悩みながら歩いていると、トイレがあったため、その中の一つを警官を入れて、駆け足で刑務所を出たのだった。
あれから1日目の朝を迎え、龍樹は元の仕事の状態に戻った。
1週間の疲れと共に恐怖がなかなか消えず、今日はため息ばかりが出そうだと思いながら仕事に育んでいた。
「先生、大丈夫ですか? めっちゃ疲れている顔色が見えますし、今日は休んだ方が」
仲間は龍樹の顔色の姿に心配の声をかけたが、龍樹は1週間も自分は仕事半分を部下に押し付けたために休むことはできなかった。
「いやいいさ。君たちに長らく仕事を任せっぱなしだったじゃらこれを終わらすまでは休まないよ。それにただ、あいつに話を聞くだけだったからな」
「ですけど、話を聞いただけでそんな顔色になるってことはきっと最悪な話を聞かされたんでしょ?」
佳奈の言葉に動揺を仕掛けたが、なるべく平常心に保ちながらでいた。
「まぁね、それはそれでこわ」
言いかけた瞬間、自分のスマホが鳴り出した。
(ん? なんだ?)
見てみると、それは喜之だった。
「どうしたんだろ?」
龍樹は疑問を感じながら電話に出てくると言い、部屋を出て電話に出た。
「はい、どうしましたか喜之さん」
「あぁ、龍樹くん。大変なことになった」
突如電話口から喜之の焦りの声を聞いた龍樹は不安を感じた。
「どっ、どうしたんですか」
「これは他者にはバレないように頼む」
「えぇ、ですが何が」
「あいつ、蒼が脱走をした」
「えっ!!!」
あまりのことに蒼は驚きを隠せなかった。
「一体、今日は死刑執行の日ですよね」
「あぁ、実は昨日の夜の担当員の1人がトイレ行っている間にもう1人の相方が消えたんだ。最初はサボりかと思ったら朝までこなくてな、朝晩の担当と交代した後に刑務所内を探したらしている間に今日の朝飯を用意した警官が、声を開けても一向に動かない蒼に不自然を感じて確認をしたら、その相方が蒼の着ていた服を着させられたたまま殺されていた」
喜之の言葉に龍樹は「そんな」と口にした。
「やっぱりあいつ、死ぬのが怖くて」
龍樹は昨日のことがあったため口にして言うと、喜之はそれを否定した。
「違う。死ぬのが怖くて逃げ出したんじゃない」
「えっ」
「あいつは、次の獲物を自分のものにするために逃げ出したんだ」
「次の獲物」
「あぁ、次の獲物は龍樹くん……君だ。君が獲物なんだよ」
喜之の言葉に龍樹の心臓の鼓動は早くなった。
「ジョッ、冗談は」
「冗談ではない! あいつは自分の服を着せた警官の服の中にわざわざ置き手紙を残していた! 自分のものにしたくなった龍樹のところに行くと書かれていたらしい! 今そっちに警官を寄せている! 絶対に仲間のそばから外れるんじゃないぞ!!」
喜之の言葉に龍樹は目の前がクラクラしそうになっていた。だが、突然後ろから叫び声が聞こえ、電話を切って事務所に戻った。
戻ると、錯乱した机と傷を負っている5人の仲間と助手、そして6人目の1人は黒い服を着た男に頭を鷲掴みされている。
それも、見覚えのある髪型の男に。
「せっ、先生」
佳奈の言葉にその男は仲間の髪を掴んだまま振り返った。
その瞬間、またあの恐怖が蘇った。
仲間の血で多少に汚れた整った顔。
「あっ! 龍樹くーん! よかった。捕まえる前に調べておいて」
蒼だ。
蒼がまた、檻の中で向けていたあの笑みを浮かべたまま目の前に立っていた。
チャリ。
聞こえてくるのは縛り付けられている手首と首の鎖の音と自分の息遣い。
見えるると共に感じるのは暗く、冷たい感触のアスファルトが頬と手首に伝わる。
(今、何時だ)
龍樹は暗闇の中を震えながら感じた。
あの時、瞬間的に蒼は龍樹を持っていたハンカチを口元に押し付けた。それを吸った瞬間に意識を手放した。あの時押し付けられたのは睡眠薬だと考えられた。
一体どこで入手したのかを考えたが、そんなことはどうでもよかった。
知りたいのは自分は一体どこに監禁されていて、何日立ったのかだけだった。でも、あいつは教えてくれない。それもあいつにとっては拷問かもしれない。
出かけていない時は目隠しをされてあいつと同じ場所にいるだけ。出かけている時は暗い部屋に戻されて目隠しを外していくのを繰り返していくだけ。
最初は逃げたくて逃げたくて仕方なかった。だけど、暴れるといつの間にか誘拐していた男性を目の前で殺した。
「もし暴れたらこんな感じで他人が犠牲になるからね」
笑顔で語る蒼の姿に本当だと感じると、それ以来暴れなくなった。むしろ暴れるごとに犠牲になる人が多くなる。
このような生活が死ぬまでと考えると、憂鬱と屈辱的で嫌で嫌でたまらなかった。
ふと上から階段を降りる音が聞こえる。
また、あの時間が始まると感じる。
降りる音が止まり、見上げると蒼だった。
「大丈夫か龍樹、どっか痛むか? 一応のためにここはトイレと洗面台もあるけどさ」
龍樹は蒼の問いかけに首を横に振る。
「そうか。ならよかった。よし。じゃあ次の話をしようか」
蒼は龍樹の前でひざまづいて笑顔で語り出した。
その話を聞くたびに蒼は何人の人を殺したのだろうと考えさせられる。
監禁されている間に人を殺しているのかもしれない。 そしていつかはその物語の中に自分自身も入るかもしれないとも考えさせられる。
そして蒼の話している姿を思ってつくづく思った。
(あー、気持ち悪っ)
ただ話を聞いているだけで思うのは、いつも蒼が人を殺した後に口にしていた言葉だった。
最後まで読んでくれさりありがとうございました! よろしければ応援&コメントや星をお願い致します!!
殺人鬼の物語 羊丸 @hitsuji29
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます