第6話 同僚
「いやぁ、よかったよかった。無事に見つかって」
「あぁ、お前。結構無惨に殺したんだな」
龍樹はそう言いながら両親に関する資料を蒼に見せた。
「結果複雑骨折、鼻の骨折など様々あった。そして、全ての凶器には錆た血痕が付着していた」
「あー、それはしていたでしょ。何せ色々と使ったからね。錆びたかぁ、やっぱり人の血って不思議だねぇ。物を古くさせるなんて」
蒼は反省の反応も見せずにただ感心するかのような言葉を発するだけだった。
「まっ、いいや。それじゃあ、同僚の話でもしようかね」
「同僚?」
「うん。俺、捕まえる前は薬剤関係の仕事についていたんだ」
蒼は逮捕される以前は、薬剤大学の卒業に薬剤の仕事についていたことを知ると、驚きを感じた。
「へぇ、そうなんだな」
「あぁ、まぁ色んな同僚がいる中とても面白いやつもいてさ。おまけに、子持ち」
笑顔で言う姿に気持ち悪さを感じていると、「さて」と蒼は声を漏らした。
「早速、その同僚に関することを語ろうか」
大学を卒業後、蒼は東京都中央区にある薬局屋で働くことになった。薬局はほとんど毎日のように客が来る。ただ客が来るだけで、同じ客は時々や月に1、2回ほどだった。
「それでは、また薬が切れたらきてくださいね」
蒼はいつものように営業スマイルでお客に声をかけた。
「はい、ありがとうございます」
客は笑顔で言うと、薬を受け取ってその場をさった。客が去ると蒼は次の客の相手もする。そうゆう日常を繰り返して行った。
仕事に入ってからは忙しさ満載で人を攫ったりして殺すことなんてしていなく、最近はストレスが溜まっていた。
休憩時間が入り、弁当を買い、近くの公園で食事をしていた。すると、後ろから声をかけられ振り向くと男の同僚の竹下龍馬だった。
「よっ! お前も休憩か」
「あぁ、そっちもか」
「うん。いやぁ、しかし今日もいろんな人が来ているな」
「ストレスが溜まるほどな」
「まぁね。でも、発散とかすれば少しは気が晴れるけどなぁ」
龍馬は言いながら弁当を開けた。
「今日も奥さんの」
「あぁ、うまそうに見えるだろ。食べてみたらほっぺが落ちそうになるぐらいなんだ」
龍馬は笑顔で言いながら頂きますと言って食べ始めた。
龍馬には一つ年下の妻がいる。おまけに高校生ぐらいの子供もいた。写真を見せてくれたこともあった。みたら絵に書かれたかのような家族だった。
蒼はその写真を見て「あぁ、これが幸せなんだ」と感じた。
「そういえば、娘さん、美羽ちゃんってもぉ16歳なんですよね」
「あぁ、いやぁこれでどんどん自分の人生を歩んでいくんだよなぁ。楽しみだなぁ」
龍馬は自分のことかのように思いながら笑みを浮かび、ご飯を食べ続けた。
蒼もご飯を食べながらふと思った。
(そういえば俺、殺したやつの相手の知り合いとか、恋人とかの表情、見たことないよな)
蒼は今まで殺した人物のことを思い返した。痛みに叫びながら親や恋人の名前を呼ぶ姿、そして誰かに助けてもらいたい姿。
(そういえば、人の絶望の表情ってあまり見たことないな)
蒼は昼食を食べながら考えた。そしてふと、横で幸せそうにしている龍馬の顔を見た。
(……見てみたいな)
蒼はよしっと心の中で言いながら龍馬にごめんなと心の声で問いかけたのだ。
仕事場に戻り、蒼は「最初はどうしようか」と考えた。
(最初は、娘さんとの接近をするためにはまず、スマホのロックを解除して、それで写真の中に制服姿の娘の姿があったらそれはそれで調べられるはずだな)
そう思い、その日から常に龍馬を監視していた。誰にも怪しまれないようにしながら、いつスマホを弄るかを見張っていた。見張って1週間後、暗証番号を押している瞬間を見えたため、すぐにそれを持っているメモに書き込んだ。
そして、龍馬がスマホを机に置いた瞬間にスマホを盗み、すぐにパスワードを解除するとすぐに写真のフォルダを確認した。事細かく見ると、制服姿の娘の写真があった。
見ると、入学式の時の写真。学校名が入っていた。
「東京〇〇高等学校か。よし」
蒼は確認をするとすぐにスマホを元の場所に戻し、メモをするとそそくさと何食わぬ顔で仕事場に戻った。
そしてある日、その学校場所に侵入した。事前に防犯カメラのチェックもしっかりした。ピッキングし、学校内に入るのは何年ぶりだろうよ思いながら職員室に向かった。
それぞれの引き出しの中から竹下美羽と書かれている履歴書を探した。
もちろん誰かが来たら来たで殺すつもりでいた。何せバレるのは嫌で嫌でたまらないからだ。
死体は細かく刻んでここら辺にあるもので持っていこうと考えながら探し続けているとついにその資料を見つけた。
「あった」
大きく深呼吸をし、それらを綺麗に撮り、誰もいないことを確認して少しだけ目を通した。
住所、電話番号と部活はテニス部。
(よし。じゃあ、テニス部の予定表を探すか)
蒼は元の場所に戻し、テニス部の予定表を探した。壁に飾られているのでないかと思いながら見ると予想通りにあった。
すぐに写真を撮ると、職員室を見て思った。
(少し、イタズラしちゃおっ)
蒼は持っていたナイフで美羽の担任以外の机に罰を深く描くと、娘の担任にはそばにあったペンで大きくバツの印を書くとその場を去った
帰る途中で服装を変え、家に向かった。着くと再び大きく深呼吸をし、これで住所と顔を入手できた。
(さて、あとはどうゆう風に攫おうかな。人気がない場所に行った瞬間とか)
蒼はそう考えながらシャワーを浴びると、再び先ほど写真を覗き込んだ。
いつも通りに仕事をし、休憩にいこうとすると龍馬が蒼聞いてくれよと声をかけてきた。
「今さっき娘から、学校に変な不審者が入ったと思われるらしんだよ」
「えっ。それやばいじゃないですか。でも、なんで不審者が入ったと」
蒼は知らないふりをしながら言うと、龍馬は説明をした。
「なんでも、最初に来た先生が職員室に入ったとき、それぞれの先生の机の上にナイフで書かれた罰があったらしいんですよ。不気味だよねぇ。あっ、でももっと不気味だったのは娘の担任の机なんだよね」
「どうして」
「なんでもなんだけど、机の上に大きくペンでバツが描いてあったみたいなんだけど、帰ってそれが不気味なんだよねぇ」
龍馬は「あぁ不気味」と言いながらご飯を食べた。蒼は隣でそれをやったのは自分だと心の中で言うと同じくご飯を食べた。
仕事をしている最中、娘を攫う際に使えそうな睡眠薬をこっそり自分のポケットに入れ、更衣室に行くと鞄の底に盗んだ睡眠薬を入れた。
攫う日は来週の土曜日。ちょうどその日は休みのおかげで自由の日だ。さらって、痛めつけた後にとその後のことを色々と考えた。
仕事場にいつも通りに行くと、龍馬が高校生ぐらいの子と笑顔で話している。
「龍馬さん」
蒼が声を掛けると、その女子高生も振り向く。蒼は顔を見て気がついた。
(このこ、龍馬の娘か)
昨日見た写真の子がなぜか職場に来ていた。
「あっ。美羽。この人俺の後輩の蒼って言うんだ」
「へぇ。いつも父親がお世話になっています」
美羽は純粋な笑みで言うと頭を軽く下げた。蒼はいえいえと返した。
蒼は今目の前にいる子が来週攫う予定の子。それもまさか自分の父親が働いている後輩に殺されるなんて思いもしないでいるだろうと思いながら蒼は質問をした。
「あの、今日はどうしてここに。それに、学校はどうしたんだい?」
「実は今日、娘はうちの奥さんと一緒に病院行っていたんだ。その薬を受け取りにね」
龍馬は軽く説明をした。蒼はそうですかと言うとこの後学校かなと美羽に質問をした。
「はい。あっ、じゃあ私はこれで。じゃあねお父さん!」
美羽は手を振りながらその場を去った。蒼はその光景を見つめながら更衣室に向かった。
そして5日間後、土曜日。蒼は髪を整え、伊達メガネを掛け、人がいた時の場合を想定しながら車を発信させた。
学校近くまで車を止め、誰かと待ち合わせているのだろうと思わせるように学校の近くの家に止めた。
待っていると、部活が終わった美羽が校門から出てきた。
美羽は校門を出るとすぐに部活の仲間なのか手を振りながら1人になった。蒼は周りを見渡し、人気がいないことを完全に確認をすると、駆け足で美羽に近づいた。
「美羽ちゃん!!」
「ん? あれ? 蒼さん、ですっけ。どうしたんですか? そんなに息を切らして」
美羽は演技をしていることにも気づかないまま蒼を心配した。
「実はさっきね、偶然に君のお父さんが忘れ物をしたから俺が届けに行ったらね、急に君のお母さんが倒れたんだ」
「えっ!!! どうしてですか」
「わからない。けど、お父さんが電話で伝えようとしたんだけど、君のことを迎えに行く時に説明するって言ってね。君のお父さんに頼んで学校の場所を教えてもらったんだ」
「そうなんですか。それで、母は」
「大丈夫だと思うけど、ともかく早く車に乗ろう。俺の車はあっちにあるから」
「はい!」
美羽に駆け足で蒼の後を置い、車に近づくと蒼は持っていた睡眠薬入りのハンカチを彼女の口に強く押し当てた。突然のことに暴れたが、すぐに眠ってしまった。
蒼はすぐに後ろのボンネットを開け、美羽を入れるとガムテープで手足を縛り上げ、毛布を掛け、荷物を入れるとチャックを開けてスマホを探し、見つけ出すと袋の中に入れてボンネットを閉めた。
車の中に入ると、ダッシュボードに入れていたハンマーでスマフを粉々にした。
そして、車を走らせて調べた時に見つけた廃墟に向かった。
廃墟に着き、ダッシュボードを開けると起きたのか怯えている美羽が涙目で蒼を見つめていた。
「あー、起きたか。まぁいいや、とりあえずこの中に入れるね」
蒼は持ってきたキャリアケースを開け、暴れる美羽に拳で一度殴り、締めると重いが駆け足で廃墟に向かった。
廃墟の中に入り、再びキャリアケースを開けて、ガムテープを取り外した。
外すとすぐに美羽は叫んだ。
「ちょっと! どうゆうことですか!! 母が倒れたんじゃあないんですか」
「あぁ、あれ。嘘。ただお前を誘拐したいだけに作った嘘」
蒼の冷たい視線に美羽は震えた。
「実はね俺、小学生の頃から人を殺し続けてね。それでこの前君のお父さんが幸せそうに君のことを話していたから気になったんだよ。幸せな家庭に突然の悲報、そして、娘の無惨な姿を見た時の表情と感情。それが見たくて見たくてねー、だから、ごめんね」
蒼はそういうと持っていたハンマーで美羽を殴り続けた。
泣き叫びながら父親に助けを求める姿を久々に見て全身の毛が立ち上がり続けて興奮が止まらなかった。
骨が折れる音が響き渡ってさらに興奮が高まっていった。
しばらくして美羽はぴくりとも動かなくなった。その光景を見た蒼は「ふー」と言うと、雨ガッパを着て、靴の上に袋を履くと、カバンの中から電動ノコギリを取り出し、綺麗に手足と首を切り取った。
大量の血が雨ガッパにかかり、まるで模様になった。
袋の中に綺麗に体を詰め込み、キャリアケースの中に再び入れて車に戻ると駆け足のように走り去った。
家に着いたが、いつもとは違う入り口から入り、自分の家に入るとふぅと一息を着いた。
すぐにバラバラにした美羽を冷蔵庫の中に入れ、送るための箱を探した。すると、スマホが鳴った。
なんだろうと見てみると、龍馬からだった。
出ると、息荒くしている龍馬の声が聞こえた。
「あぁ、蒼。なぁ、娘を見なかったか?」
「娘? 美羽ちゃん、だっけ? 見ていないけど、どうして」
「実はまだ帰ってきていないんだよ。いつもならこの時間帯には家にいるはずはのに」
「友達の家とかに遊びに行っているんじゃあ」
「それかと思って、妻がその女友達のママさんに連絡を入れたんだけど、誰とも一緒じゃないって」
息が荒くなっていく龍馬に蒼は落ち着いてと声をかけた。
「とりあえず、警察とかに言ったらどうですかね。俺、あんまわからないんですけど」
「それならさっき警察に言ったんだ。きっとどこかで何かしているんじゃないかって言われたけど、探してくれるみたいでさ」
「それはよかった。だが、心配だな。俺も準備したら探すの協力するよ。あっ、写真送ってくれないかな? いろんな人に声をかけて君の娘を見たかどうかも気になるからさ」
「わかった。ありがとう蒼」
龍馬はお礼を言うと電話を切った。蒼は慌てている姿に再び興奮を覚えた。
(あぁ、これはすごいなぁ)
蒼は箱の中に綺麗に娘を入れた。送られていくるパズルのように形を整え、血が垂れないように新聞を罪かさえ腐らないように保冷剤を大量に入れて、ガムテープでしっかりと整えた。
「よし。バレずに送るようにしよっと」
蒼は言いながら箱を抱えると、扉を開けた。左右に誰も以内ことを確認をすると駆け足で車に向かった。重かったが車の中に入れると一息整えて、布をかけて再び駆け足で元の階まで戻り、部屋に入ると深いため息を漏らした。
久々に走ったせいか心臓の音が鳴り止まない。
冷蔵庫の中に入っている水を一口のむと、再び外を出てエレベーターに乗り、車に向かった。
「ふぅ。本当に疲れた。やっぱ一回にすればよかったかな?」
蒼は今度住む場所を変えようかと悩みながら車を走らせてすでにバラバラに死んでしまった娘を探しに行った。
数人以上探しているせいか、すでに空は真っ暗に染まっていた。蒼は再び電話をした。
電話をすると、焦りの声を出している龍馬が出た。
「あぁ、蒼か。美羽は」
「いや、全然だよ。警察とかはどうなんだ?」
「夜近くになっても探してくれているんだけど、どこにも」
「そう。俺も家に行っていい?」
「あぁ、構わない。お前も疲れているだろ」
「いや、むしろお前の奥さんは大丈夫なのか?」
「全然大丈夫じゃない。むしろ不安がっているんだ」
龍馬の言葉に全身がゾクゾクしてきた。
「あぁ、わかった。ちなみに龍馬は家で待機している感じなのか?」
「そうだ。警察にそうしてくれって言われててさ、探したいのは山々なんだが」
「まぁ話は後だ。今向かうから住所言ってくれるか?」
蒼はそういうと、龍馬に住所を教えてもらい、電話を切った。
家に着く前に後ろの席の下に段ボールを置き、布を被せると車を走らせて龍馬が教えてくれた住所に向かった。
家に着くと、周りに人がいないことを確認し、龍馬も出てこないことをわかるとダンボールを黒い布に隠し、見えにくい場所に置くと静かにインターホンを押した。
押すとすぐに龍馬が出てきた。
「あっ。蒼。ごめんな、遅くまで」
「いやいいさ。それよりも、奥さんは」
「ずっとテーブルに、とにかく上がってくれよ」
龍馬は蒼を上らせた。リビングに行くと顔を真っ青にしている龍馬の妻がいた。
「あっ、蒼さん」
「大丈夫、じゃないですよね。すいません」
「いえ、むしろ娘を探すのを協力してくださってありがとうございます。せっかくの休日を」
「いや、気にしないでくださいよ。俺全然暇をしていたし、何よりも娘さんが行方不明で不安なのはわかりますよ。大事な娘さんですもん」
龍馬の妻は何度もありがとうございますと言いながら頭を下げていた。
「本当にごめんな、蒼」
「いいよ。全然気にしないでくれよ
蒼はふと、ポケットを弄るフリをして忘れ物をしたと一言言うと、駆け足で外に出てすぐに布をどかして扉の横にし、布を小さく畳んで自分の体の中に入れると偶然いま見つけたかのようしながら龍馬に声をかけに行った。
「龍馬ー、何か頼んだのか?」
「えっ。どうして」
「外に段ボールがあるからだよ」
「は? 何も頼んでいないけど」
龍馬はそう言いながら玄関に行って段ボールを見た。同じく奥さんも一緒にきた。不思議そうにしながらも玄関の灯りを付け、鋏を持った。
段ボールが切られていく音に、蒼は胸の鼓動が高まった。
そして
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
一瞬にして、周りに大絶叫の音楽が奏で上がった。それもそのはず。段ボールの中には娘の無惨な姿だった。
蒼はニヤける口元を抑え、怯えた表情を作りすぐに警察に電話をした。
蒼はすぐに龍馬に離れるように言いながら2人の顔を見た。
涙を流しながら叫び続けている。そして、絶望の表情だった。
龍馬は心配するフリをしながら2人の顔を脳裏に焼き付けながら、心の中で深く笑みを浮かべていた。
「その後は警察が来て、あいつにも色々と事情を聞き出そうとしたけど娘の姿を見てなーんにも話さないし、奥さんの方なんか精神に異常をきたしてたと思う。これでおしまい。どうだったかな?」
龍樹は蒼の話に脳裏にはそのバラバラにされた娘の姿が浮かんで恐怖というものを感じた。
ただ絶望姿が見たいがために人を簡単に殺すなんて異常をきたしている。
「あっ、ちなみになんだけどさ、龍馬どうなった? 俺さー、知ってるのはその後、仕事をやめて家に引き篭もった感じしか知らないんだよねぇ」
蒼は天井を見上げて言った。
「ねぇ、もしも調べられたら教えてよ。死ぬ前に知りたい。あいつが、俺のことをいまどんなふうに思っているのか」
蒼はニヤニヤしながら龍樹に言った。
「わかった、いいだろう。きっと喜之さんが知っているかもしれない」
「あー、あの人かぁ。確かにあの人は警察で一番偉いしわかるかもね。あっ、ちなみになんだけどね」
蒼は楽しそうな顔をさせながら立ち上がり、ベットの方から一枚の紙を取り出して目の前に差し出した。
そこには人が叫んでいる絵だった。
「なんだこれは」
「これー? これは俺が生で見た絶望の叫びの顔。これがずーーーーーーと頭の中に残ってたから暇つぶしに書いたんだー」
「そうか」
(ひどく、不気味な絵だな)
龍樹はイラストを見ながら思った。
「あーあ、でもあともう少しで終わりかぁ」
蒼は悲しそうな表情をして言った。
「なんだ。今さから死ぬのが怖いのか?」
「ううん。全然、死ぬことは怖くないんだけどさ、龍樹先生と話せないことを考えると寂しくしてさー、先生は悲しくないけど、俺はとっても悲しい。ここまで人と話したいなんて思ってもないからさ」
龍樹は蒼の言葉に不思議そうにする姿に疑問を持っているとポケットに入れていたペンが落ちたため、拾おうよするといきなり檻の方から手が伸びてきた。
いきなりのことに驚き、龍樹はその場に倒れてしまった。
蒼を見ると、蒼は真顔のまま手を伸ばしていた。
「なっ、いきなり何を」
「触りたいなぁ」
「は?」
いきなりのことに龍樹は思わず声を漏らした。
「俺はずーーーと人を殺した後に対処をしている。それは人を殺した人誰だって同じ。時と場所によっては見つかってやっかい。その時の感触、今もあるんだ。温かった肌が徐々に冷たくなっていく感触。一生死んでも忘れられない素晴らしい瞬間。だけど、龍樹さんにも触れたい。恐怖を感じながら話を聞かされて心臓の鼓動を聞きたい。直に」
そう言っていると、扉が激しく開かれる音が響いた。
「おい! 蒼! 貴様何をしている」
喜之は駆け足で龍樹に近づき、蒼からできるだけ距離をとってくれた。
蒼はただ触れたいだけと言った。
「何が触れたいだけだ!! 龍樹さん。もぉでよう」
喜之は龍樹をつれて部屋を出た。
「はぁ、大丈夫ですか?」
「えぇ、ありがとうございます」
龍樹はお礼を言った。
「いいよ。礼なんて言わないでくれ。やはりあの男は危険だ。今すぐにでも中断をするように言おう」
「あっ、大丈夫です。ただ触れようとしたんで」
「ですけど、それになぜだ? あの男が君に触れたいなど」
龍樹は蒼が言ったことを言うと、喜之は「はぁ」と呆れた顔をした。
「触れたいだって、そんな理由のために」
喜之はため息をはいた
龍樹は喜之に先ほど話を聞かされた同僚について言った。喜之は「あぁ」というと表情を暗くさせた。
「あのことも覚えている。確かあの後、龍馬さんは精神に異常をきたしてしまい病院に入院。今も病院でこの世にいない娘と話している」
「話しているって」
「ずっとだ。壁に向かってぶつぶつとね」
喜之は気の毒そうに言った。
「そうなんですか。奥さんの方は」
「奥さんの方は、自殺未遂。何度も両親が止めて、後は旦那と同じように病院に入院をしたが」
「したが、なんですか」
龍樹は嫌な予感を感じながら質問をした。
「奥さんは、病院内で死んだ」
喜之の言葉に龍樹は目を一瞬見開いた。
「医者が軽く、優しい声で質問をしている時に突然ペンを奪って刺したんだよ。自分の胸を」
「……それほど精神を病んでしまったんですね」
「あぁ、俺だってもし娘をあんなふうにされたら叫ぶどころか精神が夫婦以上に病んじまう。それから、このことは一切父親には言っていない。もし、言ったりでもしたら」
「復讐するために病院を脱走するかもしれないと」
龍樹の言葉に喜之は頷いた。
「それにしても、龍樹くん大丈夫かね」
「えっ。どうしてですか」
「何せ、あいつのためにここ毎日話を聞きに行っている。体力だってかなり消耗するほどだ。それに、顔色も」
喜之の言葉に「あぁ」と龍樹は返事をした。
確かにここんところ蒼の話を聞いているせいか体調がすぐれないでいた。
「本当にいいのか? あいつには色々な理由を」
「いえ、託された仕事は最後までやり切ることが俺の中でモットーなんで。それに、明日で最後ですし」
龍樹はそう言っていたが、喜之は心配そうにしていた。
「くれぐれも無理はしないでくださいよ。あいつのために体調を崩すことなんて」
「心配ありがとうございます。でも、大丈夫です。終わったらちょっとは休みますけど」
「えぇ、是非ともそうしてください。何せあのような殺人鬼のために動いてくれているんだから」
2人は話しながらその場を去った。
全ての仕事を終えた龍樹はマンションに戻ると、倒れ込むかのようにベットに倒れ込み、天井を見上げた。
頭の中から本当のことかのように言った蒼の顔が浮かんだ。冷たく、本当に触りたくてたまらない視線。あの視線を思い出しただけでも寒気を感じた。
(なんであいつは俺を選んだんだ)
蒼はそんなことを思いながらもシャワーを浴びに言った。
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