殺人鬼の物語
羊丸
第1話 最初のお話
弁護士の仕事は色々とある。
家庭内のこと、事件のこと、遺産に関する依頼が様々ある。中には明らかに自分が負ける依頼までしてくる人物がいて弁護士は苦笑いするほどがいてしまうほどだった。
寒い10月、事務所の中で少しだけ茶髪が混じり、短い髪をした弁護士の田中龍樹は先ほど相談に受けてきた人の書類をひとしきりまとめるとふぅと大きくため息をした。
「はぁ、少しだけ休憩するか」
龍樹は椅子から立ち上がると、コーヒーを淹れるために立ち上がり、そばにあるケトルを沸かしてどのコーヒーにしようかと缶の中に入っているコーヒーを眺めた。
龍樹は20代後半の若手でありながらそれなりのキャリアを持っている。何人かの人を助けていく姿が注目され、いろいろな人に信頼を得られていた。
コーヒーを沸かし終え、息を吹きかけて冷まし、ちびちびと飲んでいると電話が鳴り出した。
なんだと思い、龍樹は電話に出た。
「はい。こちら田中弁護士事務所です」
「あぁ、田中さん。私、大馬喜之です」
声と名前を聞いた龍樹は「あぁ、喜之さん」と声を上げた。
喜之は警察庁の刑事部長。1年前、娘さんが夫の浮気についてのことで相談を持ちかけられた時に知り合い、それ以来時々飲みに行くような中であった。最初会った時は先生と呼ばれていたが、龍樹は普通に名前で呼んで欲しいと頼んだ。
「お久しぶりです。お元気ですか」
「あぁ、元気だよ。急にすまないね。連絡をしてしまって。忙しかったか?」
「いえ、今一通り終えたところです」
「そうか。ならよかった。実は、連絡をしたのは頼みがあるんだ」
「頼みですか。お友達ですか? それとも娘さんのご友人ですか?」
龍樹はそう言ったが、喜之はすぐに違うと否定をした。
「龍樹くん、この前捕まった凶悪殺人鬼を覚えているかね。死刑も決まっている」
「あぁ、あの人ですか」
龍樹は喜之のその話を聞いて顔を歪ませた。
2ヶ月前、数々の年齢関係なくの無差別殺人や猟的な殺人を五年近くしていた男、伊藤蒼が捕まった。
そいつは家族、小中高生、20代の女性や男性、そしてその他の人たちを残虐に殺していた人物だった。
だが1年前、女子高生を1人誘拐して拷問をしている最中に警察に捕まった。その時の女性は生きながら手足を切られていたというなんとも胸糞が悪い事件だった。
捕まったあと、そのことに数日以上はそのニュースで持ちきりだった。
そのことを思い出しながらも、どうしてその男の名前が出てきたのだろうと疑問の言葉をぶつけた。
「それで、どうしてその話が今」
「あぁ、実はだな、私もこの話を聞いた時流石に受け取れんと思うんだが、いってもいいかな?」
喜之の言葉に龍樹はあの男は今更弁護を頼むのかと考えていると。
「あの男が死刑になる前に君と話したいというのだ」
「えっ。話したい?」
「あぁ、なんでも自分のこれまでのことを一日一日少しずつ話したいと言われてね。どうだね、君が良ければなんだが」
喜之はきっとこんなバカげたことだと思ったのか、龍樹はたとえ無差別に人を殺す人でも弁護士なためそれぐらいの願いも受け入れなければと思った。
「いいですよ」
「ほっ、本当か!?」
受け入れたことに喜之は驚きの声を上げた。
「えぇ。このあとはー」
龍樹はメモ帳を見てみたが、特に何も予定はなくただ書類をまとめるだけだったため今日行けたら早めに行こうかと考えた。
「この後はただ書類をまとめるだけなんで、準備したらいけますけど、今日は行ってもダメですか」
「いやいや。むしろ大丈夫だよ。準備したら来てくれるんだったらそれでいいさ。もし行くんだったら今私が迎えに行こう。こっちから頼んだからな」
「いえ、自分で行きますから大丈夫ですよ」
龍樹はそう言ったが、喜之は「いやいや」と言った。
「本当なら会いたくない相手とここまで付き合ってくれるなんてむしろありがたいことだから、これぐらいのことはさせてくれ」
必死にいう喜之の言葉に龍樹は甘えることにした。
「じゃあお言葉に甘えて。荷物はあらかたできていますので喜之さんが準備整った時に来ていただいて大丈夫です」
「そうか。わかった。私は拘置所に電話を入れてから行く。もし、行く時になったら連絡はしとく」
「わかりました。それでは」
龍樹は電話を切ると、外にいる女性秘書の小野田佳奈に声をかけた。
「小野田さん」
「はい! なんでしょうか」
「この後、予定があるから何か電話が来たら対応してくれ」
「わかりました」
龍樹はそう言うと早々と部屋に戻り、早々と準備を済ませたと同時に喜之から今から警察署を出るよいう電話が来た。
龍樹はわかりましたと言うと電話を再び切り、忘れ物がないかの確認と必要なものは全てカバンの中に収めたことを確認をして、仲間に挨拶をしてから事務所を出た。
事務所を出ると、喜之が車のそとで待っていた。
龍樹は駆け足で喜之の名前を呼んだ。
「あぁ、龍樹くん。すまないね。君も色々な人と相談をかけられそうなのに」
「いえ。大丈夫です。それじゃあ、早々といきましょうか」
龍樹の言葉に喜之はそうだなと口にしてお互いに車に乗り込んだ。
運転をされながら龍樹は聞きそびれたことを喜之に言った。
「あの喜之さん。ちょっと聞きたいことがあるのですがいいですか?」
「あぁ、なんだね。なんでも言ってくれ」
「どうして彼は俺を指名したんですか? 彼にはすでに他の弁護士がいるはずなのでは」
龍樹がそう言うと、喜之は「あぁ」と言った。
「それは俺もわからないんだ。弁護士も同様で、なんで俺ではダメなんだと質問をしたら君と話しても楽しくないから。死ぬ前に話すなら彼と話させてほしいと言ったんだ」
「それだけですか」
「あぁ、それだけだ。なんとも不自然で気味が悪い男だ」
喜之は深くため息を付くと早々と向かっていった。
目的の留置所に着き、カバンを持つと建物内に入り、一人の警察官が喜之に軽く敬礼をすると案内を致しますと言って案内をしてくれた。
時々他の犯罪者の弁護のために入るが、龍樹は異様な空気がなかなか好きにはなれない。案内をされながらも外からは囚人の掛け声らしき声が聞こえた。
長い廊下を渡っていると目の前に扉があった。その横には1人の警察官が3人に敬礼をした。
そこで喜之は険しい顔を見せながら振り返った。
「ここからは龍樹くん。君だけが行くことを彼に許可されている。もちろん頑丈な柵の中に入れられているから危害は加えられないから安心したまえ。何かあればすぐにこの人たちが部屋に来る。部屋の出口辺りだけに防犯カメラある」
「なぜ出口あたりだけに」
「窓には柵がされているからあいつが尚更出ることはできないからだ。あいつは会話を録画されるのは困るらしい。だから監視はされていないが」
喜之はポケットからボイスレコーダーを取り出した。
「これで録音をしてくれ。何かと私たちも役立つ情報が出るかもしれないから」
「わかりました」
龍樹は返事をし、ボイスレコーダを受け取った。
喜之は扉の横にいる警察官に開けてくれと声を掛けた。
扉の開かれる音が建物内の壁に響き渡る。その音を聞いた龍樹は息を呑んで部屋に入った。
中は思ったよりも少しだけ広く、壁は一面灰色の壁。檻の中には一つだけの柵で覆われた窓が一個。そして一つのベットと椅子だけ。
そして、後ろの扉が閉じられる音が響く。龍樹は一歩ずつ目の前に用意された椅子に近づいていった。
中は思ったよりも少しだけ広く、壁は一面灰色の壁。檻の中には一つだけの柵で覆われた窓が一個。そして一つのベットと椅子と一個だけのライトのみ。
ベットの上には黒の服を着た奴がいた。眠っているのか状態のまま本を顔の上に載せていた。
「来てくれたんですね。龍樹センセ」
奴は龍樹が一歩ずつ近づくことを聞こえてのか眠ったまま突然喋り出すと、ゆっくりとベットから降りると本が地面に落ちた。
そして、そばにある椅子を持って少しずつ近づいてきた。徐々に顔が見えてきた。
少しだけ長い黒髪。整った顔立ちをした顔が檻の中から見えてきた。
凶悪殺人鬼、怪物として恐れられた蒼は龍樹のことを見ると不気味にニヤリと微笑みながら持っていた椅子をそばに置き、腰掛けた。
「嬉しいよ。死刑される前にあなたと話せるなんて」
「俺にとっては多少疑問を感じるがな」
龍樹はカバンを椅子の横に置くと同時に自分も椅子に腰掛けた。
「さて、まず最初に先生から質問をしていいよ。ここに突然来られて疑問に感じているんだろ」
蒼は足を組み、龍樹にそう言った。
「ありがとう。まずなんだが、なんで俺に自分のこれまでのことを話したいんだ? 君にはすでに弁護士がついているはずだ。なのになぜ俺を指名したんだ。理由は単に楽しくないからと担当に言ったようだが、たったそれだけなのか?」
龍樹の質問に蒼は「それだけ」と一言いった。
「あんなただた単に助けたいための弁護士なんて、俺にとってはあんまりにも面白くもなんともないやつだ。それにもぉ俺は10月の10日、1週間後に死刑がすでに決まっている。それもあと残りの時間は自分の好きなことをしたいんだ」
蒼は笑顔で答えた。死ぬことが怖くも感じられないほどの笑みだった。
「そうか。なら、どうして俺を指名したんだ? 他にも弁護士なんて沢山いるはずだぞ」
龍樹は自分の中で最大限の疑惑を質問した。
「あぁ、まだ捕まえる前に殺した人の家でテレビを見たときね。先生を見かけたことがあるんですよ。ほら、2年前にやった最近話題の若手弁護士に取材。覚えてない?」
「よく覚えているな」
龍樹は蒼の話の内容にとても覚えていた。2年前に一度だけテレビ取材をされたことがあった。
「まさかあれだけでか? あれだけだと俺の指名した理由があまり」
「ううん。あとはだなー、まぁそれは一通り終わってからにしようよ。これはじゃあせっかく呼んだ意味がない」
ニヤリと微笑んでいう蒼に龍樹は息を呑んだ。
「そうか。それで、自分のこれまでの話か?」
「あぁ、そうだよ。確か俺が殺した人たち、最も重要的にいいなと思った人たちの話をしよう」
龍樹は真剣な眼差しを送りながら、蒼は小さく微笑んだ。
「それじゃあ、俺が最初に殺した俺の弟の話をしようか。あれは俺が小学生時代の話だ」
蒼はそう言って語り始めた。
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