第2話 弟

 小学6年生の蒼はいつものように自分の部屋で宿題を進めていると、扉がノックされずにそのまま開かれた。その音を聞いた蒼は深いため息が出た。


 入ってきたのは弟だった。弟は普段なら何か勝手に借りてそのまま部屋を出るが出ないと言うことは遊びに誘う気なんだろうなぁと思っていると。


「兄ちゃーん! 遊ぼうぜ!」

「嫌だ。今宿題をやっているだろう」


 蒼が拒否をすると、弟はその場に寝そべって駄々こね始めた。


「いーやーだー! 今すぐ! 今すぐ遊んで遊んで遊んで!」


 まるでアニメのような感じに手足をバタつかせて駄々をゴネ始めた。


 すると、洗濯物を家の中に取り入れている母親が大声で叫んだ。


「ちょっと蒼! お兄ちゃんなんだから弟を泣かせてはいけません!」


 母親は蒼を叱る声を上げると、再び服を家の中に入れるためにその場を去った。


 弟が泣くとすぐに母親は蒼を叱る。何も見ていないのに虐めたとかなどの思い込みで叱ってくる。


 蒼はイラつきを抑えながらも弟と一緒に夕飯が始まるまで遊んだ。


 夕飯が出来上がる前に父親が帰ってきた。


「ただいまー」


 父親の帰ってきた声に家の中にいた3人はおかえりと笑顔で答えた。


 夕飯を並べ、いただきますと声を掛けると黙々と食べ始めるのだがすぐに弟は今日起こった出来事を話した。


 父親も母親も夕飯を食べながら弟の話を聞いていた。蒼は黙々とご飯を食べていると弟が横から残りのハンバーグの欠片を「ちょうだい!」と言いながら食べようとしてきた。


「あっ! おい。何すんだよ! これ俺のだぞ!」

「えぇ。少しだけなんだし良いじゃん!」


 蒼は弟にハンバーグを取られないように暴れていると、父親が叱りつけた。


「こら! 食べ物で争うな。蒼も食べ物が取られるぐらいでぐだぐだ言うんじゃない」


 父親は蒼を叱ると弟には何も叱らずに自分のハンバーグをあげるから静かにしろと言うと黙々食べた。


「そうよ。蒼。ハンバーグならいくらでもまた作ってあげるから」


 母親もそういうと再び黙り込んだ。その行動に蒼のお腹が煮え繰り返りそうなイラつきが再び高まった。今ここで全てのものを弟や両親にぶつけたい。血まみれにさせたいという気持ちが高まっていたが、心を落ち着かせるように平常心を保つふりをしながら食事をすすめた。


 食事を終え、早々と浴室に行き、頭と体をすぐに洗い終えると風呂の中に入り、頭までお湯の中に入ると叫んだ。息が切れると再び起き上がり、酸素を吸うとまた風呂の中に入って叫んだ。


 蒼は何かイラつくことがあると風呂のお湯の中で叫んでいた。お湯の中は防犯ガラスの感じなため叫びやすい。


 蒼は叫びながらもどうしてこうなったかを振り返った。


 最初はあんなふうに怒られてはいなかったが、弟が生まれた一年後からあぁゆうふうになった。弟の誘いに乗らなかっただけで弟は猿のように泣き喚く。そして母親に怒られる。


 ただお気に良りのカードを大切にしているのに貸してとギャン喚く弟がそう言うと父親に怒られる。


 それを他を繰り返され、蒼の中には鬱憤が溜まりに溜まっていた。


 イライラが落ち着き、お風呂から上がると途中の宿題を済ませるために早めに自分の部屋に行った。


そのまた数日後、あることをきっかけに蒼は殺すことを決心した。


 学校から帰った蒼は楽しみにしていたプリンを冷蔵庫から取り出し、蓋を取ってスプーンで食べていると、母親と一緒に帰ってきた弟がプリンを食べている蒼を見て「あぁ!」と声を上げた。


「兄ちゃんずりぃ。なんでプリンあるの! 僕も食べたい! 半分ちょうだい!」


 そう言いながら手を伸ばしてきたがすぐに嫌だろ叫ぶと、母親が後ろからやめなさいと叫んだ。


「優斗の分は昨日食べたばかりでしょ。また今度買ってあげるから、今日ぐらいは我慢しなさい」


 母親の叱りに弟は頬を膨らませながらその場を去った。


「蒼も、弟が早く帰ってくる前にチャチャっと食べないとあぁゆうふうになるんだからね」


 母親の小さな叱りに蒼は心の中で「は?」と思った。


(なんで俺が怒られてんの? 僕はただ自分の好きなものを食べただけなのに)


 蒼はイラつきが止まらず、早めにプリンを食べ終え、自分の部屋に戻るとベットの上にある枕を掴んで何十回も殴りつけた。それを自分の弟だと思いながら何度も何度も殴ったり蹴ったりを繰り返した。


 本来ならば壁にも投げつけたいという気持ちもあるが、今下にいる母に聞こえられたら後先面倒だと思いながら何度も殴りつけた。


(あぁ、殺したい殺したい殺したい殺したい。顔を全部ぐちゃぐちゃにしたい)


 そんなことを思っていると、ふとあることを思い出した。


(そういえば学校の近くに廃墟の一軒家が立っていたはずだったよな)


 蒼は時々嫌なことがあった時寄り道をする時があった。学校の近くには少しだけ古びたマンションがあり、その先に取り壊されていない古びた3階建ての建物があった。


 そこは一様心霊スポットとして名付けられている物だった。数年以上前に3階建ての建物の1階は何かの店で、その上はマンションが借りられていたと言われてはいたがなぜだか閉店となり、マンションに住んでいた人物たちもその場を去った。


 あまり有名ではないのため、学校では噂が立っていない。


 蒼は何回かそこに行ったことがあるため大体の道のり、そして人気のなさをわかっていた。


(……殺すか)


 蒼は心の中で決心をすると、どのようにすれば良いのかを考え始めた。


 実行するなら親が遅い日。両親共どちらも働いているが母親は週に2日しか働いていない。2日間の中には木曜日が入ってる。その日なら同じ時間帯に帰れるはずだ。


 蒼はそう考えるとどのようにしようかとノートでまとめた。


 その日が来るまで蒼は今までの言動を全て自分の中に収めた。


 そしてついにその日が訪れた。蒼は朝イチに弟を自分の部屋に入れると自分が考えた嘘の話を始めた。


「自分たちだけの秘密基地を見つけんだ。そこに今日行こうと思う」

「えっ! 本当に?」

「しっ、これは俺とお前だけしか知られてはいけない秘密基地だ。だから父さんと母さん、そして他の友達にはまだ黙ってくれ。いいな。もし喋るんだったら連れて行かない」


 蒼が真剣の表情で言うと、弟は「わかった! 黙る!」と言った。


 弟は朝食の時間になっても両親の前でポロッと秘密基地に関することは言わなかった。


 蒼はカバンの中に弟を殺す道具をまとめた。教科書とノートはその日の授業の内容分だけ置いて行き、そのほかは全て家に置いて行った。


 学校が終わり、待ち合わせ場所で待っていると弟が息を切らしながら走ってきた。


「兄ちゃん! 人に見られないようにきたよ」

「あぁ、偉いな。じゃあ行くぞ」


 蒼は弟の腕を掴むと早々と人に見られないようにするために駆け足でその場所に向かった。


「あれ? 兄ちゃんなんで手袋なんかしているんだ?」


 弟は透明な手袋をしている蒼に疑問を感じていた。蒼はそんなことには答えずあの廃墟へと向かった。


 廃墟に行くと、弟は「すげぇ」と小さい声で歓喜の声を上げた。


 古びた扉を開けると、長年放置されていたせいか酷く荒れていた。古びたソファとひび割れた天井とガラスが大量に散らばっていた。


 そんなことも気にせずに、駆け足で2階の部屋に向かった。


 2階に上がると四つの部屋がある。その一つ目の部屋に入った。


 中に入ると、前は会議室だったのか椅子と埃まみれの壊れたテーブルが置かれていた。


「すげぇな。ここの廃墟。これは絶対に親には秘密だな」

「……あぁ」


 蒼は着々と準備を進めている中、弟は頬を膨らませた。


「あーあ。こんなことならお菓子とか少しだけ持ってくればよかったなぁ」

「……お前さ、俺の気持ちって考えたことあるか?」

「えっ?」


 いつもと違う蒼の様子に弟は少しだけ警戒をした。


「お前が駄々をこねれば俺が怒られ、ただ取られるご飯を守っただけで怒られ、ただ好きなお菓子を食べているだけで叱られた俺の気持ち、考えたことあるのか? 俺は何回も何回も何回も何回も何回も」


 蒼の口調の荒さに弟は謝り出した。


「ごっ、ごめん。まさかそんなに怒っているとは思わなくて、本当に、ごめ」


 謝ろうとする弟に蒼は持っていた石で殴りつけた。弟はその場に倒れると何が起こったのかわからなかったのか自分の頭から流れてくる血を見て表情が怯えた。


 蒼はすぐに弟に跨るとポケットの中に入れていたタオルと弟の口に突っ込んで少しだけ小さめの石で一心不乱に殴りつけながら怒鳴った。


「お前が生まれたせいで俺はいつもお前よりも叱られてばかり! おまけにただのお菓子食べているだけで叱られる。だがお前は何をしても軽く許されてるなんてなんでだよ! なんでお前だけが有利なんだよ! なんでなんでなんでーーーーーーー!」


 蒼は一人しきり長年の恨みをぶつけ、手を止めた。弟の顔面は血まみれになり、口に入れていたタオルは歯が折れたのか血に染まっていた。


 弟は涙を流しながらモゴモゴと何かを言っている。蒼はそんなことを気にしないでカバンの中からハンマーを取り出すと腕に目掛けて振り下ろした。


 ベキっと骨が折れる音が響き渡る。そして弟の声が響き渡っていく。


「痛いか? まぁ痛いよな。骨の周りには血管とかあるもしれないからな」


 静止しようとする弟に御構い無しで残りの腕と足に目掛けてハンマーを振り下ろした。折ると同時に弟はお漏らしした。


 汚いと思いながら足と腕の骨を折終え、再び弟を見た。弟はただ痙攣をさせながら涙を流している。叫べないなと思った蒼は口に入れている布を取り出した。


 案の定、弟は顔面を血だらけにさせながら何本かの歯が折れていた。布からパラパラと音が立てられた。


「ご、めん、な、さい」


 弟は顔面を血だらけにさせながら言った。


「……気持ち悪っ」


 蒼はそう言うとハンマーを顔面に向けて振り下ろした。その瞬間、頭の骨が割れる音が響くと弟はそのまま動かなくなった。


 ため息を漏らすと、一応のために遺体を横にあるテーブルに隠し、血まみれのハンマーをハンカチで拭き、ランドセルの中に詰め込んだ。石を弟の口の中に入れるぐらいまで入れると、手持ちの鏡で顔に付いている血を拭き、何も髪が落ちていないことを確認をして頭に帽子を被った。


 被ると慣れない大きい靴で廃墟を走り出た。なるべく自分の家まで行くと、そこで足を緩めた。腕時計を見ると、4時半になっていた。


 持っている水筒を飲み、再びまた駆け出した。家に着き、父親の靴を綺麗に磨き、いそいそと家の中に入るとカバンの中に入れていたハンマーをそっと父親の部屋に戻し、カバンを自分の部屋に入れた。


 そして再び時間をみた。時刻は5時5分となっていた。


(よし。これで母親に慌てるそぶりを見せながら電話をしよう)


 蒼は母親に電話を掛けた。


「もしもし」

「もしもし! 母さん! 大変なんだよ」


 蒼の焦りに、母親も少し合わせた様子が見えた。


「何? どうしたの?」

「それが、優斗のやつが家に帰ってきていないんだよ」

「えっ! 今日、一緒に帰っていないの?」

「いや、だってあいついつも友達と帰るからそれで帰ると思ったんだけど、友達の家にそのまま遊びに言っているのかな? 電話とか取れないから」


 蒼の涙声に母親も多少の焦りを見せた。


「母さん今、ゆうとの友達のお母さんとお父さんに連絡をするからあなたは大人しく家にいないさい」

「うん! わかった」


 電話が切れたことを確認すると、蒼はふぅとため息を付いてソファに座り込んだ。


(これで少しは落ち着くな。あの遺体。少しだけ目立ちにくくしたけどいつかバレるよね。まっ、それで母親の精神が崩れてもおばあちゃんの家に済ませればいいだけの話だからな)


 蒼はうーんと背伸びをすると、すぐに母親が連絡をしてきた。再び演技で慌てるそぶりを見せる準備をして電話に出た。


「蒼、どこのお母さんにも連絡しても優斗どこにもいないわ!」

「そんな! それじゃあ、どこに」

「わからないわ、お母さんにパート先の人と話して早めに帰るようにするから蒼はそのまま家で待っててちょうだい」

「わかった。警察には連絡したの?」

「お父さんがしてくれたからそこは大丈夫よ。だから、蒼は家で待っててね」

「うん」


 蒼は小さい声で言うと再び電話が切れた。


 電話が切れるのを確認すると再びソファに座り込み、テレビをつけた。


 冷蔵庫から牛乳を取り出すとグラスの中に入れて飲み込んだ。冷たい牛乳が喉をつたって胃の中に流れ込むのと感じた。


 大きく息を吐くと流しに戻し、ポケットの中に入れていた血まみれのタオルを粉々に切り刻んだ。袋にいれ、自分の部屋のベットの下に入れるた。


 家で待っていると激しく扉が開かれる音がして蒼は駆け足で行くと焦っている母親と父親が帰ってきた。


 蒼はそこで涙を流した。


「父さん、母さん、ごめん。俺、まさかこんなことになるなんて」


 その姿に両親は優しく抱きしめた。


「大丈夫だ蒼。お前のせいじゃない。父さんたちだってこんなことになるなんて想像もつかなかった。さっき警察に捜索届けは出した。きっとすぐに見つかるはずだ」


 そう優しく抱きしめられながらも、蒼は小さくニヤリと微笑んでいたのだった。


(警察があの廃墟に行かなければ永遠に見つからないけど、流石に見つかるよな)


 そんなことを思いながらもお互いにソファに座りながら警察の連絡を待った。夜の11時になっても電話は来ない。父親は周りをうろうろとしながらイライラをしている。


 もちろん蒼の隣にいる母親だって同じことだった。時間がすぎるたびに不安が高まっている。


「警察の人はまだ見つからないのか? ここまで待たせるなら俺らも探して行ったほうがいいはずなのに」


 父親は不満を垂らして言った。母親は持っているハンカチを握りしめながら弟が無事に帰ってくることを願っている。


 だが、そんな願いはできない。


(廃墟の中で血まみれで汚いまま死んでいる姿見たら、父さんも母さんもどんな感じになるのかなぁ)


 蒼がそんなことを思っていると、父親のスマホが鳴った。


 父親はすぐに出た。母親と蒼は体を向きを変えて父親を見た。


「はい……は? そんな! まだ見つかっていないのに探してくれないのですか!」


 父親の言葉に母親と蒼は捜査が一時終了したのたんだなと思った。


「くそっ、あんたらに頼むんでも結局は途中で停止されるんだな。わかった、俺らだけで探す!!」

 

 父親はぶっきらぼうにそう言うと、電話を切った。


「警察の奴らが今日のところは捜索を一時的に中止するだそうだ」

「えぇ。そんな」

「今から父さんはあちこち探してくる。お前らは家にいてくれ」

「まっ、待ってあなた。私も探しに行くわ。蒼は一人で家で待てる?」


 母親の言葉に蒼は「うん」と頷いた。両親は寝るように言いつけると身支度を整えると早々と家を出た。


 蒼は風呂に入ると見つかった時のことを想像しながら眠りについた。


 翌日の朝、蒼が起きると両親は疲れ切った表情をしながら椅子に腰掛けていた。


 母親は蒼を見ると「おはよう」と言った。


「見つかった?」


 蒼の言葉に二人は首を横に振った。蒼は何も言えない表情を作りながら隣に座った。


「お父さんたち、今日は会社を休んだ。お前も学校を休みなさい。一応、誘拐だって可能性は十分にある。だから部屋にいてもいいぞ」


 父親はそう言うと、再び黙り込んだ。


 蒼は部屋に戻ると言い、自分の部屋に戻った。戻った蒼はこのまま見つからなかったらどうなるんだろうなぁと思いながら漫画を見ていた。


 ふと眠りについていると、肩を叩かれ起きた。見ると、そこには明らかに涙を腫らした母親が蒼の肩を優しく掴んでいた。


「母さん? どうしたの?」

「……蒼、落ち着いて、聞いてね」


 母親はそう言うと、再び泣きながら弟が死体として発見されたと言われた。


 蒼はそんなと被害者を演じて悲しい表情を見せた。


「今、お父さんが確認をしているから、だから、うっ」


 母親は言うのがキツくなったのか蒼の前で泣き出した。蒼はそんな母親を慰めるかのように強く抱きしめ、お互いに泣いたのだった。

 



「そこからは、色々と葬式なんかもしたんだ。これで弟の話はおしまい。どうだった? なかなかだったろ」


 話を終えた蒼は子供のようにはしゃぎながら話を終えた。聴き終えた龍樹は息を吸うのを忘れていたのか呼吸を繰り返した。


 嫉妬から始まった小学生の頃の殺し。それも血の繋がった弟を惨たらしく殺すのは流石にいないはずだと感じた。


「……お前、殺した時どんな気持ちだったんだ。血のつながった弟を殺して」


 龍樹の言葉に、蒼は「うーん」と考え込んだ。


「そうだな。まずはスッとしたかな。いわゆるとても心が落ち着いたんだよ。これで落ち着いた生活を取り戻せたなぁって」

「悲しい気持ち」

「ん?」

「悲しい気持ちはなかったのか?」


 龍樹の厳しい視線でも、蒼は動じずに笑顔で答えた。


「それは感じなかったさ。ただスッとした感情しかわかなかった」

「お前にとってそう感じても、両親は絶望を感じていただろ」


 龍樹はそう言うと、蒼は「あー」と言って説明した。


「確か数週間ぐらいは落ち込みまくってたなぁ。でも、まだ未成年だった俺のことを気遣ったのか、前に進まなきゃってお互いに話してからそれから。何事もなかったような日常にしていたぜ。いやぁ、中々だったな」


 蒼は反省もしていないのか自分の髪をいじりながらニヤニヤとしていた。


「でも、中々傑作だとは思わないか? だって初めての殺しであんな風に殺せる小学生なんていないだろ。おまけに計画的なことだって」

「そんなわけあるか!!!」


 蒼の発言に龍樹は怒り叫んだ。


「幼い子、そして血がつながった弟をそんなふうに殺すことが傑作? そんなわけがない。お前がやっていることは異常性を達したやつがすることだ!」


 龍樹の叫びに蒼はニヤリと微笑むと足を組んだ。


「この世界中には嫉妬や恨みが紛れているだろ。その中には殺しだって紛れている。だから、俺だけが異常者って、それって差別じゃない?」


 蒼はニヤリと微笑みながら龍樹を見つめた。確かに兄弟や姉妹の中には嫉妬をする人がいる。時には殺しを紛れているのはあっている話かもしれない。


 龍樹は何も言えないままでいると、蒼は今日は帰っていいよと言った。


「だって、先生だって忙しい中俺のところに来たんだろ。なら尚更家に帰って休むといいさ。だがちゃんと次も来てね。私は死んでしまう人なんだからさ」


 蒼は真剣な眼差しを向けて言った。龍樹はわかったと一言言うと檻から出ていく間際に。


「これ、外にいる警察にも言っていいからね!」


 蒼の言葉を無視して出ていくと、喜之は「大丈夫か?」と駆け寄ってきた。


「えぇ、まぁ」

「何を話されたんだ」

「昔のことです」


 龍樹はそう言うと「えっ!」と言った。


「話したのか? 昔のことを」

「えぇ」

「簡単にか?」

「はい。結構スラスラとなんですけど、それがどうかしたんすか?」


 龍樹は驚きの声を上げた喜之に質問をした。


「いや、何を話すかと思ったらまさか昔のことを話すとは思ってもいなかったから。それでなんだが、何を話したんだ」


 留置所を出ていきながら龍樹は殺した弟に関することを話すと驚きの声が出せないのか顔を歪ませた。


「なんてことを、小学生時代に実の弟を酷い殺したかをしていたなんて」

「えぇ、嫉妬からの殺人ですね」

「あぁ、まさか」

「えっ。どうかしたんですが」


 龍樹の言葉に喜之は蒼の履歴書に関することを話した。


「あいつの両親は、蒼が大学生時代に行方不明になっていることが書かれていてな。まさか、あれは」

「それはきっと、あいつがいつか話してくれると思いまよ。死刑が執行される前まで毎日ね」


 龍樹はそう言うと、喜之の車に乗り込んだ。

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