第4話 恋人・莉亜

「龍樹先生。今日も来てくれて嬉しいよ。俺の話をそんなに気に入ってくれるなんて」

「馬鹿か。お前が話たいと言って俺のことを指名したんだろ。それなりの時間を開けることをしているんだ。感謝してくださいね」


 龍樹はうんざりしながらいつものように椅子に座った。今まで弁護士の仕事をやってきた中で蒼はかなり精神を鍛えられる行動だった。


「それじゃーー、今日は高校一年の時にできた恋人の話をしよう」

「恋人?」

「うん。俺は一度だけ、告白されたことがあるんだ。まぁそんなことはどうでも良いからさ、話を始めるね」


 蒼はそう言って、話を始めた。




 高校一年となって半月が経ち、暑い季節がやってきた。


 蒼は制服のシャツをバタつかせながら歩いた。背中がジメジメと感じられる中、学校の外で待っていた。


 待っていると「お待たせー」という声が聞こえ、振り返るとポニーテールの女性が駆け足で蒼のそばに駆け寄った。


「ごめんね。蒼。係の仕事が長引いちゃって」

「いいよ。それよりもお疲れ。莉亜」


 蒼はそう言って恋人の岡本莉亜の肩を軽く叩いた。


 莉亜とは6月、蒸し暑い日の中、学校の裏で告白をされた。告白理由は色々と助けてくれたことと、蒼が優しく微笑む所が好きということだった。


 蒼はその告白に承諾し、今は絶賛付き合い中ということだった。だが、この関係は両親や他の人には内緒にしている。


 莉亜も同じく両親には内緒にしていた。変に言われることが嫌なため、蒼と同じくその提案に承諾した。


「いやぁ、しかし本当に疲れるね。最近」

「あぁ、まぁ夏だからな。尚更熱くてたまらないからちょっと勘弁だな」

「そうだね」


 莉亜も蒼と同じく制服をパタパタさせながら話した。


 長く、暑苦しい道を歩きながらついに帰る方向が違う道になり、そこでお互いに笑顔で別れた。


 蒼は深いため息を吐きながら自分の家に向かった。


(人との付き合いって、こんな疲れるもんだっけ?)


 蒼は首を鳴らしながら心の中で思った。莉亜と付き合って一ヶ月はたったが、少々あいつといて疲れることが沢山ある。それは少しだけわがままな所だった。


 付き合った3週間後、あいつは時々抱きしめたり、キスを迫ったりしてきた。それを否定すると、莉亜は頬を膨らませて機嫌が悪くなる。


 蒼はその行動の後に機嫌を直すのがとてもめんどくさくて仕方がなかった。他のやつはこうゆうことで興奮をする人もいるらしいが、蒼は全く興奮はしなかった。むしろ教室で男子が隠れながら読んでいるエロ本にでも興奮と言うものが湧き上がらなかった。

 

 性に関して興味を示さない蒼に同級生の中には質問をする男子がいた。


「お前、なんでそんなにエロいことには興味ねぇんだよ。これ見ろよ。めっちゃエロいだろ」


 そう言いながらこっそり持ってきたエロ本の表紙を蒼に見せた。


「全然。むしろ、なんでこんな格好してんだって思うね。逆に」

「はぁ? お前、変な奴だなぁ」


 同級生の男子は半分不思議そうにしながら他の仲間にその表紙を見せていた。


 そんなこと思い出すと深いため息を漏らし、家についた。


「ただいまー」

「おかえり。蒼。とても暑かったでしょう。アイスあるから、手を洗って食べていいわよ」

「ありがとう。母さん」


 蒼はお礼を言うと、手を洗い、制服から私服に着替えると冷蔵庫の中にあるアイスにかぶりついた。


 冷たくて甘いのが喉を潤してくれた。ほっとため息を漏らしながらテレビを見た。ちょうどニュースでは恋人を殺す事件が流れてきた。


「まぁ、お気の毒ね」


 母親はそのニュースを見て表情を曇らせて言った。蒼はそのニュースを見てもなんとも思わなかった。思ったのは正しいことだなと言うことだ。


(別れるのって色々とめんどくさいんだよなぁ。どう言った内容を言えばいいのかとか、まぁそれを簡単に受け入れる女もいるだろうなとは思ったけど、あいつはそう簡単に別れを受け入れてくれるわけないもんなぁ)


 蒼は莉亜のことを思いながらアイスを食べた。


 食べ終わり、ゴミ箱に捨てると母親に先に風呂に入ることを伝えて風呂場に向かった。


 風呂場に入るとシャワーで全身の汗を流し、その後にシャンプーなどで髪や体を洗うと早々とお湯に浸かった。お湯が全身を包み込み、疲れを癒してくれる。


 深く息を吐くと、背伸びをしてあることを考えた。


(もぉいっそのこと別れるんだったら、殺すか。その方が別れ話とかしなくて楽だからな)


 蒼はそうしようと思いながら大きく息を吐き、お風呂から出た。


 夕食を済ませ、首を鳴らしながら自分の部屋に行くと背伸びをしてパソコンに座った。今度はどのように殺そうかと考えたがふと自分の頭に性と言う言葉が浮かび上がった。


(ん? なんでこの言葉が浮かび上がったんだ?)


 自分でもはっきりとはよくわからなかったが、なぜだかその言葉が浮かび上がった。


(うーん、なんだろうな。思春期か? 今更の)


 蒼はそう思いながらも、この前誰かがこっそりと学校に持ってきたエロ本を見た。だが、それを見てもなんも興奮が感じられない。


(意味がわからない)


 蒼はそんなことを思いながら莉亜を殺すための場所を探した。


 

 数日後の夜、莉亜を呼び出して夜内のデートをしようと言った。もちろんそのことに莉亜は多いに喜んだ。そして日にちをどのようにするか考えていると、莉亜の両親はちょうど帰る時間帯が遅くなると言う日にちがあり、その日にしようと決めた。


 両親も早めに寝るため、予定はかなりいい調子に進んだなと思った。


 いく場所は過去に殺した同級生と同じ感じ。なるべく顔が隠れるようにしながらマスクとダテのメガネを掛けた。


「お待たせーって、珍しくメガネかけているね」


 可愛らしい格好をした莉亜はいつもはポニーテールをしていた髪をカールにしていた。そして蒼がメガネをかけていることに驚きの声を出した。


「まぁな。早くいくぞ」

「うん!」


 蒼の言葉に莉亜は笑顔で答えた。電車に乗り、2、3駅過ぎるとすぐに駆け足で降りると防犯カメラになるべく映らないようにしながら駆け足でホームを出て行った。


 そして、場所は町外れにあるラブホテル。人気があまりなく、いわゆる心霊番組などに出そうな雰囲気だった。


「ちょっと。ここ怖くない?」

「大丈夫だよ。俺がいるからさ」


 蒼は微笑んで言うと莉亜の腕を掴んで早々とホテル内に入って行った。がれきと不思議な匂いを嗅いでますます昔殺した同級生のことを思い出す。


 事前には調べていたため、ベットが大きく、とても新品に近い部屋に入った。


 丸いベットと壊れた窓。床はほとんどひび割れていた。


「すごーい。まだベットなんてあるんだね。でも、埃まみれ」


 莉亜はおえっと言いながらもベットに座り込んだ。


「でも結局蒼はここで何をするのー」


 莉亜はイタズラっぽくニヤニヤしながら言った。これから何をされるのかが知らない莉亜の姿はとても動物に見えて笑みが溢れた。


「……面白いな」


 蒼はそう言うと、カバンの中に入れていたハンマーで莉亜を殴りつけた。


 ベットに倒れた莉亜は突然の痛みと衝撃に何も言えなくなっていた。ただ自分の頭から血が流れていることに気がついている間に蒼はすぐさままたがり、弟と同じく殺すかのように何度も殴りつけた。


 莉亜は何度もやめてと涙を流しながら頼んできたが、そんなことはお構いなし。血まみれの顔面で反応が少しだけ鈍った所に蒼はそばに置いていた鋏を取り出し、それを口に入れると思いっきりハサミの口を閉じた。


 ザクっと言う音と共に莉亜の叫び声が響き渡った。もう片方も切ると同じ反応を見せた。莉亜の姿は完全に血まみれの口裂け女になっていた。

 

 その姿を見ると、なぜだか自分の股間が熱くなるのを感じた。


(これが、発情か?)


 蒼は目の前の光景に初めて自分が息が上がっていることを知った。これはただ慌てているわけではない。興奮だ。目の前の死にかけている女に発情をしている自分がいるのだ。


(あぁ、なんで俺は目の前の遺体にこんなに)


 笑みが止まらない。ただ自分が大いに口元を上げながら興奮をしている自分がいた。


 呼吸を整え、なるべく落ち着かせようと何回も呼吸を繰り返した。ふと莉亜を見ると、完全に目を開けたまま眠っているように見えた。


 蒼はその光景にまたあの言葉を言った。


「気持ち悪っ」


 そう言うとハサミで頭を突き立てた。鈍く刺さる音が聞こえ、これで死んだなと蒼は思った。そして、交わってしまったために一応ハサミで全身を刺し続けた。


 全身をミンチにするほど刺し終えると、顔に着いた血とハンマーやハサミを全て拭き取ると早々と駆け足でその場を去った。


 夏のおかげであって額からはダラダラと汗が流れていく。息を上がりながら持っているペットボトルの水を一口ずつ飲みながら走り初める。


 なるべく体力をつけるため、毎回朝は軽くジョギングをしていた甲斐があったなと思いながらまた人気のある街に入って行った。


 汗を全てタオルで拭き、すぐ目の前で暇そうにしているタクシーを捕まえていつものように自分の家の近くまで送るように言った。


 もちろんあまり会話などはさせないために眠りについている感じにした。そして声をかけられるまでその態勢を保っていた。


 家に着き、家の中に入ると一度だけ自分の部屋に静かに入るとカバンを一時的に箪笥の中に隠し、今起きたかのように見せつけるための感じで風呂場に向かった。


 風呂場で全ての汗と証拠を無くすかのように洗い流していると扉が叩かれる音が聞こえた。


「蒼?」

「えっ。あぁ。母さん。ごめんね。起こしちゃったかな?」

「いいのよそれは。でもどうして夜中にシャワーなんか浴びているの?」

「ちょっと怖い夢を見ちゃって。それで汗がめっちゃ流れてたからシャワー浴びていたんだよ」


 蒼は適当に嘘をつくと、母親は心配の声をあげた。


「そうなの。大丈夫? 何かのむ?」

「大丈夫だよ。母さんは寝てていいからさ」

「わかったわ。おやすみなさい」


 母親が去ると、蒼はそのままシャワーで全身の汗を流し、寝巻きに着替えると早々と自分の部屋で眠りについた。


 そしていつも通りに起き、両親に挨拶。朝食を取ると早々と支度を整えて学校に向かった。


 背伸びをしながら、肩を周していると学校に着いた。


 教室に入り、カバンをいつも通り横に掛けると読書を進めた。そして、入ってくれば挨拶をする同級生には軽く挨拶をし返した。


 学校に来て十分以上経つと、先生が教室に来た。


 ソワソワとした表情が、過去の記憶を思い出させてくれた。


「皆、すまない。席に座ってくれ」


 先生の重苦しい声に生徒のみんなはなんだろうと感じながら大人しく席に座った。


「実はだが、1年B組の岡本莉亜さんが行方不明なんだそうだ。誰か連絡をしたものはいるか? なんでも良い」


 先生の言葉に生徒はガヤガヤとし始めた。


「えっ? 莉亜がいないってあの子どうしたんだろう」」

「さぁ、でも別に男がいるっていう風にも見えなかったし、変に恨みでも買ったのかな?」


 それぞれの疑問を口にしながらも、蒼はその話に乗りながらも心の中で笑っていた。いつかはあの無惨で最初は誰なのかがわからないぐらい。




「それで莉亜の遺体は2ヶ月後? に発見されたかな。見つけたのは心霊スポットに来た人。酷い腐敗臭の匂いがする所に行ったらミンチ状態の莉亜が発見されたんだ。もちろん、最初は誰なのかがわからなかったから警察が色々検査をして、それが莉亜だっていう証拠を見つけたんだとさ」


 蒼は手をぱちぱちさせながらおしまいと一言言った。


 龍樹はその話を聞いて心底吐き気を覚えた。半殺しの女子高生の遺体に興奮をするなど本当にいるとは思いもしなかった。


 気づけば自分の両手から汗が出ているのを感じられる。


 唾をゴクリと飲むと、いきなり蒼は塀の中から腕を出して「わっ」と声を上げた。


 いきなりのことに龍樹は椅子から床に倒れ込んでしまった。その光景を見た蒼は「ハハハ」と笑いながら手を叩いた。


「おもしれぇ。やっぱり良いよ龍樹先生。貴方を選んで本当に良かった。もし違う人だったら俺はこんなに楽しめないよ」


 手を叩きながら笑う蒼に胸の中が熱くなった。


「あんた、良い加減にしろ!!」


 龍樹は叫ぶと思わず蒼の胸ぐらを掴んで引き寄せた。その表示に鉄格子に蒼の額が当たる音が響き渡る。


「俺にとってお前は憎悪、悪魔の姿にしか感じられない。平然と半殺しておきながらそんな下品なことを! お前は善意というものが少しでもないのか!!」


 龍樹の怒号の声を聞いても、蒼はニヤリと微笑むと真顔になった。


「言っとくが、こんなふうになったのは俺の両親だ。俺の両親が殺人という衝動を起こさせたんだ。弟をあまり叱らず、そしてもう1人の俺を呼び覚ましてしまった両親が悪いじゃないか」


 蒼の真顔の表情に龍樹は手を離した。

 

 蒼はふぅとため息を漏らすと、額から流れる血を見てニヤリと微笑んだ。


「おぉ。いいね、俺の額から血を出させるとはな」


 蒼はそういうと、「いやぁ、いい反応を見れた」と言いながら目の前の椅子に座った。


「今日もありがとう。家に帰って大丈夫だよ。今日も楽しい一日を過ごさせてくれてありがとう。あっ、だけどお願いがある」

「……なんだ」


 龍樹は顔色を悪くさせながら言った。


「できればなんだが、明日は午前中から来てほしい。次の話は、俺の家族に関する話だ。その後に、行ってほしいあるからね」


 蒼は深い笑みを浮かべたまま龍樹に言った。龍樹は疑問を抱いたまま「わかった」と返事をして早々と檻の外に出た。


 部屋を出ても自分の息が荒いことに気が付く。深呼吸をしている蒼の姿に喜之は心配をするように声を掛けた。


「おい。大丈夫か?」

「えぇ、でも。今日の内容はすごく、胸糞です」


 龍樹はカバンを掴む力が思わず強くなった。


「どうする。もぉやめても良いんだぞ。あいつは来月に死刑をするのだから」


 喜之は龍樹にそう提案したが、中断をするとあいつはきっと龍樹がそれほど弱い人間だと思われてしまう。


「いえ、最後までやりきります。あいつに弱い人間だって思われたくありませんからね」


 龍樹はそう言うと、喜之は「そうか」と口にした。


「それからなんだが、私は昨日夜、彼と君が写っているカメラを拝見をした」

「どうでしたか?」


 龍樹が質問をすると、喜之は険しい表情を見せながら顔を色を青くさせた。


「とても、彼が反省の色なんてこれっぽちも感じられない。むしろ、君に話している事を大いに楽しんでいる。おまけに、3回に渡って君と話しを進めているうちに表情も変わってきている」

「えっ? そうなんですか?」

「あぁ、徐々にあいつの表情は輝きを増していた。まるで好きな人に来てくれていることに喜んでいるような感じだった。他の人もその表情を見て曇らせていたさ」


 喜之はやれやれと言った感じの表情を見せた。龍樹は蒼の笑みが浮かんでいる表情を思い出すと少しだけ身震いをさせた。


「あっ。それから喜之さん。明日俺だけ行きます。彼に午前中から来てほしいと頼まれたので」

「えっ? なぜ」

「明日彼は、両親の話をした後にどこかに行かせるつもりなんです」

「それなら一緒に行こう。私も午前中に空けるように連絡を入れるとする」

「ですが、大丈夫なんですか?」

 

 龍樹はそう言うと、「心配はいらない」と喜之は笑みを浮かばせた。


「このことに付いては秘書にも言っている。それに俺はこう見えても昔は捜査一課の方にいた。おまけにまだ体力や格闘技だって自信がある」

「確かに喜之さんトップなのにたまに格闘技の練習に参加されますけれど」

「早起きだって順調だが、龍樹さんの方こそどうなんだ。事務所の方は」

「一応、秘書には明日は無理とさせて、電話対応と書類のまとめをさせてやります。それならなんとか乗り越えられると思うので」

「そうですか。それならなんとか安心ですね」


 お互いに明日のことを話しながら重苦しい場所から離れて行った。

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