第10話 二か月後


 なんだかソワソワと落ち着かない。

 腕時計を何度も、何度も確認してしまう。

 今日は土曜日。学校は休みだが、部活があるので出勤している。

 ランニングする生徒たちに悟られないようにしたいのだが、如何せん顔が緩んでしまう。

 今日の夜、久しぶりに芳乃さんに会える。

 事故から二か月が過ぎ、松葉杖も必要なくなった。やっと、やっとだ。

 職場に復帰してからも家でのリハビリと筋トレを続けて、以前より筋肉がついたと周りに驚かれている。

 まだ生徒たちと一緒に走り回る事は出来ないけれど、一緒にアップしたりして徐々に体力を戻している。

 こうして動けるだけで、嬉しい。


 玖木の奥さんから手紙が来たと芳乃さんから聞いたあの日の直ぐ後に、弁護士から連絡が来た。二人とも、障害賠償金を受け取ることを決めた。

 玖木は、先日実刑の判決を受けた。

 芳乃さんへの手紙の内容から察するに、そのまま刑に服するつもりだろう。

 その後は、連絡も何もない。

 芳乃さんを悩ませていた原因が無くなってくれたことに、俺は心底ほっとしていた。


 加恋はというと、大学の同期から久々に連絡が来た時、街中で俺より背が高くてスタイルのいい男性と歩いていたのを見たと聞いた。

 別れたと言ったら、どうせ振られたんだろと言ってきて訂正したくなったが止めた。

 正直、ほっとした。自分でも、突き放す様にしてしまってあまりいい別れ方じゃなかったなと思っていたから。

 でも、幸せになって欲しいというのは嘘じゃない。お互いの道を歩き出したんだと同期からの電話を切りながら思った。


 今日は朝の早いうちから始まり、昼休憩を挟んで二時頃まで練習がある。

 今だけ早く時間が過ぎる魔法とかないだろうか。ついつい腕時計を見てしまう。


「先生、今日なんかあるんですか? 何回も時計を見て、ずっとニヤニヤしてますけど。なんか、気持ち悪い。」

「気持ち悪いとは何だ、気持ち悪いとは。え、俺、そんなにニヤニヤしてる?」


 隣に立っているマネージャーの女子生徒が何度も大きく頷いている。隠しきれない嬉しさが、顔面から溢れているらしい。

 務めて真面目な顔に戻そうとする。

 が、マネージャーの一言でその顔も元に戻ってしまう。


「もしかして、このあとデートとか?」

「え、なんで分かったの?」


 マネージャーが、してやったりな顔でこちらを見ている。

 嵌められた、やってしまった。


「先生、単純。わかりやすすぎです。結構前から? 授業の時とかもウキウキしてる感じでしたし。」

「えぇ、そんなに? 嘘だろおい。」


 自分でも単純なのは自覚していて、できるだけ平静を装っていたがバレバレだったのか。腕を組みながら、がっくりと項垂れる。


「先生の彼女さんて、どんな人ですか?」

「え、何? 急に。今部活の最中だろ。」

「ちょっとくらい、いいじゃないですか。先生をメロメロにさせる彼女さん。どんな人か教えてくださいよ!」

「だ、だめだって、言ってるだろ!」


 物凄いキラキラした目で聞いてくるから、変な汗が出てきそうになる。

 動揺を隠そうとペットボトルのふたを開け、飲もうとしたその時だった。


「あんた、その彼女の目の前で女子高生とイチャイチャするとか、いい度胸じゃないの。」


 聞き慣れた声に振り向いて、見えた光景に思わず飲み物を噴き出した。

 薄緑色の金網の向こう。

 そこには腕組をして仁王立ちしている母と、ここにいるはずのないもう一人。

 喉の奥の変な所に飲み物が入りそうになって、ゲホゲホむせて涙目の俺。


「和弘さん。大丈夫ですか? それから冴さん、私、彼女じゃありませんよ。」


 心配してくれつつも、否定してほしくないところをさらっと呟く芳乃さん。

 やっと会えたのはいいが、何故母さんと一緒に居るんだ?


「何で母さんが、俺より先に芳乃さんと再会してるんだよ。狡くない?」

「どうせ、あんた部活あるし。夜になったら芳乃さん独り占めしちゃうんだから昼間の今くらい親友の私に貸しなさいよ。」

「はぁっ?! 貸すって芳乃さんは物じゃないんだよ。言い方に気をつけろよな。」

「あの、そろそろ止めませんか。かなり注目を集めていますし。」


 グラウンドの方に振り向けば、生徒たちがすぐ側でニヤニヤして何やらコソコソ話しながら見物していた。マネージャーまでその中に入って、彼女さんだってと皆に教えている。

 それを合図に、一気に囃し立てる生徒達。


「おい、お前ら! もう十週グラウンド走ってこい! ダラダラ走ったら承知しないぞ。」


 ぶつぶつと文句を言いつつ走り出す生徒達。

 何だかんだ素直で助かっている。

 後ろを向けば、芳乃さんがマネージャーにスポーツドリンクやらが入った重そうな袋を幾つか渡しているところだった。

 お礼を言うマネージャーに、


「重いから、気を付けてくださいね。あ、一緒に運びましょう。入っても大丈夫?」


と、声を掛けている。

 袋を運びながら、マネージャーと楽しそうに話している。誰かと仲良くなるのが上手だなぁと見とれていると


「鼻の下、伸びてるわよ。だらしない。」


 何時ものきつい一言が聞こえてくる。


「悪かったな。けど、なんでまた学校に来たの?」

「芳乃さんがあんたに早く会いたそうにしていたからよ。それに、あんただって早く会いたかったでしょ?」

「母さん。」

「何よ。」

「ありがとう。」


 俺がそう言うと、珍しく黙った。

 よく見たら、うっすら涙が滲んでいる。


「え? 冴さん、どうしたんですか? 和弘さん、冴さんに何したんですか。」


 母さんの所に戻ってきた芳乃さんが、母さんの顔を見て俺に厳しい視線を送っている。


「い、いや、誤解です。何もしてません。」


 いまだ疑いの眼差しを向ける芳乃さんに、


「何もされてないわ。大丈夫よ、芳乃さん。さ、そろそろ家に行きましょうか。お昼ご飯食べて、色々お話しましょう。」

「はい、でも本当にお邪魔してよろしいのですか?」

「いいのよ。夫にもちゃんと紹介したいし。

じゃあね、和弘。家で芳乃さんと待っているから。」


 母さんがこちらを見ずに後ろ手にひらひらさせながら歩いていく。

 芳乃さんは、俺に微笑んで『待ってます』と言って、母さんについていった。

 親友同士、何か話して楽しそうな背中を黙って見送る。何となく、羨ましかった。

 二人を見守る俺の元に、いつの間にか戻ってきていたマネージャーが笑顔で言う。


「彼女さん、素敵な方ですね。少し話しただけだけど、優しくしてくださって。

私、彼女さんのファンになりました。」


 え? 親友のみならずファンも作っちゃったの? 芳乃さん、何言ったんだよ。

 何か、俺、凄い人の事好きになっちゃったなと思いつつも嬉しくなっている自分がいた。

 それからは、サッカー部の顧問として指導に集中した。生徒達からの『気合入ってますね』なんて冷やかしを『基礎練習だけで今日は終わらせてやろうか』と脅しつつ乗り切った。

 いつもは練習後も学校に残っていることが多いが、今日は話が別だ。

 急いで学校を出て、家まで急いだ。


「ただいま」


と、言って玄関を閉めると、


「おかえりなさい。お疲れ様です、和弘さん。」


 玄関横の居間へ続く扉から、芳乃さんが出てきて出迎えてくれる。

 笑顔が、キラキラと輝いている。

 何とも幸せな光景に見とれて、リュックが肩から床に滑り落ちていった。


「出かけるんでしょ? …あんた、その気持ち悪い顔、さっさとシャワーでも浴びて直して来なさい。」


 きつい母の言葉で、やっと現実に戻ってこれた。


「芳乃さん、もう少し待っていて下さい。速攻で準備してきますから。」

「はい、待っています。」


 芳乃さんが笑って、瞳が見えなくなる。 

 駄目だ、可愛い。顔がにやける。

 リュックをずるずると引きずりながら部屋へ行き、途中から正気に戻ってシャワーを浴びに風呂場へ駆け込んだ。



「久しぶりですね。この道。」

「本当に、また来れたんですね。」

 

 ここは、小川の流れる散歩道。

 俺と芳乃さんは、あの研修所のある街へ来ていた。

 本当は、ここで直接待ち合わせをする筈だったけれど、母さんの車を借りて二人でやって来た。

 もう一度会うときは、あの散歩道にしませんかと俺から提案した。


「私も、そう思っていました。」


と返事が来て、同じ事を思っていたという事実だけでじんわりと胸が熱くなった。

 小川を二人でベンチに座りながら眺める。


「芳乃さん、俺、ずっと言いたかったことがあります。」


 芳乃さんの方を向くと、芳乃さんも俺の方を向いて見つめてくれる。


「俺は、最初にバスで出会った時から芳乃さんの事が好きでした。貴女の優しさや、教育に対する思いに触れて好きだという気持ちが大きくなっていきました。

本当は、芳乃さんを守りたいと思っていたのに、俺のせいで芳乃さんを悩ませてしまってごめんなさい。

芳乃さんが俺の事を守ってくれて、助けてくれて。俺の為に色々してくれた事、本当に感謝しています。俺は、芳乃さんが好きです。

今度こそ、俺が芳乃さんを守っていきます。

だから、俺と結婚を前提にお付合いをしてもらえませんか。」


 芳乃さんは、じっと見つめたまま動かない。

 暫くすると、左手に少し冷たくて微かに震えている手の感触。きゅっと上から握られる。


「和弘さん、あの時私が言った言葉を覚えていますか? 和弘さんが体に戻る時に言った言葉です。」

「覚えています。本当に嬉しかったのに、あの時は離れて行くのが寂しかった。」

「私も、寂しかった。私、人を愛するってことに自信がありませんでした。ずっと、一人で生きていくと決めていました。一人じゃなきゃいけないと思い込んで。

でも、和弘さんに出会って、私の世界は急に変わっていきました。楽しくて、愛おしくて。

好きです。もう、離さないで下さい。」


 見つめ合いながら、俺の左手と芳乃さんの右手で恋人繋ぎにする。


「もう、私の中に入りたいとか絶対に思わないで下さいね。」

「分かっています。絶対に思いません。」


 やっと笑顔になれた。芳乃さんが体を寄せて俺の肩にコトンと頭を乗せた。

 この重みなら、どんなに重くたっていくらでも耐えられる。

 夕焼けの空に夜の帳が下りようとしている。


「もう一つの目的地に行きましょうか。」

「はい。行きましょう。」

「じゃ、一旦ホテルに車と荷物置いていきましょう。」


 宿泊するホテルは、この前と同じ。

 今回違うのは、二人で同じ部屋に泊まるという事。

 部屋に入って、ダブルベッドが目に入る。

 荷物を置くなり、二人して足早に部屋を出て扉を閉める。

 見つめ合って、笑ってしまった。

 

 もう一つの目的地、風にはためく暖簾が見えてくると芳乃さんが小走りになった。

 繋いだ手を引っ張って、早く早くと急かす。

 二人で暖簾をくぐり、店内へはいると


「いらっしゃいませー。」


と、相変わらずの元気な声で出迎えられた。

 店員さんが、俺達を見るなり、


「あら! 久しぶり。本当に来てくれたの? ここに座って。ビールでいい?」


 二人で、はいと頷く。


「ビールのジョッキ二つ。それと、もつ煮込み多め。私のサービスで!」

「え? どうして?」


 俺が呟くと、にこりと笑って


「だって、今日はお二人、恋人として来てくれたんでしょ? デートで使ってもらえるなんて、嬉しいじゃない。また来てくれて、ありがとう。」


 二人の顔が飲む前から真っ赤になる。


「あいよー。ビールと煮込みね。」


 厨房から、ビールと大きめの器に盛られたもつ煮込みが運ばれてきた。


「楽しんでいってね。」


 店員さんが離れて行った後も、二人とも暫く顔を上げられなかった。


「あの、ぬるくなってしまうので乾杯しませんか。」


 芳乃さんの方から口を開く。流石お酒好き。


「そうですね。じゃぁ、乾杯。」


 ジョッキをかちりと合わせて、二人して一気に流し込む。ぷはあっと息をつく。

 胃が猛烈に熱くなる。


「やっぱり、空腹に効きますね。」

「はい。もつ煮込み旨そう。」


 二人でモツをつつき合って、笑顔になる。幸せでしかない。


「「美味しいですね。」」


 はっと二人で顔を見合わせると、隣で店員さんが爆笑していた。


「やっぱり、あなた達お似合いだわ。」


二人、笑顔で店員さんに答える。


「「ありがとうございます。」」


 前回と同じものを注文して、満足して店を出る。手を繋いでホテルへ戻る。

 ホテルまで、無言でも笑顔で歩いた。


 部屋に入ると、


「和弘さん。私、幸せです。」


 潤んだ瞳が見上げている。


「俺も、幸せです。ずっと、一緒に居てください。芳乃さん。」


 引き寄せて、腕に力を込める。

 芳乃さんも抱きしめ返してくれる。

 どれくらいの時間が経っただろう。

 お互いの心臓の鼓動、呼吸や、温もりや存在そのものを確かめあうように抱きしめ合った。

 芳乃さんが、欲しい。少しだけ離れる。

 頬に手を添えると、その手に瞳を閉じた芳乃さんの手が重ねられる。

 顔を上に向かせて、キスをした。


 スマホのアラームが二つ同時に鳴っている。そうして、同時に鳴りやんだ。

 左腕は頭に、右腕は背中に手を回し愛しい体を抱き寄せる。

 すっぽりと抵抗なく俺の腕に収まった。

 嬉しくて、思わず額にキスをする。

 クスクスっと笑い声が聞こえて、俺の背中に腕が回されてきゅっと抱きしめられる。

 だめだ、可愛い。


「おはようございます。」


 顔を見せないままで、小さな声が聞こえる。


「おはようございます。顔見せて。」

「嫌です。ちょっと、恥ずかしいので。」


 抱きしめていた体が反対を向いてしまった。

 後ろからまた抱きしめて首筋と背中にキスをすると、きゅっと体が硬くなる。


「朝ご飯食べたら、今日は何をしましょうか。」

「俺、芳乃さんと行きたい所があるんです。

一緒に行ってもらっても、いいですか?」

「それは構いませんけど、どこへ?」

「それは、着いてからのお楽しみです。」

「あ、でもそちらへ行く前にお土産買わないと。冴さんと約束していたお漬物。」

「やばい、忘れるところだった。忘れたら、今度こそボコボコにされる…。」

 

二人でクスクス笑いあう。


「こんな風に笑いあえる時間が来るなんて、想像も出来ませんでした。こんなに近くに温もりを感じて、幸せで、本当にいいんだろうかって思ってしまいます。でも…」


 芳乃さんが、俺の方にゆっくりと体を向けて真っ直ぐに見つめてくる。

 やっと、顔が見れた。


「やっぱり、私は和弘さんと一緒に居たいです。」

「俺もそうです。俺は、ずっと芳乃さんの傍に居ます。それから、芳乃さん。ごめん、我慢できない。」


 啄む様なキスから、ゆっくりと深いキスへ。

 こんなに愛おしいのに、我慢なんて出来る訳がない。時折漏れる吐息に触発されて、また少し理性という名のネジが緩んだ。


 チェックアウトの清算を済ませホテルを後にする。

 すっかり朝食の時間を過ぎてしまった。

 二人してお腹が鳴って、ぷっと吹き出す。


「芳乃さん、今何が食べたいですか?」

「うーん。お腹が減りすぎて何でも来いって感じです。」

「何でも来いって…確かにそうですね。」

「あ、あそこどうですか? 駐車場もあるし。暖簾も出てる!」


 フロントガラスの先には、一軒のラーメン屋が見えた。久しく食べてない。


「いいですね。行きましょう。」


 駐車場へ入り車を停めて、店へ入る。

 券売機で食券を買いカウンターに座る。

 俺はチャーシュー麵の醤油、芳乃さんは塩野菜ラーメン。

 それに餃子も追加して、二人で分けることにした。

 それぞれラーメンが届くと、いただきますと言って無我夢中で食べていた。

 ふと横を見ると、山盛りの野菜を箸で口に運び美味しそうに咀嚼している芳乃さんが居る。

リスの食事みたいに頬が膨らんでいて、見ていて幸せになる。


「ん? かずひろさん、ラーメン伸びますよ。」


 じっと見ている俺に気づいた芳乃さんが、もぐもぐしながら話す。


「美味しそうに食べるなと思って。ここのラーメン旨いですね。」

「はい。美味しいです。入って良かった。」


 また、瞳が見えなくなる俺の大好きな笑顔で笑いかけてくれる。

 ラーメンと餃子を食べ終えて、漬物屋で土産を買い目的地へ車を走らせた。


「行きたい所って、ここですか?」

「そうです。ここです。」


 芳乃さんが、戸惑った表情で俺を見上げている。想像していなかっただろうな。

 俺と芳乃さんは、小さなジュエリーショップの前に居る。

 実は、この二か月間ずっと考えていたことがあった。芳乃さんに結婚を前提に付き合って欲しいと伝える事と、それを受け入れてくれた時に指輪を送りたいというこの二つ。

 これは、俺の我儘だ。

 芳乃さんを、とにかく離したくない。

 早く、俺の芳乃さんだって周りに知らせたい。

 

「芳乃さん。俺、結婚のことを受け入れてくれたら、指輪を贈ろうって思っていました。結婚を前提にとは言ったけど、俺は今すぐにでも貴女と一緒になりたい。

戸惑わせてしまっているとは思います。でも、これが俺の気持ちなんです。

これから、ずっと一緒に居るって気持ちを形にして贈りたいんです。」


俺は、何て重くて、余裕がないんだろう。

少し俯いている俺に、芳乃さんが優しく囁く。


「和弘さん。私、職場に復帰して直ぐに同僚や生徒たちから言われた言葉があるんです。」


 俺が顔を上げると、何だと思います? と言わんばかりに見つめてくる。


「どんな、言葉ですか?」

「蒔田先生、表情が柔らかくなりましたね。何かいいこと、あったんですか?って」

「表情が柔らかいって、芳乃さんは前から素敵な笑顔ですよ。」

「ふふふ。有難うございます。それでね、そう言われる度にこう答えたんです。『ずっと一緒に居たい、大切な人が出来たんです。』って。」

「え?」

「その後しばらく、結婚式はいつ? とか自分が蒔いた種とはいえ大変でした。」

「え? えぇ?!」

「だから、そんな風に考えてくれていたなんて本当に嬉しいです。」


 驚き過ぎて開いた口が塞がらない俺。

 そのうち視界がぼやけてきて、気が付いたら頬に一筋の水跡が下へ進んでいく。

 それを拭ってくれる芳乃さんも、瞳にいっぱい涙を貯めていた。

 お互いの涙を拭い合って、また手を繋ぐ。


 店に入り、お店の人も驚くほどの速さで二人のお気に入りを見つけた。

 出来上がりまで、楽しみだ。

 早く指輪を嵌めたい。

 諸々の報告をすべく、二人で実家へ向かった。


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