墓守りの腕時計
ぎざ
〝死が二人を分かつまで〟
「おやすみ、カレン」
妻の最期は私が看取った。
目をつむって安らかに眠る妻の顔に土をかけた。
◆◆◆
仕事ばかりであまりかまってやれなかった。
今では「おはよう」と「おやすみ」を欠かさず掛けることにしている。
妻は私の留守中に魔物に襲われて命を落とした。もう誰も襲われないように、私が責任を持って、妻の墓を守ることにした。仕事を辞めて、墓守りとして生きることにした。なるべく妻の傍にいようと思った。
結婚したときに約束をしたのだ。
『富めるときも貧しきときも。病めるときも健やかなるときも、死が二人を分かつまで、互いを愛し、真心を尽くすことを誓いますか?』
『はい』
『はい』
恥ずかしながら、妻を墓に埋葬した後、私はその約束を思い出した。
〝死が二人を分かつまで〟
誓いの期限が〝死〟だと言うのならば、まだ間に合うと私は考えた。
妻はまだ死んでいない。毎日決まった時間に生き返るのだから。
ぼこっ。ぼこっ。
朝、私は家の窓から、庭にある妻の墓を見た。
妻のか弱い細い腕が、墓の土から、力強く飛び出していた。
「そうか、もうそんな時間か」
妻は毎朝7時に生き返る。
墓から飛び出した妻の腕が私にとっては時計代わりだ。
ゾンビに襲われた妻は、〝不死の魔物〟となって生まれ変わったのだ。
もう誰も襲われないように、妻が誰かを襲ってしまわないように、私は妻を毎日墓に埋葬している。毎日、妻の最期を看取っている。
以前はまったくかまってやれなかったが、今は妻に振り回されている毎日だ。はは。まったく手の掛かる妻だよ、お前は。
「うううううううううぅううぅうう」
「おはよう、カレン」
私は防護服に身を包み、歩み寄ってくる彼女を抱き留め、一度抱きしめた。そして、彼女の頭からポーションを振りかける。
すると、一時的に彼女は生前の姿を取り戻すのだ。
仮死状態になった妻を傍に横たえて、私は再び妻のために墓を掘る。
丁寧に。丁寧に。
それが私の仕事だ。
妻の墓を掘り、妻を埋葬し、妻の墓を守る。
彼女を、穴の底に傷つけないように寝かせた。
土を少しずつ、ゆっくりと彼女に掛ける。
妻が再び眠りにつく。
完全に妻の姿が見えなくなって、穴をすべて埋め尽くして。
私は両手を合わせて、彼女のことを想った。
「おやすみ、カレン」
〝死が二人を分かつまで〟
彼女が生き続けてくれるのならば、私は何度だって君を送ろう。
ふぅ、少し疲れてしまった。
君が再び目覚めるまで、私は少し眠ることにした。
完
墓守りの腕時計 ぎざ @gizazig
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