狼と赤ずきん

朝吹

狼と赤ずきん

(お題)

 『ある日、Aが居間でくつろいでいると、浴室から悲鳴が聞こえた。慌てて駆けつけたAが浴室内を見に行くと、そこには血の海が。すぐに警察に連絡したAだったが、その後、病院に入院することになった。…なぜか?』(100字)


・400字程度であること。

・Yes/Noの質問で辿り着ける内容であること。

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 女が警察を呼んでいる。

「浴室が血の海です」

 ふるえる声で女は説明している。

「犬の首です。浴室上部の換気窓から投げ込まれました」

 俺は女の声を堪能する。何か月ぶりだろうね。さあ懇願してみせろ。

「はやく来て下さい。怖い」

 可愛い。ぞくぞくしながら物陰から俺は独りごとを口にした。他に誰かいますか。

 電話に応えている彼女の声がする。

「誰もいません。わたし独りだけです」

 外には出ないで下さい。パトカーをすぐにご自宅に向かわせます。

 魚眼レンズには帽子だけが映るように立った。

 出て来い。逃げ回っていたその顔をみせろ。玄関を開けた女を突き飛ばして家の中に押し入った俺は偽物の警帽をぬぎさった。

 逢いたかったと何度も云った。はげしく抗う女を黙らせるために殴ったことを憶えている。

 女が呼んだパトカーのサイレンが聴こえてきた。


 アパートを突きとめ、ドアの死角に盗聴器をしかけ、斬り落とした野犬の首を被害者の家の風呂場に投げ込んだストーカーについて世間は騒いだが、被害者が退院する頃にはすでに事件は忘れさられていた。被害者は病院に迎えに来た恋人と町を立ち去った。


[了]



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狼と赤ずきん 朝吹 @asabuki

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