天国につながる公衆電話

桑鶴七緒

第一章 コバルトブルーに輝く路

第1話


あの時伝えられなかった思いを何かに託して伝えられたなら、君に僕の言葉を届けたいんだ─────。


あれは1月の冬休みが明けた日。


校庭の雪が溶け始めた頃、僕が担任を受け持つクラスにある1人の女子生徒が転校してきた。


朝礼時、生徒達は今時期に何故といったように不思議そうな表情をしながら彼女を見ていた。


僕は彼女を紹介した後、挨拶が終わると一番後ろの席に座るよう促した。


続けて1時限目の授業に入り、時々ざわついている生徒に注意をしては、僕から軽く雑談をすると合いの手を入れるように1人の男子が突っ込みを交わすと一瞬の笑い声が響いていった。


チャイムが鳴り職員室へ行き、自分の席に座るとスマートフォンにメールが届いていた。

その中の1通に見慣れないアドレスが表示されていたが生徒かと思い開いてみた。


「若林先生へ。この間の帰り道に公園の隅にある公衆電話を見つけました。画像のリンクを貼っておくので見てみてください。」


誰かのイタズラかもしれないと思った。URLさえ見当もない怪しさが漂っていた。とりあえずスマートフォンをバッグにしまい次の授業のある教室へ行った。


その日の授業が終わって教室の黒板や机を片付けていると、ある男子生徒がやってきた。


「あれ、先生まだここにいたの?」

「山岸か。そっちこそ今日は遅いな。どうした?」

「なんかスマホにさメール送られてきて、誰宛か分からないんだ」


彼のスマートフォンを見てみると、僕が見たアドレスと同じ文のものがそこにはあった。

彼にこっそりとその事を伝えると、既にURLを開いて見たらしい。特に悪質なものではないので、僕にも見て確認したらどうだと言ってきた。


「ちなみに何が載っていたんだ?」

「学校の近くにある公園。そこの外灯の下に公衆電話のボックスが写っていた」

「今どき珍しいな。そこに何があるんだ?」

「知らない。行って得する事もあるのかなって」

「何のために送ってきたんだろうな…」


結局その日はメールについては触れない事にした。


数日後の金曜日、職員室で昼食をとっている時、スマートフォンに着信が来たので、開いてみると先日と同じ内容のメールが送られてきた。

時間がないから早くその場所に行ってほしいという結び文が書かれてあった。


未だに送り主は分からないが、生徒の山岸が言っていたように、悪質なものではないから試しに僕もそのURLを開いてみた。そこにはたしかにあの時見た公園の公衆電話が写っていた。


住所が書かれてあったので調べてみると学校から徒歩で行ける近くの場所だった。僕は少し考えてその場所に行ってみる事にした。


17時が過ぎた頃、生徒の玄関口の靴箱で数人見送った後職員室に戻り、更衣室からジャケットを取り出して着た後に学校から出た。


メールに載っている住所を見ながら歩いて行くと、2キロ先の所にある公園に着いた。

周辺は住宅地で埋め尽くされた閑静な雰囲気。

敷地内の奥に画像で見た公衆電話のボックスがある。


人の気配がない分、どことなく不気味な感じがする。ドアを開くと青白い照明に照らされて昔から見る緑色の電話が1台。

その上には誰かの飲みかけのチルドカップが置いてあった。


ドアを閉めてしばらく止まっていたが何の変哲もない狭い空間。この暗さに多少は身震いでもするのかと思ったが、何も起こりはしなかった。

ドアを開けようとしたその時、突然電話が鳴り出した。すかさず受話器を上げて耳に当ててみた。


「…若林先生ですか?」

「はい。あなたは?」

「根町です」


先日僕のクラスに転校してきたあの彼女だった。


「どうしてこの電話にかけてきたんだ?」

「先生。その電話の事、知っていますか?」

「いや、今日初めて知った。何かあるのか?」

「その公衆電話、天国につながるんです」

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