第三章 第4話
それは以前、真美さんが見せてくれたメールの内容と似たもので、ここから近くにある公園の一角に公衆電話があるので、表示された期限以内に来て欲しいというものだった。
「なんで、私のところに送られて来たのかよくわかならい」
「それ、来たの今日だけ?」
「実は1週間前にも来た。迷惑メールだと思って削除したの」
「……この画像、見たことあるような場所だな。スマホ貸して……よし。俺のところに転送した。」
「大丈夫なの?」
「うん。念のためこっちにも控えておく」
翔さんが何かを察知したかのような表情を見た。僕は床に顔をつけて目線だけ彼の方に向けて見つめていた。彼女は先に寝室へ行くと、彼はパソコンを開いて何かを探していた。彼の足元に立ってテーブルの上を覗いてみると、どこかの公園らしき場所が写っていた。
「公衆電話って何だろう?」
「メールの中に書いてあったんだけど、この電話から指定の番号をかけると亡くなった人と話ができるみたいなんだ。そんな事ができるなんて、すぐに信じられるものじゃないよな」
「もしかして……
「どうだろう?本当なら奇跡に近いよね」
「僕、ここに行ってみたい。翔さん、明日連れて行って」
「若葉はどうする?」
「彼女が寝ている間がいい。僕たちでそっと出かけるんだ」
「君も大胆なことを考えるんだな」
「お願い、明日金曜日だよね?行けそうな気がする。何か匂いを感じるんだ」
「じゃあとりあえず……行ってみよう」
僕は少し興奮気味になっていた。もしこの事が本当なら、侑さんと話がしたい。5年も長く一緒にいたんだ。これが最後のチャンスになりそうだ。
──翌日になり、若葉さんと一緒に会社から帰宅してリビングへ行くと、翔さんが夕食の支度をしていた。僕は彼の足元に座ると、顔やニヤついているから自然に振る舞うようにしてほしいと言われた。食事時、箸が進まずにいる若葉さんの様子を翔さんは気づいて、何があったかと尋ねていた。
日中の作業中に使っていたパソコンが動かなくなって周りの同僚に話しかけたが、誰も相手にしてくれなく、それに気づいた上司の有田さんが対応してくれたと話していた。翔さんはあまり気にせずに自分の仕事に全うした方がいいと励ました。彼女の顔に笑顔を取り戻した表情を見て彼は安堵していた。
22時が過ぎて彼女は眠気が強くなってきたと言い寝室へ入って行った。23時前。翔さんと僕は寝静まった若葉さんの様子を伺いながら用意をして、できるだけ足音も立てないように静かにそっと出かけた。彼はスマートフォンを見て公園の位置を確認し、あらかじめ買ってくれた僕の首輪につけたリードを引きながら一緒に歩いていった。
2キロくらいは歩いただろうか、街灯の少ない道なりに入り狭い路地を抜けて左折すると、ある公園にたどり着いた。敷地内に入りベンチの奥にある電話ボックスを見つけた。
僕たちはその前に立ち翔さんがスマートフォンに添付されている画像と一致していると確かめるとそのドアを開いた。中には蛍光管が今にも消えかかろうとしていて、チカチカと点滅をし始めていた。彼は財布から小銭を取り出してスマートフォンを見ながら電話をかけていった。
すると、受話器の向こうから誰かの声が聞こえてきた。
「お電話ありがとうございます。堀内翔さまですね、お待ちしておりました」
「あの、実はもう1匹というか…犬を連れてきているんですが、彼が前の飼い主だった松浦侑さんという方と話がしたいんです。つなぐ事はできますか?」
「はい。お相手の方はルーシーさんでお間違いないでしょうか?」
「どうして、その名前を?」
「侑さまがお待ちしております。お時間が迫ってきてますので、替わっていただけないでしょうか?」
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