第ニ章 群青色の恋ひ

第ニ章 第1話

ねぇ、私の声が届くならもう一度2人で話をしようよ──。


ゴールデンウィーク明けのこの頃は日差しがどんどん温かくなってきている。そろそろ初夏の訪れを知らせるツバメのさえずりが待ち遠しい時期に入っていった。


今日は弟の一周忌。斎場には親族も数人来てくれて皆で彼の昔話を中心に会話が弾んでいった。法要を終えて皆で現地解散した後、私は再び墓に向かい線香を立てて合掌した。

後ろを向いて見渡すと農地や青々とした平野が広がっていた。父や母と一緒の墓に入れて、きっと彼も安心しているに違いない。


斎場の待合室のソファに座り、タクシーを待っていると、スマートフォンから1通のメールが届いていた。宛名は不明だがなんとなく気になり文章に目を通してみた。


「楠木真依さま。はじめましてこんにちは。あなたの知人から弟さまがお亡くなりになった事を聞きました。改めてお悔やみ申し上げます。あなたに見ていただきたい画像があります。下記のURLを添付しますので、ご確認ください。よろしくお願いします。」


なんだろう、新手のイタズラメールかと思った。送られてきたものを開いたところで、闇サイトに繋がってしまったら、元も子もない。

私はそのまま既読にしておきスマートフォンを閉じた。やがてタクシーが着いたので、駅まで乗っていった。


1時間ほど経ち特急列車に乗り換え、次の終点駅まで着く間、読みかけの文庫本を開いて時間を潰していった。2時間後下車するとホームには帰宅途中の社会人や学生たちで賑わいが溢れていた。連絡通路を渡り地下街を抜けて、地下鉄に乗車した。


18時、やっと自宅に到着して、駅で買ってきた弁当を袋から取り出して早速いただいた。

食事を終えて部屋着に着替えようとした時、ふと先程のメールの事を思い出した。なんとなくだが胸騒ぎのように気が立ってきて気になってしょうがない感じになった。


バッグからスマートフォンを出してメールのURLを開いた。すると、昔弟と一緒に遊んでいた高台にある公園の中の、一つの電話ボックスが写っていた。下にスクロールしていくと、何かの文面が載っていた。


「楠木真依さま。URLを見ていただきましてありがとうございます。この画像に写っている電話ボックスの中には公衆電話が設置されています。もう一度亡くなった弟さんとお話がしたくないですか?よろしければこの公園に行ってみてください。きっと何かが分かります。失礼します。」


まさかと思ったが、この画像に写っている公衆電話をかければ誰かに繋がるのだろうか。

私を誰かが待っているのだろうか。

何の迷信なのか、何のために私にそう伝えてきているかはわからないが、ここに行けば弟と話ができる───。


19時か。まだ外の夕日が薄暗い。何度も疑念を抱いていたが、何かに突き動かされるように、私は衣服に着替えて、家を出た。

最寄りのバス停から目的地の公園にバスで向かい、30分ほど揺られながら公園前のバス停で降りた。しばらく夜道を歩いていき、下り坂に差し掛かり更に歩いていった。


公園の敷地内に入り、外灯の光が今にも切れかかっているのを気にしながら脇道を進んでいくと、メールに添付されていた電話ボックスが目に留まった。

青白い電灯が怪しく光るのを見守りながら近づいていき、扉を開けてみると、緑色の公衆電話があった。

電話の上についている地域の電話案内の小さな看板プレートには誰かの落書きが書いてあった。


バッグからスマートフォンを出してURLの下に記載されてある電話番号らしきものを見ながら、小銭を数枚入れて受話器を取り番号を一つ一つ押していった。すると、女性の声が聞こえてきて、私の名前を知らせてきた。


「楠木真依さま。お待ちしておりました。本日は……弟の類さまとお繋ぎしてよろしいでしょうか?」

「はい……。あの、なぜ弟の名を知っているのですか?」

「こちらで類さまがお待ちですので、このままお待ちください」


数秒ほど待つと聞き覚えのある男性の声がした。


「……姉ちゃん?」


「類?類なの?」

「うん。久しぶりだね。相変わらず元気だね。」

「何がなんだかわからない。あのね、これどのように繋がっているの?あなた、どこからかけているの?」

「天国だよ。」

「天国?」

「俺、ちゃんと成仏できて天国にいれることになったんだ。」

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