第2話
冗談にもほどがあると言うと、これから伝える電話番号を言うのでメモをしてほしいと言ってきた。僕は慌ててバッグから手帳とペンを取り出して番号を書いた。
「根町、なんでこの公衆電話が天国につながるものだって知ったんだ?」
「知らない人からメールが送られてきた。開いたらこの事を知ったの。」
「来週改めて話を聞きたい。放課後に時間取れそうか?」
「良いですよ」
一度受話器を置いてメモをした電話番号を見つめていた。
今、自分が会いたい人…そうだ、亡くなった親父だ。
僕が大学受験を終えた日の翌日に命を絶った。
何故あの時彼は自らの過ちを犯してしまったのか、ずっと気になっていた。
大学に入学できた事、卒業後現役で教員になれた事を直接伝える事ができなかった。
親父の事を思い出していくと心臓の鼓動がトクトクと走り出してきた。
右手をかざしてみると少しだけ震えていた。
左手で押さえて息を吹きかけた。
深呼吸をして両頬を叩き、再び受話器を持ち上げた。
そうだ、小銭がいるんだ。
バッグから小銭入れを出して100円玉を数枚入れた。根町が教えてくれた番号をひとつひとつ人差し指で押していき、数秒待つと電話をつなぐ音が聞こえてきた。
誰かが電話に出た。
「こんにちは。若林さま、お待ちしておりました。」
「この番号って、亡くなった人とつながれるようだと聞いたんですが…本当ですか?」
「はい。今お話ししたい方は…あなたのお父様で宜しいでしょうか?」
「はい。あの…なんで僕の父親を?」
「こちらでお父様がお待ちになっております。替わっても宜しいでしょうか?」
「…お願いします」
コールセンター式の電話番号なのだろうかと疑問に考えていると、聞き覚えのある人物が出てきた。
「…
「はい。…若林、
「ああ、久しぶりだな。どうだ、あれから仕事はしているのか?」
「ええ。高校の教員をしている。今、担任を持っているよ。」
「そうか。じゃああの時から数えると、17年は経つのか。母さんは元気か?」
「はい。この間正月に帰って泊まったんだ」
「母さんの手料理は相変わらず美味いだろう?」
「はい…美味いよ。なぁ親父。どうして俺の受験の時に自殺なんかしたんだよ?」
「あの時な。俺も学校で生徒が荒れていてな。今と違って昔の子だちは凄く繊細だったんだ。教員同士でまとめるにしても、どうしようもないくらい悩まされていたんだよ。もう…何もかも嫌になってさ」
「だったら、どうして母さんや俺たち兄弟に話してくれなかったんだよ?
「あいつには申し訳ない。だが、今はやっと体も回復して働けているだろう?頑張って良かったと思っているよ」
「…結局、自分から死んで後悔してるよね?」
「そうだな…家族のありがたみがわかったわ。ただな、俺がいなくても皆んな自立して安心しているだよ」
「なんなら長生きして母さんとあちこち旅行でも行って欲しかったわ。母さん、パートで頑張って旅費貯めていたんだぞ。」
「それなら、お前たちで母さんを連れて行ってくれ。そうだ、俺の寝室の箪笥に皆んなに渡したい物が入ってる。探してくれないか?」
「何?」
「開けてからの楽しみにしてくれ。…ああ、もう時間だ。一哉、お前も無理しないで生徒たちと過ごしてくれ。じゃあな」
「親父、ちょっと…ダメだ。電話切れたし」
「若林さま、お父様とお話しできていかがでしたか?」
「できれば、また話したい。もう一度つなぐ事はできますか?」
「申し訳ございません。本日はお時間となりました。日を改めておかけ直しください。ご利用ありがとうございました。それでは、失礼します」
「えっあの…」
そのまま通話は切れてしまった。
僕は受話器を置いてしばらく呆然としていた。
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