第3話 恐怖の三十分。

それぞれの委員会のメンバーが決まって、入学して二週間後、初めての委員会が開かれることとなった。

しかし、風紀委員だけは、三十分遅れてのスタートだ。

…という放送を、颯志も、茉莉子も聞き逃し、二人だけで、誰もいない教室で三十分過ごす羽目になってすっまった。


颯志と茉莉子は、最初、教室を間違えたかと思い、事前に配られた用紙を見返しても間違えた感じはしない。

そこに、同じクラスの、隣の教室で委員会をやる、茉莉子の友達が、

「あれ?茉莉子、風紀委員は三十分遅れて始めるって放送してたけど、聞かなかった?」

と、この状況をやっと把握させてくれた。


しかし、状況を把握したとは言え、突然二人きりにされ、三十分待たなければならない。

二人の間に重い沈黙が生まれた。

茉莉子は、その重い沈黙に耐え兼ね、

「今日…寒いね…。もう春なのに…」

と、少し引きつった笑顔と共に呟いた。

颯志は、茉莉子の出してくれた助け船に、うまく乗る事が出来ずに、

「うん…」

とだけ応えた。

結局、残りの時間、二人は人見知り同士、会話も無ければ、その茉莉子の綺麗さに颯志はまともに呼吸さえ出来なかった。



茉莉子は茉莉子で、人見知り同士、無理に話さなくてもいい…などと思っていたが、これほど会話がないと、さすがに辛いところがある。

(私、嫌われちゃってるのっかな?)

などと、心配するに至った。



颯志は颯志で、入学式の時からの人気者に、気軽に話しかけたりして、また理不尽な事をされたり言われたりするのが怖かった。


自分は何も悪いことをしているわけじゃないのに、いつもそっと日陰を歩いてるつもりなのに、こういう所でスポットライトが当たる。

それが自分の運命なのか…と自分を呪うほど、この風紀委員になってしまった事に、後悔を覚えた。



――――…と今までの颯志ならばそう思ったかも知れない。

しかし、今回、この風紀委員になれて、颯志は初めて心から神様の存在を信じた。

いや、呪う方の神様は幾らでもいた。

自分を静かに見守ってくれない、只、自分を追い込む神様は、自分の上から、颯志のうろたえや、怯えを、笑ってみている気がしていた。

それなのに、神様は、ここに来て、初めて『天使』の存在も教えてくれた。



そんな中、初めて出会った『天使』。

茉莉子の方から自分に話しかけてくれるなどとは、思っても見なかった颯志は、柄にもなく、少し浮かれてしまっていた。

しかし、返せたのは、

「うん…」

の一言…。


(そりゃないだろう…)

颯志自身そう思ったが、それ以上言葉が思いつかなかった。

そして、三十分、茉莉子にどんよりした空気を与えてしまう結果になってしまった。



まさに、地獄の三十分だった…。

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