第10話 茉莉子の本当の、気持ち。
電車通学の尊と茉莉子は、駅まで着くと、お互い逆方向だった為、駅で別れて帰っていた。
しかし、今日は違った。
「今日、ちょっと話あるから、本宮の降りる駅まで一緒に行って良い?」
と、尊が神妙な面持ちで茉莉子に言った。
茉莉子は少し戸惑ったが、
「あ…うん。いいよ」
と言い、二人は電車に乗った。
茉莉子には見慣れた風景が電車の窓に流れる。
尊の話とは何だろう?
茉莉子は、少し怖かった。
いつもの景色が、電車の中すら色を変えて見せた。
背の高い尊の顔をそっと覗き込むと、じっと窓の外を見て、いや、何処か怒っているかのようにすら見えた。
そして、電車を降りると、尊はそれまでの穏やかな態度を一変させ、茉莉子の手を強引に握り、駅の裏に引っ張って行くと、無理矢理茉莉子にキスをしよとした。
それを、
「や!!!」
思わず、咄嗟に下を向き、茉莉子は拒んだ。
その茉莉子に、
「本宮、本当に俺の事好きなの?」
と、少し強い口調で尊は問いかけた。
「…って言うか…好きだったこと、あった?」
と、次は哀し気に言った。
その問いに、どうしても颯志が好きだと言えない茉莉子。
何故なら、『並街君が好き』と言った時、颯志が自分を好きじゃないなら、尊を好きだと言う事で逃げてしまえと思った事に、とてつもない罪悪感があったからだ。
「俺の事、見てなかったんだよな。本当は…」
と、突然心を見透かすように、尊が寂しげに言った。
「え…?」
まだ、キスを拒んでしまった事に、罪悪感と動揺を隠せないうちに、また本心を見抜かれた茉莉子。
「俺たち、なんであんなに目が合ったと思う?」
その質問に、茉莉子が心の中で言った答えは、
『武田君を見つめている事を悟られないように、尊に視線を逸らしていたから』
だった。
しかし、
「あれは、本宮が俺を見てたからじゃない。俺が本宮を見てたからだ」
戸惑いを隠せない茉莉子を無視して、尊は続けた。
「颯志が俺の傍にいたんじゃない。俺が颯志の傍にいたんだ。本宮の視線に入りたくて。本宮の視線を俺のものにしたくて…」
尊の告白に、驚く茉莉子。
「本宮が最初、俺を見てたのは俺の気のせいじゃないけど、それは、颯志に視線を送ってるのを悟られない為?」
もう、何も言えない。
こんな風に何もかもお見通しで、それでも何も言わず、何もしないで、一緒居てくれた尊に、茉莉子は罪悪感を通り越し、深い感謝の念すら湧いてきた。
「ごめん…。並街君…」
と、小さな声で言おうとしたが、茉莉子は深呼吸して、
「あの時小さな声で肯定したけど…から密かに、静かに、傷つけないように、…自分が傷つかないように、別れを言うなんてずるいよね」
言葉を詰まらせながらも、今まで聴いた事の無いくらい、大きな声で、真っ直ぐ尊の目を見て、茉莉子は言った。
「だから。大きな声で言うね。傷つけるの覚悟で言うね。ごめんなさい。私は、並街君の事、明るくて、優しくて、好きだったけど、それは恋じゃない。ごめんなさい!!」
ポロポロ涙を零しながら、自分の本当の気持ちをや手と言えたことに、ホッとする茉莉子。
「じゃあ、やっぱり颯志が好きなの?」
「…うん」
「やっぱりか…」
「うん…」
涙の止まらない茉莉子に、
「頑張んな!応援してる!」
尊がそう笑うと、
「笑ってくれてありがとう。私が武田君の事好きなの知ってて、長い間優しくしてくれて、本当にありがとう」
そう言うと、尊は、笑顔をぐしゃぐしゃにして泣き始めた。
「ははっ。ずるいな、本宮。最後にそんな視線でありがとうだなんて…!」
と言って…。
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