第6話 尊は…?
颯志は、いつも尊と一緒にいた。
休み時間。
お昼。
他愛のないホームルームの空き時間。
颯志は尊の傍を離れない。
それが、茉莉子には大助かりだった。
クラスの女子の間で人気者の尊と、いつも一緒にいる颯志を見つめていても、気付かれそうになったら、尊に視線をやればいいのだから。
そうしていれば、自分は、尊を見つめる大勢の一人にすぎない。
恋愛初心者の茉莉子にできる、唯一、好きな人に好きだとバレてしっまわないようにするには、それしか手はなかった。
恋愛がうまくできる人には、目を合わせるのは、一番手っ取り早く、自分をアピールする絶好のチャンスだろうに、茉莉子はそれを知らない。
入学して、三週間。
早くも恋に墜ちた二人は、お互いの想いなど知る由もなく、同じクラスで、同じ委員会。
一緒にいる機会が多いのに、いつになってもよそよそしい。
けれど、二人の独特の温度…とでも言えば良いのか…。
ワイワイとおしゃべり。
キャッキャとスキンシップ。
…などとは程遠い二人だったが、あの時の、カイロの温かさを、二人は分け合うように、過ごしていた。
おしゃべりと言えば、相変わらず、クラスでしゃべる事はほとんどなく、委員会でも、最低限の必要事項のみ。
それなのに、何故だろう?
二人は、あの三十分事件があった事が嘘のように、沈黙を楽しんでいるようでもあった。
それは、入学三ヶ月が過ぎても、変わることは無かった。
いい意味でも、悪い意味でも。
尊は尊で、はっきり言って、茉莉子とのことが気になっていた。
いつも、不意に茉莉子に目をやると、はっきりとではないが、視線が合っている…ように感じていた。
それは、一回や二回ではない。
それはそうだ。
茉莉子は、確かに尊を見つめていたのだから。
颯志への想いの隠れ蓑として。
恋愛に疎い茉莉子でも、自分が好きな相手を三ヶ月経っても自覚しないほど、鈍感ではない。
そんなある日、一番早く茉莉子に告白してきた男子がいた。
何学年の何組の誰…などと言うくだらないことは置いておいて、
「好きです。付き合ってくれませんか?」
と言う言葉に、茉莉子が答えた言葉が、波紋を広げた。
「すみません。好きな人がいるので」
と言う答えが。
その噂は、あっという間に学校中に広がり、颯志と尊の耳にも、茉莉子が告白されて二日も経たないうちに入って来た。
(そうか…。本宮さん、やっぱり尊君が好きなんだ…)
と、噂を聞いた瞬間に、颯志はそう思いこんだ。
颯志は、完全に戦意喪失した。
元々根の優しい颯志だ。
あっけなく、尊を応援しよう、そう心に決めた。
もう、”終わり”なのだ、と。
委員会以外では関わらない。
そう、言い聞かせた。
それが、自分の今置かれた現実なのだ、と。
事実。
なのだ、と。
茉莉子が、尊を好きだと知っていても、茉莉子への想いが棘のように胸に突っかかっったまま、抜けずにいたのも、また事実だったけれど…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます