芥川龍之介といえば、何作かのうちに、本作は必ずといってかまわないだろう、挙げられる。何年ぶりかに読み直し、複雑な機微を描いていることに気づかされた。トロッコにふれたことに怒った年配の作業員。手伝わせてほうり出す若い作業員。それだけでも芥川龍之介の眼の凄さはわかるが、また風景描写の見事さよ。そこで終わらず、生活を営む立場になりその出来事にいまを見いだすという纏め方。芥川龍之介はあまりに巧みすぎて、器用貧乏というのもおかしな喩えだが、あまりに不当に評価されてきたように思われてならぬ。短いものではあるし、汲めど尽きせぬ佳品であることは間違いない。
飼ってくれると期待しつつ付いていったがバイバイされた捨て猫の気持ちに似ている。風に飛んだ個人情報あとで一緒に捜しますよ――営業マンの背を見送って契約書を握りしめる女の心中にも通ずるか。#カクヨム近代文学館
もっと見る