第7話 夢があるっていいね

 私たちが武器を選んで特訓を始めたあの日から約1ヶ月がたった…急に飛んだとか思った?だって特訓してるとこ見せても退屈じゃない?見てるのが誰かは知らんけど…。

 てなわけで話はとんであれから約1ヶ月後、5月の終わり頃になった。私と陽葵もまあまあ体力がついてきて体も鍛えられてきた。でもその代わり勉強する時間の確保がちょっと難しくなったかな、私一応中3で受験生なんだが…あの兄妹、特に感知はこのハードスケジュールでトップの成績保ってるわけでしょ?人間じゃないにしてもエグいて…。

 まあそんなこんなで特訓にも慣れてきたわけだ。まだ魔獣は倒せないけどね…。


「あ"ー疲れたー帰りたいー」


 んで今日も特訓、私には感知が付きっきりで特訓を見てくれている。今日のメニューはまずランニング10周して、次は腕立て伏せ15回と腿上げジャンプ10回で1セットのメニューを10回、そして今はサンドバックをブン殴るというよくあるような特訓を終えて、私は床に倒れ込んだ。かなりきついけど、これでも感知は抑えてくれてる方らしい。かなり鬼畜だぜおい…。

 ちなみに場所は感知の家の地下室。あれからしばらくしてアジトの場所を決めたんだけど、なかなかいい場所が見つからなくて、広いし頑丈だからって理由でここになった。実戦以外でいちいち世界またがなくて楽だしね。


「お疲れ様でした!一旦休憩にしましょう!」


 感知が飲み物とお菓子を持ってくる。受け取れば早速爆食いがぶ飲み…だってお腹すくんだもん普通に。


「そんないきなり食べたら喉に詰まりますよ…あ」


「!?ゲホッゲホッ…」


「言ってる側から…大丈夫ですか?」


「…ヴ…ダイジョバナイ…」


 感知の忠告通りうまく飲み込めず咳き込んでしまい、しばらく感知に背中をさすられていた…。



 しばらく経って落ち着いてから…


「マジで疲れた…てか前から思ってたけど『ウルトラジェネラル団』ってなんだし…あと最近ぐっすり眠れるのはいいけど、体の負担と勉強時間皆無っていう問題点が出てんだよね…」


 ぼそっと呟くと感知が返事をする。


「『ジェネラル』っていうのはいろんな意味がありますね!一般的とか将軍とかって意味だったような…まああの長官は十中八九語感で適当につけたんでしょうけど!あ、お勉強はしなきゃダメですよ!僕らは勇者や戦士である前に受験生なんですから!」


 へ〜ジェネラルってそんな意味があるんだ〜…どっちの意味にしろ適当感あってやっぱダサいわ、とか思いながら話を続ける。


「巻き込んだ一因あんたでしょ…そもそもそこまで体力ないんだって。逆にそっちはどうやって成績キープしてんの?」


「まあ慣れですかね?あとは普通より体力あるっていうのも理由だと思いますが」


「あ、そうだよそれ。人間じゃないってどういうことなの?」


 前から気になってたんだよねそれ、どゆことなん…人外がこの世界にいるってありえんの…?


「そういえばちゃんと言ってなかったですね!僕は完全に人外ってわけじゃなくて、半人族って種族なんです!お兄様も輪花も同じく!僕たちには人間のお母様と幻妖族のお父様がいるんです!そのハーフってことですね!まあそうは言っても、お父様から引き継いだ能力と強力な傷の治癒力以外はほぼ普通の人間さんと同じですが!」


「幻妖族…?」


 知らない種族…ファンタジー作品でも今まで聞いたことないんだが…


「幻妖族っていうのは夢の世界にいる、何にでも変身できる種族なんです!生まれた瞬間から様々なものに変身するので、生まれ持った本来の姿というものがないのも特徴ですね!」


「へ〜…」


 生まれ持った本来の姿がないってなんかめんどそ…そんな種族いるんだ…。


「僕が人間じゃないっていうのはそういうことです!」


「なるほどね〜…話変わるけど、感知って母親似なの?父親似なの?」


 姿ってとこから派生したのかな、突然あんまり関係ないことを出した。輪花だけ雰囲気が違うのも相待ってなんとなく気になったので聞いてみる…正直どうでもいいと思うけど。


「うーん、お父様は本来の姿を持たないからか、僕たちの見た目には遺伝しなかったみたいなんです。その代わり変身できる力はしっかり引き継ぎましたが!で、本題ですが僕とお兄様は叔父様似らしいんです」


「叔父?」


「はい、お母様の弟さん。お母様たちの幼い頃の写真でしかみたことなくて、僕らは直接会ったことありませんが…。見せてもらったら、本当に驚くほどそっくりだったんですよ!本当にそのまんますぎるほど!」


 まあ確かにおばあちゃん似になったり親戚に似てたりすることあるもんね。そういうパターンか…てかそこまでそっくりなのか、若干気になる気がする。少しの好奇心で感知に聞いてみる。


「…今その写真ってあったりする?」


「もしかして気になるんですか〜?」


「…ちょっとだけね」


「ほほ〜う!探せばすぐ見つかると思います!ちょっと行ってきますね!」


 感知は地下室を出て行って、そして数分後にその写真を持って戻ってきた。


「これですね!ほらそっくりでしょ!真ん中がお母様で、両隣が叔父様たち!偶然にも僕たちのように双子だったみたいですよ!」


「…わあ、ほんとまんまだね〜…」


 その写真に写ってたのは3人の幼い少年少女。真ん中には両隣の二人よりも少しだけ背が高い、輪花似の茶髪のポニーテール少女がニッと歯を見せて笑っている。右隣には感知似の前髪で片目を隠した黒髪メガネの少年が、左隣には感成似の黒髪でツンツン頭の元気な少年が笑っていた。

 感知が言った通りそっくりすぎて、こんなにもそのまんまなことってあるのかと驚いちゃった…。


「メガネの方の叔父様は性格まで僕にそっくりだったそうで、好奇心旺盛でよく様々なものを発明してたらしいです!ただ僕と違うのは、そのどれもが完璧に完成されたものであって失敗がなかったこと。そう、彼はいわゆる天才だったらしいんです!すこいですよね!今どこにいて何をしてらっしゃるのかはわからないけど、いつか会ってみたいなあ…!」


「へえ…天才かあ…」


 私からみたら感知もそれと同等だけどね。まず発明できるって時点でレベチだし。いつの間にか日常の風景になってたけど、異世界に行ける『どこでもワープホール』だってとんでもないと思うけど。


「…僕は天才じゃないけど、天才じゃなくたって努力すれば世界を変えられるはず!!そう僕の夢は、世界を変える科学者になることなんです!!」


 感知はいきなり立ち上がり、輝く目で上を見上げて強く宣言する。唐突の自分語り、普段の私だったらここで何か冷めた事を言いそうだけど、その姿が真剣でいて、そしてすごく輝いていたからか普段の調子で口を出せなかった。


「どこでもワープホールのように魔法と科学を組み合わせれば、きっと世界はとてつもない化学反応を起こすはずなんです!!もっと生活が豊かになる!便利になる!さらにその先は夢の世界とも繋がって、全ての種族が、人々が!どこでもその技術を使えるようにしたいんです!!そして人々を科学で笑顔にする!!」


 そう意気込む感知の目は本当に希望に満ちていて、真っ直ぐに未来を見ていた…夢がなくて面倒くさがりで、自分のことしか考えられない私にとっては、それがちょっとだけ羨ましかった。


「…いい夢じゃん、叶えられたらいいね」


 そんな感知に感化されたのか、そうやっていう私は少しだけ口角が上がっていた気がする。

 私がそう言った後に感知はこっちを見て少し困り顔をする。


「あはは…子供っぽいとか言われるかなって思ってました。突然自分語りしちゃってごめんなさい、聞いてくれてありがとうございます!」


「別にいいよ、素直にいい夢だなって思うけどね」


「えへへ…!和愛さんには何か夢はありますか?」


「うーん…今は別に…」


「それならいつかきっと見つかりますよ!その時は僕にも応援させてください!」


 こんな私にここまで親身になってくれて、この優等生は本当に純粋で優しくていいやつだな、と心の中で改めて感謝した。


「…さて!そろそろ休憩終了して、特訓に戻りましょうか!まだまだ追い込みますよー!!次はまた腕立て伏せと腿上げの基礎トレです!!」


 やっぱ撤回、疲れてるところに追い打ちかけてくる特訓メニュー鬼畜メガネだったわ。




「…よし!今日はここまでにしましょうか!お疲れ様でした!!」


「帰ったらちゃんと休めよー」


「ご飯も忘れずにね!」


「や、やばい明日筋肉痛くるかも…」


「おねいちゃおつカレー」


 今日の分の特訓が終わり、へとへとになった私たち(陽葵はダジャレ言ってられるから余裕ありそうだけど)は感知たちに見送られながら家に帰ろうとしてた。今日も家帰ったら爆速で寝ちゃうな…。テスト近いから勉強しなきゃいけないけど睡魔には抗えん…。


「あ、二人ともちょっと待ってください!」


 とっとと帰って休もうと地下室から出ようとした時、感知に止められた。今度は一体なんなんだよ…もう帰らせてくれよ…。


「二人とも、最近何か体に異変を感じませんか?」


 異変?授業に集中できなくなったしどんな環境でも爆速で眠れるようになったよ。多分そういうことじゃないと思うけど。


「いへんー?なにそれおいしーのー?」


「んー異変ってか、体の奥から湧き上がるパワー!っての?感じない?」


「いや、なにその厨二病みたいなの。あるわけないじゃん」


 逆に全身からパワーが吸い取られてますが。なんでいきなりこんなこと聞いたんだ…?


「うーん…あたしそろそろだと思ったんだけど…」


「オレも同感!多分そろそろだよな!」


「結構高まってきてますもんね!そろそろですよ!」


 3人揃ってなにが『そろそろ』なんだよニヤニヤしやがって…こっちにも少しは説明しろよ…。


「…あ、僕らが話してることはまだ気にしなくていいですからね!とりあえず今日はお疲れ様でした!」


「そのうちわかるからな!てか近いうちに実感すると思うぜ!」


「何かいつもと違うパワー!を感じたら言ってね!」


 いや説明ないんかい!!思わせぶりな言い方しといて!めっちゃ気になるんだが!?なにそのパワー!って!?筋肉のパワー!(高音)ってこと!?

 気になるも今日は疲れたし3人はニヤニヤしてるだけで答えてくれそうにないので、今日は仕方なく帰ることにした…。




 ―翌日


 今日が土曜日で助かった…昨日の筋肉痛がエグい響いてる…。でも今日は特訓もお休みの日だし、一日ベッドでゴロゴロしてやらあー!!

 そんな具合で昼間に起きた私、まずはご飯を食べるべくリビングに行きテレビをつける。お昼のニュースをやっていた。他のチャンネルもどうせつまんないのばっかなんだろうな〜…今の時代やっぱスーチューブだよな〜。


『次のニュースですが…ここで速報です』


 速報って響きってなんか注目しちゃうよね。別に興味ない話題だったとしても、なんか特別感あるっていうか…。

 画面をぼーっと眺めていると中継に切り替わる。記者会見みたいな感じでたくさんの記者がフラッシュたいて一人の男の人をとらえる。

 その男の人は前髪で片目を隠した黒髪にメガネをかけた若い人だった。多分20代前半じゃないかな?本当に若いお兄さん、この人がなんかすごいことでもしたのかな?ニュースには詳しくないから分かんないや。


『本日はお集まりいただきありがとうございます。早速、今回ワタクシが発表させていただく研究結果の結論からお話しましょう…』


 研究?この人は科学者か何かなのかね?こんなに人集めてるってことは世紀の大発見だったりして。ちょっと興味あるかも。


『本日より世界は変わります。なぜならば、このワタクシは魔法が実在することの証明を科学によって果たしたからです!これより魔法は、いや、ワタクシの"魔法科学理論"は我々の生活には必要なものとなります!!』


『ま、魔法が実在…?』『科学で証明するだと…?』『魔法科学理論…?』


 テレビの中で記者たちが騒めいてる。

 魔法が実在するなんて何を今更…ん?いやちょっと待てよ、それって今でこそ私は当たり前になってるけど魔法なんてそもそも空想の存在だよね?最初私も信じてなかったわけだし…。え、じゃあ魔法が存在するってこの人テレビで何言ってるの…?魔法を証明…?魔法科学理論?え…ちょっと何言ってるかわかんない…あの…マジでさ…


   「「わっっっけ分かんないんですけどー!?!?!?」」


 ―ゴオオオオオオッ!!


 …それまで日常が流れてたはずだった、穏やかな土曜日を送ってるはずだった。

 それは一瞬の出来事だった。

 私が大声を上げた途端、なぜか私の周りに暴風が吹き荒れて食器や家具が散らばる…

 いろんなことがいきなり畳み掛けてきたせいで訳が分からず、あたりを見渡す。テレビではさっきの人がまだ会見してるし、私の周りはさっきの暴風が事実だったと物語るように、食器や家具があたり一面に散らばっている。


「……は?」


  第八話に続く

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遠藤少女〜All for a good sleep, and? 愛好栗一夢 @ice_vanillaaji

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