第5話 初期メンは妹とクセが強すぎる3兄妹

 昨日は本当に散々だった…例の噂試したら本当に夢の世界行けちゃったし、なんか勇者になってクソダサい名前のギルド結成しちゃったし…。

 そんで、あの後普通に家帰ってご飯食って寝て…現在はまた学校。あんなとんでもない体験したってのに、今は普通の日常に戻っている…本当に夢だったみたいに。夢の世界って言うから夢だったんじゃと何度も疑うけど、あれはちゃんと現実だったんだよね…世の中不思議なこともあるんだねえ、認めたくないけど。

 で、今は昼休み中。私は特にすることもないから机にうつ伏せになってお昼寝していた。

 するといきなり…


 バアアアン!!


 とやかましい音を立てて教室のドアが開く。…せっかく気持ちよくなってたのに最悪!

 それでもすぐに私の意識は再び眠りに落ちようとしていた。この瞬間が気持ちいいんだ…ほっといてくれ…。

 しかし足音は私の願いを聞いてくれない。これまたやかましい足音を鳴らしながらドアを開けたそいつはこちらへ近づいてくる。てかまじでうるせえ!!

 すると突然、その足音はぴたりと止む。私が顔を上げると、そこには知らない奴がいて、私をまっすぐ見つめてくる。若干吊り目で黒髪でざっくりとした七三分け…こいつ誰かに似てるような…てか私に用…なわけないよね?


「…ふうん、君がマドモアゼル・遠藤かい?」


「はあ?」


 いきなりかっこつけた名前で呼ばれた。いやいくら初対面でもさ、こんな呼ばれ方したら「はあ?」って行っちゃうよ。マドモアゼルて…。


「ねえ、遠藤さんお迎え来てるよ…w」「やっぱ厨二病の相手は厨二病だねw」


 …クラス中から不快な内緒話が聞こえてくる。なんなんだ最悪すぎる…こいつ絶対許さない…!!


「…私に用なの?なら廊下で話してくれない?」


 ここにいても不快なだけなので、私はとりあえずこいつと廊下に出ることにした。いつものそっけない態度を装いながら、私たちは廊下に出た。



「…で?いきなりなんの用なの?てかあんた誰だし」


 私を不快にさせた元凶である相手を睨みながら言う。いつもよりもかなりキツイ顔になっていたと思う。するとそいつはいきなり私に急接近して…


 ドンっ!!


 …そして壁ドンされた…いやキモすぎん?壁ドンはないわ…。次にそいつは髪をかきあげて


「そんなに怒っていては可愛い顔が台無しだよ、マドモアゼル?」


 て…煽ってんのかこいつは?警察呼ぶ前に顔面に蹴り入れようかな?さらに接近されて私の怒りのボルテージがMAXになる直前


「ふんっ!!」ボコォ 「グハァ!?」


 後ろから回し蹴りが入る、ナイス!いきなりやってきたキモい奴はその場に倒れた。


「和愛さん大丈夫ですか!?こいつに変なことされませんでした!?」


 その人物がこちらに寄ってくる。なんと蹴りを入れたのは感知だった!やばっちょっと感知に惚れたかも…という冗談はさておき。


「…ま、まあなんとか…てかこいつなんなの?感知の知り合い?」


 そう聞くと感知は勢いよく頭を下げて


「ほんっっっとうにすみませんでしたうちのバカ兄貴が!!」


 と謝ってくる。おまけでもう一回頭を下げた。


「こいつは僕の双子の兄の白金感成しろがねかんなって言うんですけど、極度の女好きでして…」


 え、ええ…てか昨日の夢の世界での会話でちょっとだけ出てた感知のお兄さんってこの人…?確かに既視感あるなーと思ったけど…


「いやほんとに怖かったしキモかったわ…」


 中学生じゃなかったら普通に犯罪だから、通報してたから。

 いてて、と言いながら先ほど蹴りを入れられたキモい奴―感成は起き上がる。


「いきなり酷いな感知…オレはただ話してただけだってのに」


「ただ話してただけならなんで和愛さんが怖がってるんですか?」


「ごめんて!悪かったから!」


 2人の会話が一区切りつくと、感成はこちらを向いて私に話す。


「いきなり悪かったな、女の子が勇者って聞いて居ても立ってもいられなくなって…ゲフンゲフン、1組の白金感成だ!これからサポートさせてもらうぜ、よろしくな!」


 先ほどのキモムーブが嘘のような爽やかスマイルを向けてくるので、ギャップに困惑する。


「は、はあ…どうも」


「根はいいヤツなんですがね…」


―キーンコーンカーンコーン


 そんなことを話していると昼休み終了のチャイムがなってしまった…一睡もできなかった…。


「おっと、もう終わりか〜…まだ話したいことあったけど仕方ない、また放課後に会おうぜ!」


 そういうと感成は教室まで走って行った…ほんと何なんだ、嵐みたいなやつ…。


「…えっと、今日から一応特訓開始ですね!放課後に色々お話ししますから、一緒に帰りましょう!生徒会の仕事も今日ないですから!」


「…あいつも一緒に?」


「あはは…まあ…はい」


 最悪だ…放課後に男子2人、しかも優等生とキモい奴に囲まれて帰るなんて…やっぱ勇者なんてならなければよかったのだろうか…。

 ため息をつき憂鬱を抱えながら、次の授業を受けるべく教室に戻った…。




 その日の放課後は言葉通り3人で帰ることに…いきなり男2人に囲まれて帰る私を見てはみんな笑ってる…最悪。


「…何がおかしいんだこいつら?今日の昼も笑ってたけど…和愛、気にしなくていいからな!」


 誰のせいだと思ってんだよ…クラスにいるのがさらに気まずくなったんだが…?


「待ち合わせ場所は僕たちの家の近くです、なるべく早く学校を離れましょうか」


 私たち3人はスタスタと早歩きで校門を出て、待ち合わせ場所に向かった。



 待ち合わせの場所に近づくにつれて、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。その方向を見れば私の妹陽葵が茶髪にツインテールの女の子と楽しくお話ししていた。

 2人はこちらに気付き、大きく手を振ってくる。


「おねいちゃきたーおそいー」


「遅いわよお兄ちゃまたち!!」


「遅いって…こっちはあんた達より下校時間遅いんだからさあ…」


「まあまあ、待たせてごめんね輪花りんか


 私がつい2人に対して言い返してしまった後に感知が謝る。なるほど、この茶髪の方が陽葵も言ってた輪花さんねえ…なんかこの子だけ雰囲気違くない?兄弟でもパパ似ママ似がある的な?まあ私たち姉妹もあんま似てないけど。

 茶髪の少女、輪花は私に近づきじっと私を見る。


「えっと、あなたが勇者の和愛お姉ちゃまね…」


 ちゃま?この兄妹はクセ強めなのか?てかめっちゃ見てくるじゃん、なんかついてる?


「…うーん…うん…勇者…なのよね…?」


 ピンとこないよね、知ってる。それ私が一番思ってるから。ツッコミどころ満載だよね、知ってる。こんな一般人が勇者なんて拍子抜けだよね。

 しばらく私を見た後にまたうーんと唸る。でもしばらくしたら今度は晴れやかな笑顔で


「…まあいいや!初めまして!サポートします白金輪花です!よろしくね!」


と自己紹介してくれた。


「あ、はいどうも…和愛です。えっとよろしくです」


 年下といえど、やっぱり初対面は緊張しちゃうのでどうしてもこの態度になっちゃう。そっけなく挨拶を返した。


「りんりんはボール遊びがとくいードッヂボールつおいー」


 ドッヂボール強者は小学生の中じゃ強ステータスだな…ちなみに私は大の苦手、ほんっとに嫌い。




「じゃあこれから再び夢の世界に向かいます!今日はお二人に武器を選んでもらって…て何やってるんですかお兄様」


 ようやく本題に入りかけたって時に、急に感知が蔑みの目を感成に向ける。で、その感成は陽葵の前に跪いて何かを話してた…


「…あッ…えっとこれは…」


「おねいちゃおにいちゃーこいつキモーいろりこーんー」


「いやっ!!違うそういうわけじゃ!!」


 焦り出す感成、いつもの表情を乱さずチクる陽葵…。

 あー…陽葵にもやってたのか…こいつ女なら誰でもいいのかよ引くわー。思わず私も蔑みの目を向けたくなる。


「…次やったら雷落としますよ」


「ごめんて!!ごめんて!!許して感知様!!」


 今度は感知の前に跪いて何度も土下座する…見てて恥ずかしくなってくる…。


「…はあ、今はそれよりも先に夢の世界に行きますよ。立ってくださいお兄様みっともないです」


「は"い"…」


 半泣き(こいつが悪いんだけど)の感成も立ち上がり、感知が改めて話を進める。


「改めて…今日は武器を選んでもらってから基礎の体力作りから始めようかなあと思います!」


 武器は正直もう何選ぶか決まってるし体力作りとか絶対だるい…でもまあやるしかないのかあ…


「お兄ちゃま質問!アジトの場所はどうするの?」


 輪花が感知に聞く。アジトとかなんかかっけー…勇者ってよりは悪の組織っぽいけど。


「そういえば決めてませんでしたね…うーん協会からも場所は指定されていないし…でも集まれる場所は作っとくべきですね!あとで僕が決めときます!」


「ひまりんから質問ー。夢の世界にはどーやっていくのー?」


 陽葵が私も気になってたことを聞いてくれた、ナイス!学校集合じゃなくてここにきたってことはまたあの扉から行くってわけでもなさそうだけど…。


「良くぞ聞いてくれましたっ!じゃじゃーん!こちらを使って行きます!!」


 いつにも増してテンションが高い感知が謎の銃みたいな機械を天に掲げる。


「…何これ?」


 疑問のままに感知に聞いてみる。すると感知はふっふっふと眼鏡を光らせ不敵に笑い、元気に紹介する。


「これは僕が発明したマシン!その名も『どこでもワープホール』!!僕の魔力を充填し、その力でどこにでもワープホールは発生させて夢の世界に行けるマシンですっ!!!」


「…なんかどこぞの国民的アニメの道具に出てきそうだね」


「冷めてますね!?すごくないですか!?異世界に行けちゃう発明品ですよ!?内容も秘密の道具級!!魔法と科学を組み合わせた斬新な発想でしょう!!!」


「へーすげーかがくのちからってすげー」


 陽葵そのセリフは別の国民的作品だから。

 うーんよくわからんけどとにかくすごいのは分かった…感知のテンションもすごいことになってるけど。

 てか魔法と科学を組み合わせようなんてよく考えたね、仕組みとか全く想像できんわ…まあ私が考えたところでどうせ全く当たってないだろうけど。


「ふふん!もっとよく見てみてくださいよ!!」


「でも感知製だし信用できないよな〜。いつ壊れるか分からないし、いつ爆発するか分からないし」


「この前壊れてもう一回作り直したんだもんねお兄ちゃま」


 興奮する感知に水を刺すように感成と輪花が付け足す。え、爆発するて…?大丈夫?使った瞬間みんなアフロになってたりしない?本当の意味で夢の世界行っちゃわない?大丈夫??


「ちょ!余計なこと言わないでください!!科学において必要なのは試行錯誤、トライアンドエラーです!!」


 水を刺されてむすっとした感知が2人に勢いのまま言い返す。いやまあ、言ってること間違ってないけど…。


「ひまりん早く行きたーいーここでおはなしあきたー」


 相変わらずマイペースに話に入り込むひまりん…空気を読め空気を。まあ私も行くならとっとと行きたいけど。


「そうですね!!とにかく行きますよ!!僕のマシンの力も見せてやります!!」


「あーはいはいそうしてくれ」



 感成がそう言った後に感知は機械のスイッチを入れて、その辺の空間に機械の尖った先を向ける。



   「「ファイヤー!!!!」」



 といきなり大声で感知が叫ぶと同時に、禍々しい色のビームが発射される。一瞬衝撃波がきて、あたりも禍々しい色の光に照らされる。

 バチバチと音を鳴らしながら、今まで何もなかった空間に段々と黒い穴ができてくる。

 それは数秒のうちに終わって、光が止むとそこには昨日も見たまんまのワープホールができていた…。


「…わ、わあ…すげえ…」


 私も思わず情けない声で口に出していた。まじでアニメのワンシーンのような時間だった…迫力がすげえ。余韻もすげえ。

 何事もなく成功したからか、感知が見返してやった、とドヤ顔でこちらを見てくる…正直若干ウザい。


「ふふーん!!当然!!今回も成功でしたね!!さて!閉じる前に早く行きますよー!!!」


 ドヤ顔の感知がるんるんで先陣切ってワープホールに入っていく。

感知がいなくなった後で感成が安堵のため息をつく。


「よかった〜爆発しなかった〜…あいつの発明品、結構脆くてさ。家の中で作ってはよく爆発させてるんだよ…」


「そうそう、スイッチ押しただけで爆発!とかよくあるんだよね…」


 困ったように感成と輪花が言う。2人も家だと大変なんだなあ…感成は初対面の印象最悪だったから、尚更そう思った。


「…っし!オレらも行こうぜ!結構閉じるの早いからさ」


「ん、分かった」


 感成の一言に返事して、私たちも後に続いてワープホールに入って行った。

 私たちが全員入ったタイミングで、機械の力で開いたワープホールは何もなかったように閉じてなくなった。



 第六話に続く

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