第4話 噂の黒幕あんたかよ

 私と陽葵が噂を試した先でたどり着いた世界『夢の世界』の説明を受けたり、そこの平和協会とやらの会長のチャールズさんの説得を受けたりして、仕方なく勇者デビューを果たした私!これから私の安眠のために、夢の世界を救う冒険が始まる!


 …で、結局何から始めればいいの?パーティー作り?ゲームとかだとその辺が定番だよね。


「さて!そうと決まれば早速手続きをしなくては!」


「手続き?」


 チャールズさんが張り切ってそう言ったために、私は続けて聞いた。勇者になるのに手続なんているのか?


「ええ、勇者に選ばれたとはいえ、和愛様と陽葵様だけでは何かと大変でしょう。そこで、和愛様を中心とする『ギルド』を結成しお仲間を募集するのです。そのギルドを作るための手続きですな。ギルドについては後ほどこちらにいらっしゃるナイト様が説明してくださいますぞ」


 なるほど…ギルドってのもよくファンタジーもので聞くよね。なんか依頼受けて、解決して報酬もらう的なのが多いやつ。

 んで、それを教えてくれるのはまたまたこっちの世界に住んでるナイト様と…で、一体誰なんだよそれ?噂広める提案したのもそのナイト様なんだよね?ってことは…そのナイト様ってかなり身近な人なんじゃ…?


 ――コンコンコン


 その時部屋に軽快なノック音が響く。それを聞いたチャールズさんが「おお、噂をすれば」と、言ってまた新しいカップに紅茶をそそぐ。


「どうぞお入りくださいナイト様、お待ちしておりましたぞ」


「失礼します!」


 チャールズさんがそういうと、そのナイト様とやらはドアを開けて部屋の中へ入ってくる。それと同時にまたフィト長官のやかましい怒鳴り声が響く。


「おいキサマ遅いぞ!」


「すみません!課題がなかなか終わらなくって!」


 入ってきたナイト様はフィト長官のその言葉に対してもサラッと明るく返す。そしてこちらへ近づくにつれ、だんだんとしっかり姿が見えてくる…って!?


「ちょ!嘘でしょ!?あんたは…!!」


 思わず声がでちゃった…でもだって!少しふわっとした七三分けの前髪にメガネ!誰に対しても敬語口調の優等生の鑑!こいつは間違いなく…!



「生徒会長白金感知!なんでこんなとこに!?」



 そう、そこにいたのは間違いなくうちの学校の生徒会長で隣の席の白金感知!まさかこいつがナイト様だっていうの!?思いっきり名前日本人だし学生なんですけど!?これがナイト様…?ええ…?なんか拍子抜けってか…。


「和愛さんさっきぶりです!驚かせちゃいましたかね?」


「この方こそ和愛様たちをサポートしてくださるナイト様の感知様でございますぞ」


 この人嘘ついてんじゃないか?とそんなことを思っていると、陽葵が私の服の裾を引っ張る。


「…だれー?」


 そっか、陽葵は知らないんだっけ?そこで感知が笑顔で自己紹介する。


「初めまして陽葵さん!僕は白金感知っていって、和愛さんのクラスメイトなんです♪妹の輪花りんかがいつもお世話になってます!」


「あー前に言ってたりんりんのおにいちゃー!いつもりんりんをお世話してますー」


「お世話になってます、ね。でりんりんって誰?」


 陽葵の言葉遣いを注意しながら聞いてみる。『妹の輪花』ってさっき感知も言ってたけど、てか感知兄妹いたのか。


「輪花ちゃー、ひまりんのクラスメイトー、おともだちー」


 なるほど陽葵も新学期になって友達作ったわけだ…はあ…クラスのことを思い出したら憂鬱な気分になった。


「…和愛さん大丈夫ですか?話続けますけど…」


 感知に声をかけられ、憂鬱な気分から引き戻される。今憂鬱になってても意味ないし、こいつには聞きたいことも多いしね!気持ち切り替えてこ!


「いいけど…で、何話してくれるの?」


 いつものそっけない態度で聞いた。この態度が出るってことは、だいぶここに慣れて来たってことだね…いいんだか悪いんだか。


「そうですねー…和愛さんたちがなんでここに来たのかとか?」


「聞いた。なんかやばいから助ければいいんでしょ?めんどいけど」


「ド、ドライですね…あ、あと学校で流行ってた噂!実は僕が考えてみたんです!それっぽくていい感じでしたよね?」


「あーあれ?新学期早々大変な目にあったんだが…ん?」


 ちょっと待てよ…噂で私たちを呼ぼうと考えたのはナイト様、つまり感知。噂を広めたのもナイト様、つまり感知。

 ってことは……。息を大きく吸って〜…せーの!



  「噂の黒幕あんたかよ」



 …最近誰かに見られてるような気がしたからやってみた。叫ぶと思った?残念、いつものテンションだ。



 あれからしばらくの間は感知に噂についてぐちぐち文句を言い続けていた。そして感知は困ったような表情でその文句を聞き続け…というしょーもないやりとりが続いた。しばらく続いたところで聞き飽きたフィト長官が怒鳴りだし、そこでそのやりとりは終わった。



「さてと、そろそろ本題のギルドの話に入りましょうか!」


 感知はふんすっと気合を入れて説明を始める。


「勇者に選ばれたとはいえ、和愛さんと陽葵さんだけでは大変でしょう!そこでお二人はギルドを結成し、仲間と共に活動してもらいます!ギルドっていうのは簡単にいうと、依頼人から依頼を受けその依頼を解決し、そして報酬をもらうという団体です!もっと簡単にいうとアニメとかによく出てくるやつです!極論言っちゃうとお悩み解決隊です!!」


 とてもわかりやすい説明どーも。…ギルドって言ってるからかっこいいけど、お悩み解決隊っていうとなんかダサいな。お悩み解決隊にいる勇者…うーんダサい。


「この夢の世界平和連合協会に登録されたギルドは規模によって呼び方を変えてます。簡単に分けると、小規模のものはそのまま『小規模団体』、中規模くらいになると『ギルド』、大規模になってくると『戦士団』なんて呼ばれます!さらに夢の世界の中でも最も大規模で強力な四つの戦士団は『四大戦士団』と呼ばれてますよ!どれも呼び方と規模が違うだけで、中身は似たようなものですがね!…まあ何が言いたいのかっていうと、和愛さんたちはこれから小規模団体から始まっていきますよってことです!ただこの呼び方は覚えておくといいかもですね!」


 ふむ…まあそりゃそうだよね。しっかし、強いのは四大戦士団とかって壮大な呼ばれ方してんのに、結局中身はお悩み解決隊なのなんか…うーんって感じ…?上手くいえないこの感情…。

 そこで陽葵が口を開く。


「しつもーん、ひまりんたちの初期メンは誰ー?」


 それは非常に重要。私たち二人以外に誰が入るのか…流石にいきなり二人だけってのはないよね!?


「言ってませんでしたね!最初は五人から始める予定です!お二人に、僕、妹の輪花、そして感成かんなお兄様の宇宙戦士団コズミック・ナイツサポートします!戦闘訓練も僕らにお任せください!!」


 なるほど〜感知たち兄妹三人で、しかも戦闘訓練してくれるのはありがたい!…ん?四大戦士だ…え?四大戦士団って夢の世界の中でも強い戦士団だよね…?


「感知ってその四大戦士団の人…なの?」


 恐る恐る聞いてみる。


「?はい!僕は四大戦士団の一つ『宇宙戦士団コズミック・ナイツ』の副団長です!」


「え?つまりめっちゃ強いってこと?」


「最近なったばかりなのでそこまでではありませんが…幼い頃から訓練積んでますし、普通よりは戦えるはずです!あ、そうはいっても90%くらいは人間なので気にしないでください!」


 あーもうだめだついてけん、何言ってんだこのメガネは…半分人間じゃないって…?じゃあ感知は何者なのさってことになるよね…人間じゃないやつがこっちの世界に住んでるってどゆこと…?生徒会長でナイトで人間じゃねえ…謎がまた増えたんだが…。


「あっ、混乱させちゃいましたかね…?僕らについてはまた後でお話ししますから…とにかく!和愛さんたちには僕らがついてますし安心してください!!」


 感知は自信満々に、またふんすっと気合を入れる。そして話をギルドに戻す。


「話すことは先ほどで大体終わったので、あとはその都度説明します。ただあと一つ、覚えておいてほしいことがあって…この世界にはギルドの仕組みを悪用して、迷惑してる奴らもいるんです。『ブラックギルド』って呼ばれてる奴らですね、規模もヤンキー集団からマフィアまでさまざまです。もしかしたら敵対することになるかもしれませんので、覚えておいてくださいね!」


 そんな奴らもいるのか〜…できることなら敵対したくないものだ。めんどいから。

 そこで話が一区切りし、少しの間沈黙が流れ、そしてまた感知が喋りだす。


「…さて!そろそろギルドの手続きを…」


「その必要はない!!」


 そこでまたうるさいフィト長官が口を挟む。感知が一瞬嫌そうな顔をして(感知も長官が嫌いなのかもしれない)長官に聞く。


「それってどういうことですか?」


「ワタシはコイツらが気に食わんからな!すでに手続きを済ませた!ギルド名もワタシが決め、変更禁止にしておいたぞ!!」


 長官はドヤ顔している…こいつはまた余計なことしやがって…。チャールズさんも呆れてため息ついちゃってるよ…。ギルド名次第だけど、今度こそこの小人を真っ二つにへし折るかもしれない。

 その肝心のギルド名を感知が聞いた。


「…えっと名前は何に?」



「『ウルトラジェネラル団』だッ!!」



「「だっせえええええ!!!!」」 「ダセー」



 感知と私がハモって叫んだ。(その後に陽葵も小声で続く)いやそれはネーミングセンスなさすぎダサい!!なんかダサい…ダサすぎる…ウルトラってのが絶妙なダサさを醸し出してる…何これすごい絶望感。

 感知は怒ってるのかかなりプルプル震えてる。下で震えながら拳作ってるけど表面では笑顔を保って感知は聞く。


「…もっとマシな名前なかったんですか?」


「何を言う?素晴らしい名前だろう?これが嫌なら勇者をやめることだな!!」


「…………チッ!」


 そう返してきた長官、そして感知が小声で舌打ちしたように聞こえた…こわっ!

 でもこれには激しく同意!まじでこの小人頭おかしいんじゃないか?それとも頭赤ちゃん?本当に真っ二つにへし折ってやろうかな?

 陽葵以外が殺気立っている現場に、呆れたようにチャールズさんが頭を下げ、はいってくる。


「…大変申し訳ございません…後ほど変更できるようにしておきます…」


 何度も何度も頭を下げる。なんかチャールズさんに申し訳なくなってくる…チャールズさんは悪くないのに!



 その後しばらく長官はチャールズさんに説教されていた。途中から感知も混ざりだしたりして、終わった後の長官はかなりへこんでた。ざまあ(おい)。

 説教が終わると、チャールズさんが口を開く。


「…さて!本日やるべきことは終わりましたな。明日からは戦闘訓練、応援しておりますぞ。そして…どうか、夢の世界をお救いください、勇者様…!」


 再びチャールズさんが頭を下げる。それに、私はこう答える。


「わかりました、とりあえず頑張ってみます!」


 そう、全ては自分のため、安眠のため!


「では帰りましょうか!二人とも僕についてきてください!」


 感知が部屋の外へ歩きだす。


「わかった。チャールズさん、ありがとうございました!」


「かんちょーさんまたねー」


 やっと帰れるんだという安心感を胸に、私たちは感知の後に続いて紅茶の香り漂う部屋を後にした。



 感知に続いてしばらく夢の世界の平原を歩いていると、なんと空間に穴が空いている場所があった。『ワープホール』と言うらしく、これを潜ると世界を移動できるらしい。私たちがワープホールを潜ると、なんと私たちの家の目の前についた。後ろを向けばワープホールはもうなくなっていて、何事もなかったかのように―まさに夢の中の出来事であったかのように―日常に戻っていた。いつの間にか日は沈み、空は紫がかっていた。


「さて!明日からは訓練ですので僕らが中心に指導します!あのクソ長官ともしばらくお別れです!」


 あ、やっぱ感知も長官嫌ってたんだ。あの人みんなに嫌われてそうだなあ…。

 そう言った後に感知は私たちに背を向け、そして顔だけ振り返り笑顔でこう言う。


「詳しいことは明日!では和愛さん、また学校で!」


 感知が手を振って走っていく。

 私と陽葵は手を振って見送った後、愛しい我が家のドアを開けた。



   第五話へ続く

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