第6話 特訓始まってだるい

「…お、無事に出られたみたいだな!何もないとこに出たっぽいが、これから動き回るからその方がありがてえ」


 感成があたりを見渡していった。あたりは前にも見たような一面草原、ただ今回は私が最初にいた中心都市からは離れているようで、遠くにはあのでっかい城みたいな建物が見える。

 感知の機械によって開けられたワープホールを通って夢の世界に来たわけだが…本当にちゃんと来られるとは…これには流石に驚きを隠せない。

 でも今度からこっちにくる時旧校舎経由する必要がなくなるね。…てかあそこから夢の世界に行けるってこと自体、そこでドヤ顔してるやつが仕込んだ罠だったわけだけど。

 んで、そのドヤ顔してるやつ―感知がこっちに近づいてきて言う。


「もう皆さん!遅いですよ!!」


「置いてったのそっちでしょうよ…」


「感知〜熱くなるのはいいがもう少し周り見ようぜ〜」


「そ、それはそうですね…ごめんなさいつい興奮してしまって」


 私がつぶやいた後、感成が注意する。ちゃんと謝ってるあたり良いやつなんだけど…感知は自分の発明とかになると熱くなるタイプだな〜…ある意味陽葵とは別の意味でマイペースなのかもしれない。




「…で、切り替えるけど、最初は武器を選ぶんだっけ?」


 少し沈黙の間があって、誰も話し出さないので仕方なく私から話を出した。私はもう決まってるけどね、選択肢にないかもだけど。

 感知と感成が説明を始める。


「あ、そうでしたね!えっとお二人にはまず戦うための武器を選んでもらいます!まあ武器を使った訓練や戦闘にたどり着くまでには時間がかかりますが、将来使うために、最初からメニューをカスタマイズしていくわけです!」


「武器って言っても種類は星の数ほどある!感知は剣、オレはランス、輪花は基本双剣だが、サブウェポンとしてボール使ってるよな!」


「「ボール??」」


 珍しく陽葵とハモった。ボールが武器ってどゆこと…?球技が得意とは言ってたけど…どうやって戦うのか全く想像つかん。


「二人とも想像できないって顔してるわね、まあ確かにボールで戦う戦士なんてあたしくらいしかいないもの!あたしの戦闘用のボールはね…」


 輪花がポケットから小さな何かを取り出す。それを宙に投げれば、空中でむくむくと大きくなって、輪花の手元に戻った時には学校でよく見るようなサイズのボールが出てくる。ただ学校で使ってるのと明らかに違うのは、ところどころに刃がついてること。物騒なボールだなあ…いや武器なんだから当然か。


「こんな感じで戦闘用に改造されてるの!投げたり蹴ったりして相手にダメージを与えるのよ!これ以外にもいろんなサイズ、用途、種類があるわよ!」


「これ全部輪花が作ってるんだよな〜」


「ええ!ボールが好きで集めてるの!だからどのボールをどんなふうに使うか、改造するかを考えるのは得意よ♪」


 いやボールって改造して武器にするためのものじゃないんですけど…まあ、一部の球技は最初拷問として生まれたとかあるからあながち間違ってないのか…?てかボールが好きで集めてるってこれまた変わった趣味だな〜…こんな感じの子だから陽葵と気が合うのかも知れんが。


「話はそれましたが、武器は人によって千差万別十人十色!ってことで自分が使いたい、使いやすいものを使いましょう!と言っても、いきなり輪花みたいにオリジナリティ溢れる武器やクセが強い武器で戦うと必ずと言っていいほど苦戦するので…」


 そういうと感知たち三兄妹はせっせといくつか、いかにも初期装備って感じな木製の武器を置く。


「じゃじゃーん!初心者さんにおすすめの武器をいくつか持ってきましたー!!と言う訳でここから使ってみたいなって武器を選んでみてください!!」


「ちょっとしょぼいのは勘弁な、本格的に使う武器が決まったらちゃんとしたの買えるから!」


「もし合わないな〜って思ってもその時は変えればOKよ!直感で選んじゃって!」


 ほ〜ん結構色々あるんだなあ…とりあえず一つ一つ見てみる?

 一番左は剣、これは定番っぽいよね。次が槍、ふむふむこれも定番…でその次が双剣、そして盾と、盾だと防御メインって感じ?その隣は杖に銃…遠距離系かあ、銃使うのもカッコ良さそうだなあ〜…ここ以外で使うと捕まるけど。んでんで?その次は…


「…グローブ?」


 いつの間にか手にとってつぶやいてた。他はいかにもって感じだから若干異質…でもこれは多分…


「あ、グローブですか?それは格闘術、拳で戦う人の武器ですね!武器が自分の体そのものになるため、他より若干危険度と難易度が上がりますけど…」


「ん、じゃ私これで」


 迷わずグローブを選ぶ。それを見た感知は少し驚いた顔をして


「意外ですね、和愛さんなら遠距離系を選ぶと思っていたのに」


 って笑う。私って遠距離のイメージある?あ、もしかしてめんどくさがりだから自分があんまり前衛に出ない遠距離武器を…って思ったのかな?今思えばその方が良かったのかもしれんな…でももう決めてたから。


「…前に格闘術を習ってた。戦うなら少し慣れてた方がいいかなって…まあそのうち変えるかもしれないけどね」


「ほうほう!それまた意外な経歴をお持ちで!!」


「親にめっちゃ勧められて、仕方なくやってただけ。まあ最終的にやることを決めたのは私だけど…それに、あの時の私は今と違ってたから」


「なるほど〜昔の和愛さんも気になりますね〜!」


「いや知らんでいいから」


 あの時の私はこんなに無気力じゃなかったから、きっと格闘術やってたんだろうなあ…いつからだっけこんな無気力になったの…。


「おねいちゃー武器決まったぞー」


 また別のことを考えてぼーっとしてたみたい、陽葵の声で現実に戻される。陽葵武器何にしたんだろ?こいつのことだしマジカルな杖…とか?


「…ん、何にしたの?」


「じゃーんーやりー」


「槍…?何で?」


「ちょっかんー」


 …感知が私のことを意外って言ったのがわかった気がする、人の性格とか普段の行動で偏見って出来上がるんだね…。




「さて!これでお二人とも武器を選びましたね!戦いへの第一歩です!!」


 戦いへの第一歩なんて踏み出していいのか悪いのか…めんどくさいけどもう戻れないもんな〜やるしかないのか…。


「んで、次は体力作りらしいけど何すんだ?ランニングか?」


 感成が感知に聞く。ランニングとか一番だるいやつじゃんやりたくない〜…。


「そうですね〜体力をつけるには手っ取り早いですし…あとは…」


 感知が言いかけたその時、草原に大声が響く。



  「「た、助けてくれ!!!」」



「…!?何事だ!?」


 みんなが振り返ると、そこにはヘトヘトになりながら逃げてくるジャージの男の人が。


「み、見たこともない生き物に追われてんだ!!ヘドロの塊のようなドロドロした気持ち悪い…ひい!?こっちに来る!?」


 また慌てて逃げようとする。そしてその人が言ってた生き物もこちらに近づいてくる。本当にドロドロしてて気持ち悪いし…てかくっさ!?臭いがやばい…何だあれ!?


「キモいー」


 こんな状況でもいつものトーンを保ちながら、しかしやっぱ怖いのか(?)、陽葵が私に近寄って腕にしがみつく。

 感成が咄嗟にみんなの前に出る。


「感知!お前のマシンであいつを元の世界に!!」


「わかってます!!輪花!誘導を!!」


「わかったよ!!」


 先ほども使った『どこでもワープホール』を男の人が逃げる方向に向けて起動する。驚くその人に輪花がそのままワープホールへ入るよう誘導して、その人は無事に逃げることができた。


「よし!よくやった!!」


 感成が二人に向けて声をかける。そして改めて気持ち悪い生き物に向き合う。


「…この魔獣、スライムだな。だが普通のスライムはここまで汚くない、これも異変と関係あんのか…?それにあいつもきっと…」


 こいつがこの世界版のスライムか…可愛いイメージあったからなんかショックというか…。そして今感成が言いかけたこと…今は話せる状況じゃないのわかってるけど、気になって口に出てしまった。


「ねえ、あの男の人明らかにこの世界の人じゃないよね?この世界にジャージなんてないだろうし…こっちにくるのって簡単じゃないはずじゃ…」


「多分運悪くワープホール入って迷い込んだんだろうな。あれは本当にごく稀だが、自然に湧いて出てくるから。けどおかしいのはそこじゃない…あとで話す!」


 へー…ワープホールって自然にできるんだ…まあそれはわかったけどおかしいのはそこじゃないの…?気になることだらけだが今はこの状況を何とかしないと…!


「お兄様!周囲に人はいません!」


 感知がそう言うと同時に感成に武器を渡す。感成の武器は剣に近い見た目をしたランスと小さな盾。


「おう!サンキュー!」


 感成が武器を受け取ると、軽く腕を回してから構える。ピリピリした闘気っての?こっちの方まで伝わってきて緊張してきた…。


「わくてかーわくてかー」


 私の腕にしがみついてる陽葵が目を輝かせて感成をみる。さっきは怖そうにしてたのに…あんたは緊張感ってもんがないのか…。


「相手はスライム、お手本にピッタリだな!よし、よーく見とけよー!」


 互いが少しも動かず、静止した時間が流れる。

 スライム側が少し動いたその刹那、感成は瞬時に駆け出しスライムにランスを一突き。体制を崩したスライムにさらにもう一突き。


「おらあ!」


 そこから魔法?なのかわからないけど、ランスから光のビーム?を出して攻撃するコンボが決まる。

 相手側も体制を立て直し、感成に襲いかかる。


「よっと!」


 それをアクロバティックにジャンプして回避し、スライムの後ろに回る。

 蹴飛ばした後に再び一突き、そして光のビーム攻撃。


「終わりだ!!」


 最後にランスをバットのように振るって吹っ飛ばしフィニッシュ!ホームラン!!…これはランスの使い方合ってるのか?

 宙に舞ったスライムは空の上で煌めきの花火となって消えていった…。


「…ふう、終わったな。必殺使えば一発だったけど、今回は戦い方の見本ってことで!お前たちには将来的にこうなってもらうぜ!」


「わーすげー」


 陽葵がスタンディングオベーションしている。いや確かにすごかったけど…あんなビーム出したり高くジャンプしたり無理ですが!?わあ…私あんな超人にはなれないよ…あ、てか感知たちって人間じゃないんだっけ?なら尚更無理だ…。


「あはは…あそこまでじゃなくても、きちんと訓練を積めば戦えますよ!和愛さん大丈夫です!」


 多分考えてることが顔に出ていたんだろう、感知がそう声をかけてくれた…。


「…だといいけど」


 自分にそうなれるだろうかってちょっと半信半疑になってる…だからそうやってそっけなく返してしまった。




「うっし!じゃあ改めて体力作りだな!」


「待って感成」


 しばらくして、話を本題に戻そうとした感成をとめた。


「さっき後で話すって言ってたことの続き話してよ。おかしいのはそこじゃないってどういうこと?」


 さっきのこと結構気になってるんだよね…こっちの世界にごく稀に人が来るのは自然?なのはわかったけど。


「ん?ああそれか…実はだな、お前が夢の世界に始めてきた日以来、現れるワープホールの数がめっちゃ増えて、でそれに比例して夢の世界に迷い込む人もめっちゃ増えてんだよ」


 ええ…?どゆこと?私がこっちにきた日以来って、なんか私が悪いこと持ち込んだみたいなんですけど…。何でなん…?


「実際にその日から夢の世界に迷い込む人がこれまでの年間平均の10倍以上に…原因は現在調査中で詳しいことはわかってません」


 そんなに増えてるの?ますます謎…これも魔力のカケラの異変とやらの影響なのか…?面倒ごとのバーゲンセールかな…?


「迷いこむ人が増えれば、どちらの世界も人々は混乱するかもしれない。でも今のところは増えてるって言ってもまだ少ないし、原因もわかってない…まーつまり今考えても無駄ってことだ!そのうちそれ関連の調査も依頼されるかもだが、今はそんなことより体動かそうぜ!」


「いや納得できんのだが…」


 私が悪いもの持ち込んだみたいでずっとモヤモヤしてるけど、その隣で急に輪花が叫び出す。


「あたしもうじっとしてられなーい!戦ってるの見たらあたしも動きたくなっちゃった!ひまりん行くよ!ここ周辺30周!!」


「わーさんじゅしゅー」


 陽葵の手を引っ張り引き摺りながら輪花が猛スピードで走り出す。元気だなあ…てか陽葵走る気ねえだろ!!

 その光景を見た感知はクスッと笑い


「そうですね、僕たちは今やるべきことに集中しましょう!」


 と走り出す。考えてくれそうなあの感知まで…


「ほらお前も行ってこーい!」


「おわ!?…あーもーわかったよ走りゃいいんでしょ…!」


 にっと笑う感成に背中を押されて、よくわからないモヤモヤを抱えつつも仕方なく私もこの広い草原を走り始めた…。



 その後、私は三週、陽葵は一週走っただけでリタイア、少し休んでから別のトレーニングもしたけど一瞬で終わり、次の日にはひどい筋肉痛を味わうことになったとさ。…こんなんでこの先本当に大丈夫か?


  第七話に続く

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