第2話 勝手に勇者になってたんだが
「突然のお呼び出し大変申し訳ございません、勇者様。ようこそ夢の世界へ」
…え?何?どゆこと?いきなり情報量多すぎて頭真っ白なんだけど…。
…よし、とりあえずここに来た経緯を振り返って整理するか。
えっと…確か普通に学校行ってきて、その後に陽葵に連れられて例の噂試したでしょ?そしたら謎の声が聞こえて、急に落下し始めて…気づいたら一面原っぱのここにいたと。そんで誰か知らないけど耳尖ってる優しそうなおじいちゃんにいきなり勇者って歓迎された。うん、ぜんっぜん意味わからん。
まず勇者って誰、次にここどこだよ、さらに明らかに人じゃない人いるけど何?
そう考えてる間、私は気難しい顔でもしてたのか、勇者って言った目の前の老人が困り顔になっていた。
「…な、何かお気に召されないようなことを申し上げましたかな、
「えっ…いや…何も…」
流石にこんな状況だと、いつものキツイ態度になれないようだ。私にしては珍しく、他人の前で素が出ている。
とりあえず、まずこのおじいちゃんが誰なのか聞いてみるか。なんか名前知らない人と話すのは嫌だし。
「…え、えっと…誰…ですか…?」
なるべく丁寧な態度を心がけたけど、どうしても人見知りが出ちゃうな…。モゴモゴしながらそう聞いたら、老人は驚いたように目を見開いた後、申し訳なさそうな顔をして
「これはこれは!大変失礼いたしました、
すみません、と丁寧にお辞儀して謝ってきた。いや、そこまで丁寧に接してもらわなくていいんだけど…何故にこんな優遇されてるの?
そんなことを思っていれば、老人は咳払いして私に名乗る。
「お初にお目にかかります、
老人は大きく丁寧なお辞儀をする。
「は、はあ…どうも…」
とりあえず頷いたが…さらに混乱してきた…夢の世界?ヘーワキョーカイ?意味わからん単語ばっか…。
んで!一瞬スルーしたけどなんで私の名前知ってるのこの人⁉︎初対面だよね⁉︎マジなんなん怖すぎるんだが⁉︎
余計混乱してパニクってる私に、チャールズさんは声をかける。
「色々知りたいことがございましょう。ここでは落ち着けないでしょうし、場所を移しましょうか。どうぞこちらへ」
チャールズさんは歩き出したけど…一体どこに?
「あ…てか陽葵…」
不意に声が出た。どこか行くにしても、気絶してるこいつ置いてくわけには…。
「妹の陽葵様でございますね、お任せを」
そう言ってチャールズさんが持ってた杖を一振りすると…
「う、浮いたあ!?」
後退りして崩れ落ちた…いやマジで、言葉通り陽葵が浮いてるの!!糸も何もないのに!さらに一振りすると…
「き、消えたあああ!?!?」
さらに大声が出る。言葉通りに陽葵が跡形もなく消えた!!マジで!語彙力なさすぎるけど事実!現実?これ夢…?体震えてんだが…。
「ご安心くださいませ、これから我々が向かう先へ魔法で転送させていただきました」
魔法!?魔法って言ったこのおじいちゃん!?魔法ってマジで!?う…ほんと何…ここに来てから全てが情報量過多なんだが…。
「さて、我々も参りましょうか。お教えすべきこともたくさんございますからね」
チャールズさんは座り込んだままの私に優しく手を差し伸べる。
そうだよ…この意味不明な場所についても、なんで私たちがここに来ちゃったのかも、全部説明してもらわなきゃ…!
「は…はい…!」
私はチャールズさんの手を取って立ち上がった。そしてチャールズさんはどこかに向け歩き始め、私はそれについて行った。
…一つツッコんでいい?私たちは魔法で瞬間移動しないんかい!
しばらく歩いて、ここがかなりの大都市だということが分かった。ビルとか電車とかがあるわけじゃないけど、なんていうの…中世のヨーロッパみたいっていうか…?真ん中にでっかいお城みたいな建物があって、周囲に放射状に街が広がってる。ちなみに私が最初にいた原っぱはここの中でも一番大きな公園だったらしい。今歩いてるところは商店街なのかな?店がたくさんあって、買い物する人で賑わってる。建物も異国情緒あって、ちょっとした旅行に来たみたい。…実際は迷い混んだんだけど。
でもやっぱり一番は…
「…マジでここどこ…?」
全く見たことない…てか魔法ある時点で色々おかしいんだけどさ!ほんと私たちどこ来ちゃったんだ…。
不意に呟いた言葉に気づいてくれたのか、チャールズさんが歩きながら説明してくれた。
「ここは夢の世界の中心の国、協会政治国の『プロスタル』でございますぞ」
「プロスタル…」
さっきの一言だけでも聞きたいことが多すぎるが…とりあえず地名は知れた。相変わらずどこかわからんが。
で、チャールズさんはさっきから夢の世界って言ってるんだよね、噂で行けるっていう、御伽話の…。噂成功しちゃってるし、実在してたんだ…。そこで一つ疑問が浮かぶ。
「あの、夢の世界ってことはここって夢の中なんですか?」
前からそれが気になってた。夢の世界の御伽噺って結局ただの夢日記じゃんって思ってたし。それに対しチャールズさんは優しく答える。
「いえいえ、『夢の世界』と呼ばれているだけであり、ここはしっかり現実でございますぞ。試しに、何か現実だと確かめられることをしてみてはいかがですかな?」
言われた通り、試してみる。自分の頬をつねってみた。…痛い。ちゃんと現実だ。魔法とかも全部マジなんだ…。こんなことあるんだ…。
「大昔、人間たちに虐げられた他の種族たちが求めた『夢の世界』、と言うのが由来と言われておりますな」
いや由来悲しっ!メルヘンな名前のわりに闇深…!人間に虐げられるって何があったのさ…。
「他にも質問等ございましたら、簡潔にお答えいたしますぞ」
しばらくの沈黙の後、チャールズさんがそう言ってくれた。聞きたいこと多すぎるけど、とりあえず一つずつ聞いてみるか。
「えっとじゃあ…チャールズさんって人間なんですか?」
…これ何気に気になる…耳尖ってるし、よくあるとこだとエルフとかかな?
「
エルフ…!てか何度も言うけど実在してんだ…。よくあるファンタジー物の世界に迷い込んだって考えたらちょっと楽しい…いやそんなことないな、めんどいのにかわりない。第一帰れるかもわからないし!でもそれは後でわかるだろうし置いといて…次の質問をした。
「私たちは今どこに向かってるんですか?」
「我々は現在、夢の世界平和連合協会―この世界を治める組織、そちらの世界でいうならば、世界規模の政府?のようなものです―その本部に向かっております。あちらに大きな建物が見えますでしょう?」
チャールズさんは街の中心にある、あのお城のような建物を指差す。なるほど、あそこは国の本部のようなとこだったのか…。
「詳しいお話はそちらでいたします、妹様もお先に到着なされておりますよ、勇者様」
そう言って微笑んだ。それはいいんだけどさ…私は一番気になっていたことを聞いた。
「あの…その勇者様って誰のことですか?」
「それはもちろん、貴方様のことでございますぞ和愛様」
…え?私が…勇者…?
いやなった覚えないんだが?てか何故に私?勇者って何すんの?私は早く帰りたいんだが?
そんな不満と疑問が渦巻く中、遠くから見ていた大きな建物がだんだんと近づいてくる。
「そろそろ到着いたしますぞ」
仕方ない、とりあえず説明だけはしっかりしてもらおう。そう思いながら、遠くからでも大きく見える、巨大な本部に足を踏み入れた。
本部に入ってまたしばらく歩く。室内もマジでお城みたいで綺麗だったなー…。そしてある部屋の前に着く。
「こちらでございます、どうぞ」
ドアを開けると、何やら楽しそうな声が聞こえてくる。そこにいたのは目が覚め、そして楽しそうにはしゃいでる陽葵であった。
「あ、おねいちゃー!」
気づいたやいなやこちらへやってくる。珍しくテンション高いな…?
「じゃーんー!見てみてー小人さーんー!」
こちらへ来た陽葵は手の中にある、スーツを着てて少しハゲてる小さなおっさんの人形?を見せてきた。
「やめんか!ワタシはおもちゃではない!」
そして手の上のおっさんがしゃべった…。
「…何これ?」
「小人のかんちょーさんー!」
「いやますますわからんし」
いきなり何このカオス?いや夢の世界にきた時からカオスだったけど。
そんな私たちのもとへチャールズさんがやってきて紹介してくれた。
「この方は協会のギルド・戦士団を束ねる最高責任者、小人族のフィト長官でございますぞ。先にここに到着されていた陽葵様の護衛をお任せしておりました」
「フンッ!護衛だと!?ワタシはこの間ずっと遊ばれていたのだぞ!?キサマらもっと早く来い!!」
なんかいきなりキレられたんだが…解せぬ。体は小さいのに態度はでかいな…上手いこと言ったかも、言ってないけど。
「ねーねーおねいちゃー、ここどこー?そのおじいちゃんだーれー?耳尖ってるー!」
陽葵は楽しそうであり、そして不思議そうだ。
「それは今から改めてお話しいたしますぞ。まずはお席におつき下さいませ」
チャールズさんは相変わらず優しく微笑んでいる。そしていつの間にか用意してあったティーカップに、これまたいつの間にか用意してあったティーポットから紅茶をいれる。いい香りがこちらに届き始めた頃に、私たちの前にカップを置いた。
「どうぞ、夢の世界原産のエーテルティーでございます。お熱いですからお気をつけて」
「ありがとうございます」
一口飲んでみる…美味しい!紅茶ではあるんだけど、今まで飲んだことない変わった味…甘味が強いけど、少しずつ味が変わっていく…!これ欲しいかも!
私が紅茶を数口飲んだ後、チャールズさんも席につく。そして顔つきが先ほどとは違い、真剣なものになる。…そうだった、紅茶飲みに来たんじゃなかった。
「…さて、お二人が何故ここへ呼ばれたのか、何故勇者が必要なのか、今夢の世界で何が起きているのか…全てお話ししなくてはなりませんな」
紅茶の香りが漂う中、いよいよ一番気になる本題へと話を進めた。
第三話へ続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます