第14話 一筋の光

 俺は医師の言葉に深く動揺を覚えた。

 言葉の意味も全く理解を、したくない。

 だけど、医師は残酷にもそのまま、言葉を続ける。


「これを見て下さい」


 医師はレントンゲンを貼り、俺に見る様に言って来た。

 言われるように俺は、レントンゲンを見る。


「ここの心臓部分を見て下さい」


 医師は指を指し、俺に説明をして来る。


「彼女、真昼さんの心臓部分に花びらが溜まっています。普通は溜まる事なんてない……」


 医師は不思議そうな表情をしていた。

 多分、いままで見た事がないんだろう。

 だが、俺は何故真昼の心臓部分に、花びらが溜まっている理由が分かる。

 真昼の持病が関係している。

 俺は医師に言う。


「花咲き病の事知っていますか?」

「え? 有名な奇病だね。僕は長らく医者をやっているけど、実際の病人は見た事がない」

「レントンゲンを見て、何も気づきませんか?」


 医師に聞いて見ると、医師は一瞬。

 怪訝な表情をしていたが、何かに気付いたように唖然とする。


「まさか──彼女は」

「真昼は奇病を持っています……」

「だとしても可笑しい。普通の花咲き病なら……」


 普通の花咲き病ならば、心臓に花びらが溜まったりはしない。

 真昼はただの花咲き病ではないのだ。

 医師はきっとまだ──気付いてないだろう。

 俺が明確な事を教えない限り、この医師は真実を知らないまま。

 俺は口を開き、医師に言う。


「合併病って知っていますか?」

「合併病? それは勿論知っているよ。医療業界では有名な物だよ」

「まだ気づきませんか?」


 俺の言葉を聞いて、医師は不思議そうな表情をする。

 少し考えるように、レントンゲンを見ていた。

 医師は何かを、気付いたかのようにハッとした。


「まさか彼女は合併病……なのか!?」

「はい。合併は合併でも奇病同士のですけどね」

「彼女は一体……」


 医師はかなり困惑した表情をし、すがるように俺に聞いて来る。

 俺は医師に一言……


天花症候群てんかしょうこうぐん

 医師は病名を聞き、どんどんと顔色が青ざめいていく。

 どうやら真昼の持病は……医療業界では有名のようだ。

 俺も最初真昼から告げられた時頭の中は。

 ? マークでいっぱいだった。


「君は天花症候群について、どこまで知っている?」

「全部です!」

「そうか……」


 医師は椅子に持たれ、諦めの表情をしながら、俺に言ってくる。


「君の彼女は完全に助からない」


 余命宣告をされ、もしかしたら早まったかもしれない。

 だけど、俺は微かな希望を抱いていた。

 だが、そんな希望も虚しく──医師の一言により破綻する。


「どうにかならないんですか!? いまは昔と違い、奇病に対しても治療法や治療薬もある!」

「君も天花症候群の事知っているならば、分かるだろ。助けようがないと」

「それでも……俺は少しの希望でもあるならば掛けたい!」

 俺の言葉は虚しく……部屋に響くだけ。

 医師は俺の肩に手を置き、


「あまりにも遅いんだよ。もう少し速ければ、事態は変わっていたかもしれない」


 いま医師の言葉、全てが残酷な現実だと思い知らされる。

 でも、俺は諦める事は一切出来ず、医師に可能性を聞く。


「はぁ、君は知っているかもしれないけど。詳しく彼女の症状教えるよ」


 医師は真昼の病名が、分かった事に症状を詳しく説明をして来る。


「天花症候群。完璧にはまだ発見をされてないが、一番有名な説がある」

「さっきほど言ってた、花咲き病。それに天使病」

「その通り。その二つの奇病が、合併したのが天花症候群と言われている」


 花咲き病、それだけだったら、もう既に真昼は完治をしているだろう。

 それに対し、天使病と合併をした為、不治の病とされている。


「真昼さんは一体いくつの時から、天花症候群に……」

「生まれ付きだそうです」

「生まれ付き!?」


 医師は俺の言葉に驚愕をしていた。

 俺も調べた時、驚きが隠せなかった。

 なんせ、天花症候群を患ったら、長くて五年。

 短くて二年で生命が終わる。

 治る事のない不治の病。


「信じられないな。奇跡にも近い、でももう助からない。心臓部分に花びらが溜まっている」

「花びらを退かす事はできないんですか?」

「無理だ。下手をすれば血管の部分を傷つけてしまう」


 くそ! だったら一体どうすればいい? 不治の病かもしれない。

 だけど、今の医療機関ならば、なにか変わるかもしれない。


「ごめんだけど──君の期待には応えられない」

「……頼みます。俺の命はどうなってもいい! でも真昼を、真昼を助けてくれ!」

「君、その目は!?」


 医師は俺の目を見て、驚きを隠せていなかった。

 俺の目……いま赤く光っているのだろう。


「君、もしかして奇病を?」

「はい。俺も真昼と一生で合併病を」

「聞いてもいいかい? どんな合併病を」


 医師の問いに俺は、ほんの一瞬戸惑い。

 言うのを躊躇った。

 だが、言うことにした。


「俺は……蛙殺現象」


 俺は顔を下に向け、医師の言葉を待っていた。


「蛙殺現象。本当に存在するとは」


 俺の場合、真昼とは違い、生まれ付きではない。

 真昼と付き合って、二週間経ち始めた時、症状が現れ始めた。

 まず最初は嫌悪感。

 そして次に吐き気は現れ始めた。


「君の場合、まだいい方だな。合併の一つ、殺人病では大体殺してしまう事が多い」

「でも、俺は殺す前に自分の意思に戻れた」



 蛙殺現象、殺人病のように目が赤くなり、大切な人を殺す。

 と、完治する病気、または血を見ると、症状が一先ず落ち着く。

 そして蛙化現象のように気持ち悪くなる。

 その二つが、組み合わさったのが、蛙殺現象。

 次の瞬間、医師は俺に名刺を渡して来た。


「これは一体?」

「奇病専攻の病院の院長の名刺だ。ボクが案内状を出すから、そこに行くといい」

「でも歩きでは……」

「ドクターヘリを出す」

「そこまで知って貰うのは……」

「もうこれは完全に私の私情だ!」

「ッ!? ありがとうございます!」


 俺は涙ぐみ、医師に深々く頭を下げ、部屋を出る。

 真昼が助かる──ほんの握りかもしれない。

 だけど、少し……一筋の光が見えて来た。

 廊下に出ると、もう既に奏達は居らず、俺は医師の指示が来るまで待機をする。








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