第12話 緊急事態!

「ごめん、ごめん……本当にごめん」


 俺はひたすら真昼に謝り続けた。

 真昼は何も言わずに、俺の首に手を回し、抱き寄せる。

 俺は自分のやった罪の重さを、感じているのか。

 真昼の方を見る事はできなかった。

 そんな中、沈黙が続く。


「音羽君、ごめんね」

「……何が?」


 真昼の言葉に戸惑いが、隠せなかった。

 俺はその時、初めて真昼の方を見る。

 真昼は涙を流しながら笑っていた。


「私のせいで辛い思いをさせて……」


 違う、違うよ真昼。

 俺じゃなく、お前に辛い思いをさせている。

 あんなクソみたいな病気が、発症したとしても真昼の首を絞めてしまった。

 その事実は何一つ変わらない。

 俺は真昼に何一つ、言葉を掛けてあげれない。


「私ね、音羽君の事知っていたよ」


 真昼の言葉に一瞬、戸惑った。

 だが、すぐに理解をした。

 寺の時にいくらでも、真昼に病気を持たれるのを、ばれているだろう。


「何を知っているんだ?」


 俺はとぼけるように真昼に言う。

 真昼は理解したような顔をして、俺の頭を撫でてくる。

 撫でられると、何故か心地よく。

 気分がよくなってしまう。

 一定に真昼は撫でると、言って来た。


「君の体についてだよ。別に嘘つかなくてもとぼけなくていいよ」

「なんか含みのある言い方だな」


 真昼は不敵な笑みを浮かべる。

 少し間を置いてから言ってきた。


「君がネットカフェの時、言っていた言葉の意味を、少しだけ理解したよ」

「ネットカフェ?」


 真昼の言葉に疑問を持った。

 だが、すぐに思い出す事ができた。

 あの時の言葉……真昼に聞かれたか。

 寝た振りをされた。


「ゲホゲホッ、そろそろきついかな」


 真昼は見るからに悪化をしていた。

 俺の頭から手が退いた。

 だんだんと真昼の顔色が悪くなっていく。


「おい真昼?!」

「音羽君、本当……ごめんね」


 真昼は言い終わると、体の力が抜けたように俺に重みが掛かる。

 首から手が離れていき、真昼はバタンと、横に倒れた。


「え?」


 俺は一体何が起きたか……理解を、一切できなかった。

 自分の体が硬直し、胸がドクン、ドクンと鳴る。

 直後、心臓がまるで、握り潰される感覚に落ちる。


「くそくそ、なんでこうなるんだよ!?」


 俺は自分に怒りを隠せていなかった。

 だが、すぐに我へ帰り、真昼の体を揺するなりした。

 反応は一切なく、体に熱が帯びている。

 今すぐ病院に連れて行った方がいい。

 とりあえず女将さんを呼ばないと。


「女将さん……すいません急用です。部屋に来て下さい!」

「え。あ、はい分かりました」


 俺は部屋に、付属されている固定電話を、使い女将さんを呼んだ。

 最初は女将さんは困惑をしていた。

 だげど、俺の慌てる──焦ってるような声。

 女将さんはその事に気づいたのか。

 慌てて俺と真昼が、宿泊している部屋に来た。


「お客様! 一体どう──救急車を呼びます」

「……お願いします」


 女将さんは真昼の姿を見て、察したみたいに言った。

 俺は女将さんの言葉に、頼む事しかできなかった。

 女将さんは深く、俺に聞いてくる事がない。

 ただ一言。


 もうすぐで救急車が来ます。なのでお客様は荷物を」

「はい、お手数を掛けて申し訳ありません」


 女将さんはお辞儀をするだけだった。

 夜遅いのに救急車が速く来るとは、到底思えなかった。

 だが、救急車のサイレン音が聞こえる。


「お客様救急車が」

「はい……」


 俺は何も動く気力が、何一つなかった。

 真昼はまだ助かる可能性がある。

 でも、俺はもう既に失った気分で居った。

 少し経ってから、ドッドッドと、足音が響く。

 襖を勢いよく開けられ、部屋に四、五人の人が入って来る。

 見た目から救急隊員と分かる。

 二人ほどがタンカーを持っていた。

 救急隊員は真昼を、タンカーに乗せ、運んで行く。

 俺はただ、その光景を見てるしか、なかった。

 そんな時、女将さんが優しく、

「お客様は付き添いを、しなくてよろしいんですか?」


 俺はその言葉に心がグッとなり、今、自分がやるべき事を、頭の中では理解ができている。

 だけど、行動に移す事はできない。

 自分の中で真昼と、行動を共にしていいのか。

 と、葛藤が合った。

 そんな葛藤を吹き飛ばす、かのように女将さんは言葉を掛けた。


「貴方は一体何がしたいんです!? 自分の大事な人が病院に運ばれる。それなのにここで立ちどまるな!」


 女将さんの喝の言葉を聞いて、


「俺は俺は……彼奴の傍に居てやらないと」


 一人で念仏のように呟き、部屋を出る。

 そして救急隊員を追いかけ、救急車の前までに行く。

 そこで救急隊員は俺に、


「付き添い人は貴方ですか?」

「はい、自分が付き添いで行きます」


 救急隊員の言葉に淡々と答え、タンカーと一緒に俺も乗る。

 扉が閉まると、救急車は出発した。

 サイレン音を流しながら道路を走る。

 俺は真昼の方を見ていた。

 救急隊員になにか聞かれると、思っていた。

 だが、一切そういう事はなく、救急車が停まった。

 その時に俺に声を掛けて来た。


「病院に着きました。運びますので降りて下さい」


 救急隊員の言葉に素直に聞き、俺は救急車から降り、タンカーは病院に運ばれる。

 病院の中には、医師と看護師が複数降り、タンカーを押し。

 手術室に向かう。

 俺も道中までは一緒に向かった。

 だが、手術室に目前になると、


「ここで待っていて下さい!」

「後は私達が何とかしてみます」


 医師は俺に廊下で待てるように言った。

 それはそうだ。

 素人、部外者を手術室に、入れる訳にはいかない。

 ああ、本当にくそが……俺があんな事を──しなければ、真昼ともう少し……。


「俺何て存在しなければよかったのにな」

「ああ、本当にそうだな!」


 聞き覚えのある声が、聞こえた瞬間。

 ドンッと鈍い音がし、俺の体は後ろの壁に激突した。

 背中辺りから激痛が走る。

 左の頬からジンジンと痛み、口の中から血の味がする。


「お前がいながら、こんな事になってどうするんだよ?」

「うるせぇ……何一つ分からない癖に言うな」


 俺は声の主に軽口を叩く。

 喋る度に血の味がする。

 ぺっと口の中に溜まっている物を、吐き出す。

 少量の血と一つの歯が取れた。

 歯が一本抜けたか。

 病院内でこんな騒動、しかも手術室で真昼が治療中。


「何も知らんさ、ただお前が馬鹿やったに過ぎないだろ?」

「確かにそうだな。まぁてめぇの普段の行いよりはましだ」

「何だと!?」


 俺は男に皮肉ぽく言った。

 男は怒り心頭になっている。

 男は再び殴る為に腕を振り上げる。

 モーションが大きく、避けようと思ったら簡単に避けれる。

 でも俺、は真昼にした行いを省みて、甘んじて受け用とした。

 だが、俺に拳が届く事がなかった。

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