第13話 残酷な一言

「ここは病院ですよ! そこまでにして下さい」

「理玖……」

「理玖貴様!」


 俺と男は同時に言う。

 理玖は俺が、受ける筈だった拳を、受け止めた。

 何故理玖がここにいる? それ以前にどうしてこいつが、この病院に居る? いま分からない事ばっか起きている。

 男は拳を退かし、理玖に怒声を上げる。


「理玖、貴様何のつもりだ?」

「ボスこそ何のつもりですか?」

「貴様! 俺に口答えするきか!?」


 男の怒声は病院の廊下に響いた。

 こいつの怒声で、真昼の治療に影響が起きないといいけど……。


「てめぇも他人の振りしてるんじゃねぇぞ!音羽!」

「病院で騒ぐな奏」


 男の名前は奏、理玖達……問題児のボス。

 部下である理玖──歯向かわれ、苛立ちを覚え、次は俺に標的を向けて来た。

 奏という名前には相応しくない程。

 筋骨隆々のガタイにガラが悪い。

 問題児共が何故真昼を狙うのか。

 奏の登場で全てが分かった。

 だから俺は奏に言う。


「お前はまだ執着しているのか」

「人に説教したかと思えば、次は真意を知ろうとするのか」


 俺の言葉に対し、奏は怒りとも哀れんでいる、そんな声音をしている。

 どっちにしろ、俺は少し苛立ちを覚える。

 だけど怒りを自分の中に静める。

 真昼がいま命の危険に落ちている。

 それなのに俺が、怒り任せに奏と接しては

 いけない。

 奏は俺の様子を窺って来る。

 視線の一つ一つに嫌悪感を抱く。

 真昼の時とは違い。

 俺という人間が根本的に、この男に嫌悪感を抱いてしまう。


「どうした黙って?」

「………」


 この男の言葉を聞くだけで、怒りを覚える。

 後少し──こいつが喋れば、俺は感情を怒りに呑み込まれるだろう。

 奏の行動がスローモーションに見える。

 奏の口がゆっくり──ゆっくりと、口が開くのが分かる。


「何も喋れんのか」

「黙れ!」

「先輩落ち着いて下さい!」

「おお、いい威勢で啖呵だな」


 奏の舐め腐った態度。

 その態度を見るだけで、苛立ちを覚えるし、こいつをぶっ飛ばしたい!


「ぶっ潰す」

「掛かって来いよ。雑魚が」


 奏の最後の言葉に俺は──掴み掛かろうとした。

 だが、それを理玖が制止する。

 理玖は制止をしているが、俺を抑えきれてない。


「おいおい、その程度か? 情けないカスやろうだな」


 理玖が俺を制止している中、奏は煽りに煽り散らかす。


「ダメだ」


 俺は一言呟くと、全身に力を入れ、理玖の制止を振り解こうとする。

 だが、理玖は振り解けないように力を入れる。

 腕を前へ振りぬき、少し振り解け、奏の元に前進しようとした。

 でもその時、「俺が言える立場ではないっす。だけど真昼さんが悲しみますよ」と、理玖に言われ俺は動きを止める。


「真昼……」

「ちっ、理玖余計な事を」


 奏は不服そうな表情をしていた。

 俺は理玖を見ると、顔から汗を吹き出し、疲労をしている。


「理玖ありがとう。もう下手な行動をする気はない、だから離れろ」

「分かりました」


 俺の言葉に理玖は素直に聞き、俺から離れていった。

 奏はジェスチャーで挑発をしてくる。

 理玖が離れた事を、好気と思ったのだろう。

 だけど、俺はそんな挑発に乗る気は一切ない。

 奏を無視し、ベンチに座り込む。

 奏と理玖は何もアクションを、起こして来なかった。

 アクションを起こさないならば、起こさないで、こっちとしては楽。

 少し──何も考えたくない。

 いまはただ、真昼の無事を祈る事しか、できなかった。

 俺の身はどうなってもいい。

 だけど、あの子──真昼には生きて欲しい。


「……なぁ、お前らどうやってここを知った?」

「いきなりやぶから棒になんだ?」


 俺は考えるのを辞めようとした。

 だが、真昼が無事なのか、考える事は出来なかった。

 だから、少しだけでも考えない為に、俺は疑問で合った事を聞いた。

 理玖は怪訝そうな表情をしている。

 俺が逆に聞かれたとしても、同じく怪訝な顔をするだろう。

 皮肉にもこいつと、同じような行動をする。

 と、考えるだけで苛付く。


「真昼のスマホにある。位置情報さ」

「は!? お前真昼の位置情報を把握しているのか? くそキモいな」

「てめぇ聞いといて何だ! ぶっ飛ばすぞ」

「まぁまぁ二人とも落ち着きましょう」


 理玖が俺達の間に入り、制止をして来る。

 俺から聞いたが、思わぬ答えで少し動揺をした。

 確かに……位置情報を把握していれば、こいつらが病院に居る事が、納得が出来る。

 ただ、ひたすらにキモい。

 位置情報で場所を把握している。

 とはいえ、普通京都まで来るか? こいつの真昼に対しての執念深さは尋常ではない。

 次の瞬間、手術室の扉が開き、医師が出て来た。

 俺はすぐさま、医師に近付いた。


「あの……ま、真昼は……」

「命は何とか繋ぎ止めました。でも少し問題があります」

「問題?」


 真昼の体に問題? まさか!?


「ここでは何です。部屋に入って下さい」


 俺は医師の言葉に従い、部屋に入った。

 部屋に入ると医師は、レントンゲンを手に取り座った。


「どうぞ、お座りになって」


 俺も椅子に座る。


 医師は俺に担当直入に言う。


「彼女……真昼さんはもう長くありません」

「え?」

「辛いかもしれませんが、受け止めて下さい」




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