第7話 発作の恐怖

「音羽君!」

「真昼ごめん。探すのに手こずった」

「ううん、来てくれたからいいよ」

「俺の前でイチャついてるんじゃねぇよ」


 男は俺と真昼の会話に苛立ちを、覚え殴り掛かって来た。

 バカみたいに真っ直ぐの拳。

 一直線に伸びてきた。

 その拳の懐に入り、殴って来る方の手首を押し。

 足払いし、男は床に尻餅をつく。


「え、凄」

「そんな目で俺を見るなよ」


 真昼は引き目で俺を見て来た。

 男の方は一体、何が起きたか分かっていなかった。

 俺は男の目線に合わせ言う。


「こんな有名観光地で、喧嘩しようとするなよ」

「なんなんだ、てめぇは?」

「その子の彼氏だよ。あんま調子に乗ってはダメだよ?」


 なるべく笑みを浮かべ、男を見る。

 男は少し震えていた。

 その直後、聞き慣れた男の声が聞こえる。

 後方から男二人が現れた。


「あ、兄貴、彼奴です! 俺を見せ物にした奴」

「あんたがの連れを……」


 公園で真昼を、無理やり連れて行こうとした男。

 それとリーダー格の男がいる。

 金髪に黒いパーカー、こいつの顔何処かで見覚えが……次の瞬間。

 リーダー格の男は、俺の顔を見て、段々と青ざめていた。

 尻餅をついている男と、隣にいる男を見て怒声を上げる。


「お前ら、この人達に手を出したのか!?」

「人達っていうか……」

「女を単体的に」

「馬鹿野郎!!」


 リーダー格の男は憤怒の表情をし、横のいる男の方に近づく。

 そのまま、男の手を掴むと、男は一瞬で地面に倒れていた。


「え。ええ?!」


 真昼の驚きの声が反響した。

 これ、絶対後で真昼恥ずかしるだろう。

 いまは何も触れないとこ。

 リーダー格の男は俺に近づき、頭を深々く下げた。


「申し訳ありませんでした。貴方様に手を出すつもりはなかったです」

「なぁ理玖、お前らは何の為に、真昼を狙う?」


 俺は理玖に圧を掛けながら問う。

 殺意に近い圧を掛ける。

 理玖は顔を上げると、冷や汗をかいていた。

 こいつ怯えているのか? 怯えるくらいならば、真昼に手を出すなよ。


「あ、ああ……奇病から助ける為です」

「助ける? 具体的に言えよ」


 ドンッと鈍い音がする。

 気づいた時、理玖は倒れ込んでいた。

 俺は拳を握っている。

 気づいたのと、ほぼ同時に舎弟と思われる男から、怒声が聞こえた。


「貴様! 理玖さんを!!」

「うるせぇ、黙っていろ」


 理玖の一言で男は黙る。

 何故、俺は理玖を殴った? 分からない。

 無意識に殴ってしまった。


「俺は貴方を救いたいんです!」

「黙れ、貴様に救われる必要なんかない」

「ねぇどう言う事?」


 真昼は理玖に問い掛ける。

 理玖はその問いに答えようとした。

 俺は理玖が真昼に答える直前、腕を掴みその場を後にする。

 まだ、真昼に俺の事を、バレる訳にはいかない。


「ねぇ音羽君? 君には一体何があるの!?」

「何にもないさ」

「じゃあ、あの人が言ってる意味が、分からないよ!!」


 俺は真昼の言葉に何も、言えなくなった。

 たった一言。

「ごめん」

 真昼はそれ以上、何も言わなくなった。

 真昼を連れ、ひたすら歩き続ける。


「理玖さん。あの人は一体何なんですか?」

「人の皮を被った鬼さ」


「聞こえてるよバーカ」

 俺は理玖には聞こえない声で言う。

 真昼には聞こえてるだろうな。

 でも何も言って来ない。

 真昼は頭がいいから、何かを考えている。

 俺にはそのくらいしか分からない。

 本当はもう少し分かるかもしれない。

 だが俺は知ろうと、しなかった。

 する気がないの間違い。


「鬼ですか」

「鬼は鬼でもこの世で一番悲しく、残酷な使命を授かった鬼」


 使命の鬼。

 彼奴りくも言うようになったな。

 真昼の表情が曇っている。

 理玖の声が、真昼に聞こえていたら、何か気づいたのかもしれない。

 俺は気づいてない事を、信じたい。

 さっきまで騒がしかった。

 それなのにいまは何もかも聞こえない。

 静寂な空間。

 晴天の晴れだった天気も、曇りよりいっそう静寂になった。


「ねぇ音羽君。天気雲ちゃったね」


 真昼は作り笑顔で、俺に言って来た。

 俺に気を使わせない為。

 無理して笑っている、あ、くそ。

 何て情けないんだ俺は。

 どこまで……どこまで俺は情けない。


「そんな顔をしないで!」

「え」


 俺はいま、どんな顔をしている? 真昼が、泣きそうになっている。

 このまま、暗闇に引きずり込まれるような、感覚に落ちていく。


「私決めたよ! 音羽君について詳しく聞かない」


 真昼は考え、考え抜いた結果。

 俺に深く、干渉をしないと決めた。

 だがその事実なのか、真昼を見ていると、が出てくる。


「……そうか、ありがとうな。少しトイレに行ってくる」

「うん、行ってら」


 都合よく、トイレが近くに合った。

 俺はトイレに入り「オエー」嘔吐をした。

 言葉が出ないくらい。

 気持ち悪さがある、ふと顔を上げる。

 鏡には不適な笑みを浮かべ、赤い瞳が目立つ。

 俺は鏡に写ったそれを見て、後に下がってしまう。


「ちくしょう……何でこうなるんだよ!?」


 真昼との思い出作りを、しにきたのに何故こうなる。

 何の為の思い出作りだよ? ちくしょう……ちくしょう。

 自分が不甲斐なく、情けなさ過ぎて苛立ちを覚えた。

 それからどのくらいの時間が、経ったのか分からないが。

 俺はトイレから出て、真昼の元へ帰ってきた。


「遅かったね」

「ああ、ごめんな」


 真昼の目には泣いた跡が合った。

 中々俺が出て来ないから、心配をしたのだろう。

 俺に心配をかけないように元気を、装っている。

 真昼本当ごめんな。

 お前が折角心配を、してくれてるのに俺は気持ち悪さが、勝っている。

 

 いま、俺はそんな状態に落ちている。


「天気暗いままだね」

「天気? そうだな。これからどうしようか」

「決めないとね」


 真昼は重たい空気を、変える為、話を振る。

 それに俺は上手く答えられていない。

 ああ、そうか。

 俺はこれ以上、自分の病気が悪化するのが怖いんだ。

 これ以上真昼を嫌いたくない。

 いつかは離れないといけない。

 それでもいい、だけど今は真昼に最高の思い出を、作ってあげたい。

 これは微かな、俺の願望。



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