第15話 大嫌いであり大好き

 少ししてから、医師が外に出て来て、俺を何処かに案内をし始めた。

 俺が医師に付いて行ってる間、真昼もタンカーで運ばれて行き、屋上に行った。


「後はドクターヘリが、来るのを待っていて下さい」

「はい、ありがとうございます」


 医師には感謝をし、ヘリを来るのを待っていた。

 ヘリが来るまでの間──真昼の方に歩む。

 眠っている……辛そうな表情はしてない。

 本当は死んでいるんじゃないのか? と思うように安らかな表情をしている。

 真昼の顔に手を置く。


「多分……いや絶対、真昼には聞こえてないだろう。俺はお前が大嫌いだ──でも大好きだ」


 何故、俺がいまこんな事を言ったのか。

 自分では一切分かってない。

 ただ、もう真昼とは話す事がない。

 そんな気がして仕方なかった。


「オーライ──オーライ」


 医師の掛け声が聞こえる。

 そこで、俺はドクターヘリが来たと察し、真昼の傍から離れ、医師の元に近寄る。


「ボクが君に紹介した奴なんだけどね、気難しい奴だから……気をつけてくれ」

「……はい」


 医師の言葉を深く、心に刻む。

 ヘリが着陸をした。

 ヘリから救助隊が複数人出て来て、タンカーをヘリに駆け込み。

 俺も付き添いの為、ドクターヘリに入り込む。

 救助隊は俺に、状況説明を求めて来た。

 俺は起きた事全てを、救助隊に説明をし、説明を聞いた。

 救助隊は難しい顔をしていた。


「俺は医者じゃないから、何とも言えないが。助かる可能性はある!」

「それってどう言う事ですか?」

「いまから向かう所は、奇病専門大学病院。

 最高の医療機関に萩原先生」


 萩原先生──名前だけならば聞いた事がある。

 それ程有名な医者。

 今までに様々な奇病を治した。

 という伝説にも近い医者。

 俺達はいま……そんな人が、配属してる病院に向かっている。

 肩書き通りならば……真昼を、助けられるかもしれない。

 淡い期待かもしれない。

 だけど、いまはそんな淡い期待にすがるしかない。


「着陸します」


 と、ヘリを操縦している、操縦者が言うと、救助隊は降りる準備をしてる。

 ヘリがゆっくりゆっくりと降りて行く。

 窓から下を眺めると、一人の医者と看護師が居る。


「着陸します。なので降りる準備をして下さい」

「はい」


 救助隊の人は言い、俺も答え、降りる準備をする。

 ヘリが着陸するとドアが開き、タンカーと一緒に救助隊にが降りる。

 俺は真昼が降りたのを、確認した瞬間、降りた。

 次の瞬間、医者と思われる男が、救助隊に聞く。

 男は白衣の衣装を纏い。

 見た目は三十代くらい。


「その子が緊急患者か?」

「はい、いまは命を取り留めていますが、危ない状態です」

「分かった、松田君、患者を集中治療室に運んでくれ」

「分かりました。こちらですどうぞ」


 と、看護師はタンカーを、運んでる救助隊を案内し始めた。

 医者──多分この人が萩原先生なのだろう。

 萩原先生は何故か、治療室に向かわず、俺と対面をしている。


「彼奴から一通り話は聞いている。お前もあの嬢ちゃんも不運だったな」

「彼奴?」


 俺は萩原先生の言葉に疑問を持ち、思わず聞いてしまった。

 萩原先生は答えてくれた。


「あの嬢ちゃんを見てた医者だよ」


 その言葉を聞いて、ここを紹介してくれた医師の事だと、理解をする事が出来た。


「ここに来れば彼奴……真昼は助かるんですよね!」


 俺は縋るように期待を込め、萩原先生に聞いた。

 萩原先生が眉一つ変えず、俺に言う。


「無理だ。もう手遅れだ」

「え? でも貴方は……治らないと言われた奇病を、治す事が出来るって……」

「全部治せる訳がない。それに俺は神様ではない!」


 萩原先生の淡々と言う言葉に、俺が抱いていた淡い希望を、簡単に崩された。

 もう真昼は完全に助からないと、分かると俺の体に力が入らない。

 そのまま膝を付いた。

 俺が真昼と、出会わなかったら、あの子はもう少し長生きが、出来たかもしれない。

 俺なんて生まれて来なければよかった! 死ぬのは俺で良かったんだ……


「まぁ一つだけ助ける方法はある」


 もう助けれないと、絶望をしていた。

 その時、再び俺に希望を、抱かせる言葉。


「ドナー移植!」

「ドナー移植……」


 それをすれば、真昼は助かるのか? だったらドナー移植をしよう。


「先に言っとくが、簡単に考えているなよ?」

「え?」

「まずそもそも簡単にドナーは見つからない。それに患者は普通の病気ではない」

「奇病……しかも合併病を患っている」

「良く分かってるんじゃねぇか」


 この人は一体何がしたい? 俺にドナーの事を教え。

 無理だと断言して来る。

 段々とイライラしてくる。


「そんな怒りを剥き出しにするな。同じ合併病を持つ者、または持っていた者が、ドナーであれば移植手術が出来る」

「この病院にドナーは?」

「残念ながらいない」


 だったら一体どうすればいい? ドナーがいないと、真昼は助からない。

 あ!? 俺は次の刹那、ある事を思い付く。


「俺をドナーにしてくれ」

「そう出るとは思ったよ。だけどダメだ」

「何故と聞くのは野暮だな」

「ああ、患者にドナー移植する場合。心臓移植になる」


 真昼はいま心臓部分に花びらが、溜まっている。

 治すには心臓を取り換え、花びら事態を除去するしかない。

 天花症候群は不治の病。

 治す事は不可能とされている。

 だが、唯一治せるとしたら、天花症候群の原因となる。

 心臓を取り除き、入れ替える事が出来れば完治できる。


「心臓を移植すれば患者は治るかもしれない。だけど小僧、お前の命はないぞ?」

「それでも構わない。あの子が助かるならば!?」


 次の刹那──俺は胸ぐらを掴まれた。

 萩原先生は怒りを露わにし、俺に言う。


「ガキが調子に乗るんじゃねぇ! 自分の命を大切にしろ!」

「あの子が助かるならば、俺の命なんてどうでもいい!」

「助けれる命と助けられない命がある。あの嬢ちゃんは後者だ!」


 この人は俺が、自分の命を大切にしない事に怒ってる。

 いい先生何だろう。

 でも、俺の決意は変わらない。


「俺が蛙殺現象でもか?」

「彼奴から話を聞いてたが、本当だった……?! まさかお前?」

「あんたが思ってる通りだよ」


 萩原先生は事の顛末てんまつについて、察しが付いたらしい。

 俺は隠す事なく言った。

 萩原先生は唖然としている。


「俺がドナーになる。俺があの子と一緒にいなければ……こんな事にはならなかった!」

「………」

「俺はあの子と出会うまで、ろくな人生を送って来なかった。だけどあの子は俺に光をくれた」

「……依存か」


 何とでもいえ、依存でも何でもいい! 俺はあの子を助けたいだけだ。

 萩原先生は俺を離し、懐から通信機を出した。


「こちら萩原、松田。一時間後に移植手術をするから準備しろ」


 え? いまなんて?


「小僧……お前の勝ちだ。さっきも言った通り、一時間後に手術をする。悔いを残らないようにしろ」


 萩原先生はそう言うと、院内に入って行く。


「悔いに残らない事か……」


 考えるだけで山ほどある。

 でも、俺が最後にやる事は決まっている。


「……これを渡せばいいんだね?」

「はい、お願いします」


 俺は看護婦に物を渡した。

 俺が本来真昼に渡す物だった。

 だけど、俺はもう渡す事が出来ない。

 最後に少し、自分の人生を振り返る。

 その時、俺の視界は真っ暗になり、光が見えたと、思ったら俺が出て来た。


『オレは真昼が大嫌いだ』

「俺は真昼の事を愛している」

『オレは奴の死を望む!』


 同じ自分でありながら、大切な人に対する想いは違う。

 蛙殺現象で真昼を嫌うオレと、真昼を愛して仕方ない俺。


【大嫌いであり愛しい君の死を望む】


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