第3話 思い出の旅前編

「………」

「音羽君行こう!!」


 真昼は何か吹っ切れた様に歩き出す。

 急な事だった為、足がつまずきそうになる。

 真昼に負担が掛からない様に体勢を整える。


「真昼、どこに向かっているんだ?」

「え? そんなの分からないし、考えるのは後!」


 そんな彼女まひるの言葉に苦笑しつつ、隣を歩く。

 公園を出て三十分くらい歩くと駅に着いた。

 歩きだと三十分。

 自転車とかだと、十五分程で着く。

 駅の周囲には人が栄えている。

 平日の昼頃って事も関係しているだろう。

 俺と真昼は駅内には入らず、近くに合ったベンチに座る。

 座ってから真昼が口を開いた。


「私達勢いで駅まで来ちゃったね!」

「何が勢いだよ?」

「え? 勢いでしょ」

「いやわざとここまで来ただろ?」


 真昼が硬直した。

 まるで時が止まった様に真昼が固まってる。

 どうやら図星だった様だ。


「な、何の事かなー?」


 真昼は図星の焦りからか、吃っていた。

 別に焦らんくてもいいのにな。

 まぁ、真昼のそういう一面も可愛いけど。

 何故か……罪悪感が沸いて来る。


「どうかした? 音羽君?」


 真昼が心配そうに俺を見る。

 その行動だけで胸が痛くなる。


「ふぅっ」


 最近は少し暖かくなってきたが、まだ息を吐くと白くなる。


「‥‥‥何かごめん」


 俺は真昼の言葉に仰天しまった。

 思わぬ事だったから、だけど違うんだ。

 そうじゃない! 真昼に謝らせたいが為。

 息を吐いたんじゃない! くそーどうする。

 と、考えていた刹那、見覚えのある二人組に話し掛けられた。


「あれ? 美男美女カップルやん!!」

「違うよ由那。優等生カップルだよ」


 一つは驚きの声、もう一つは煽りにも近い。

 黒いセーラー服の後ろにまで、届く綺麗な黒髪を持つ少女。

 まるで絵に書いた様な美貌を持っている。

 それとは正反対にブロンド色の短髪、制服の上には、ジャッケットを羽織っている。


「あ、ユッキー!!」

「ぷっ、ふふふふ」

「なに笑てるのよ!?」


 真昼の思わぬ発言に吹き出してしまった。

 俺が吹き出した事により、ユッキー事、雪ノ宮美菜は怒っている。

 俺と一緒に吹き出している少女がいる。


「由那も笑っているんじゃないよ!」


 今度は由那に怒りの矛を向けたな。

 雪ノ宮の横にいるのは藤宮由那。

 美菜は優等生見たいな人。

 由那は美菜と違い正反対のギャル。

 普段は学校にいる筈。

 だが、今日は何故か、駅にこの二人がいる。


「お前ら学校はどうした?」

「え? そんなのサボりに決まってるじゃん」


 俺の問い掛けに対して、由那が当然の様に答えた。

 


「お前な、少しくらい隠したらどう何だ?」

「嘘ついてもしゃあない」

「はぁ、貴女は少しぐらい。嘘を覚えた方がいい」


 俺と美菜達の会話で、真昼が置いてけぼりにされた事により、少し拗ねていた。

 あ、やばいな少し拗ねている。

 真昼にも何か言わないとな。


「ねぇ……音羽君」

「ん? どうかしたのか真昼?」


 俺が真昼に声を掛けようとした。

 だけど服をグイグイと引っ張られる。

 真昼は俺の服を引っ張って、小声で話して来る。

 だから俺も真昼に小声で返す。


「いつまでここにいるの?」

「それは分からん」


 どうやら、真昼はこの光景にうんざりしてるみたいだ。

 確かに思い出作りの旅と、言いながら駅でだらだらとしている。

 しかも彼氏は同じ学校の女子と話してる。


「あら私達を前にコソコソ話し?」

「やめな美菜」


 相変わらず陰湿な奴だ。

 俺にだけ物凄く敵視をしている。

 初めて合ったあの時から……。


「相変わらず死んだ様な目ね」

「今日はやけに好戦的だな」


 俺は少し怒りを覚え、雪ノ宮に視線を向ける。

 すると。


「あらそう? しゃくに触ったのならばごめんなさい」

 一切何も思ってない事をペラペラと言った。

 やっぱり雪ノこいつとは合わない。


「ユッキー、調子に乗るのもいい加減にして!」

「え?」

「は……?」


 真昼の言葉に今この場にいる。

 全員の空気が凍りついた。

 真昼は立ち上がり、雪ノ宮の前に立つ。

 声を出そうにも言葉が詰まって出ない。

 それは雪ノ宮達も一緒。

 真昼は立て続けに言葉を掛ける。


「私は音羽君が好き!」

「おい真昼」

「それを一々ユッキーに……」


 ダメだ俺の静止を聞かない。

 頭に血昇っている。

 完全にヒートアップしてる。

 普段温厚な真昼が怒りを露わにしていた。

 流石の雪ノ宮も呆気に取られている。


「待って真昼落ち着いて!」

「そうだよ真昼っち、落ち着こ」

「ユッキーに文句何て言われたくない!」

「真昼……」


 おいおいここまで、感情にする真昼初めて見たぞ? 普段気が強い。

 あの雪ノ宮さんが涙目。

 流石にそろそろ止めないと行けない。

 真昼と雪ノ宮が言い争って、面白ろ半分で人が寄って来た。


「真昼そろそろ落ち着け!」

「音羽君は黙ってて」


 くそ、一体どうする? これじゃあ公園のままだと一緒だ。

 今はまだ見物客が少ない。

 だが、どんどんと増えて行く物。

 雪ノ宮は言葉も出ず、今にでも泣きそうだ。


「ユッキーは!」

「真昼こそいい加減にしろ!」


 俺は立ち上がり真昼に向かって言った。

 真昼は少し怯んだ。

 俺は別に真昼を攻めたい訳でもないし、雪ノ宮を助けたい話しでもない。

 見物客がさっきに比べて、増えて来ている。


「もういい行くぞ真昼!」


 俺は真昼の腕を掴み、駅内に向かって歩き出した。

 次の瞬間、俺達の歩みが止められた。

 雪ノ宮に腕を掴まれてしまった。

 今、この場で雪ノ宮と、真昼を一緒にさせては行けない。


「真昼、さっきに駅内に入ってろ」

「え、分かった」


 真昼は俺の指示に従い、駅内に向かって歩いた。

 俺は雪ノ宮に腕を掴まれたままだ。

 真昼が心配そうにチラ見して来る。

 真昼が駅内に入った事で、見物客達も離れて行った。

 雪ノ宮が腕を離し俺に話し掛けてきた。

 少し落ち込み気味。


「本当にごめんなさい。貴方の事で悪く言って」

「それは俺じゃなくて、真昼に謝れ」

「本当にごめんなさい」


 雪ノ宮らしくもなく、何度も謝って来る。

 こんな事で呼び止められたのか。


「そんな事ならば行くぞ」

「待って、本題はここから」


 本題? 俺に元々何か言う気だったのか。


「貴方はあの子の状態を……」

「知っているっていうか告げられた」


 俺の言葉に雪ノ宮は深く動揺した。


「貴方はあの子に一体何をする気?」

「お前には関係ない」

「なっ!?」


 俺があの子にする事は、まだ誰にも知られる訳にはいかない。

 真昼と親友であるお前にでもな。


「あ、ああ、もうそこまで! それよりその手どうしたの?」


 由那が包帯を、巻かれている俺の右手を、見ながら言う。

 俺は一切由那の言葉に返さず、雪ノ宮に一言、言った。


「少なくとも……さ」

「だったらこれだけは心に刻んどいて!」


 俺の言葉に雪ノ宮は興奮気味みに言った。


「あの子……にしてよ」


 雪ノ宮の言葉に何も反応をする事なく。

 俺は背を向け、駅内に向かう。

 真昼の所に行かないといけない。



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