或る国の侍従の報告〈下〉

 初冬ふゆのはじめ、「らけ」とう東の王子が、王宮に参上しそうろう。「らけ」なる者、北国の残虐非道ざんぎゃくひどうの王を討つ為に援軍を送るよう涙を流し頼み候。しかし、我らの軍は「えぴすて」に遠征してり、被御免旨ごめんこうむるむね申し渡し候。こうべを垂れ、姫様に幾度となく援助えんじょおうとも、無き者は無き故、是許こればかりは致方無いたしかたな御座候ござそうろう


 しかして、「らけ」なる者、悪鬼羅刹あっきらせつ見紛みまごかおを致したと思えば、姫様に対し慳貪けんどんな態度を示し候。わたくしども侍従は、今にも鞘走さやばしり「らけ」の首を斬り落とし兼ねぬ勢いで御座候ござそうらえども、姫様は「らけ」を自らのとばりの向うに招くと申し渡し候。我ら意気地をなく茫然自失ぼうぜんじしつした事、申し上げ候。


 しかし、姫様には計略無之けいりゃくこれなく、慾望をただ、慾望し、様々な器具を帳の近くへ運ぶよう私どもへ申し付け被候られそうろう。私どもは、閨房けいぼう実質じっしつ無知しることなくただ、房事が営まれている事を察する限りで御座候。無論「らけ」は、姫様の甘美な拷問を前に、光陰矢こういんやごとく屈服した事、一々いちいち申し上げるまで無御座候ござなくそうろう


 姫様の秘技わざ無際限かぎりなく、耐える事あたわずとそうらえども、「らけ」ほどに笑いを堪えきれぬくらい痴態ちたいを晒した者は今迄いままで一人も無御座候ござなくそうろう。東の王子は使い方を小用しか知らぬとそしる者も有り、我ら増々ますます失笑を禁じ得ること能わず。故に、姫様は「らけ」の事をお気に召さらず、暁暗ぎょうあんには王宮から放逐ほうちくするよう、私に命じられ御座候ござそうろう



 以上。



 上ノ記録ハ云爾 次グ史料ハ下ノ如ク弁ズル (左事 筆者記)

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女王蜂の戯れ 紫鳥コウ @Smilitary

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