7.リエット
結局、その後十五分ほどお茶をして、一時間後にフィン達と合流したシン。今は情報交換をしている。
「やっぱり方言の酒場(トレジュアル)の情報網が一番ね、こっちは収穫なしよ」
「残念ながら俺の方もさっぱりだよ。シンは?」
「当人たちに会ってお茶した」
「は?」
素っ頓狂な反応が、二人から同時に返ってくる。今のでどこまで理解したかわからないが、もう一度わかりやすく言うことにする。
「だから、会ったの。ソルとラウルとフリージアに」
「なんだって!?」
「あんたって子は……しかもお茶? お茶!?」
よほど意外だったのかイーヴまで頭を抱えて復唱している。間違っても「おいしかったよ」などと言ってはいけない雰囲気である。シンは話を続けた。
「わかったこともあるよ。ラウルはコンシェルジュなんだって」
「それがわかったところでなんだっていうのよ」
「それからウィスっていう人もいるみたいだった。町中で事を荒げたくないみたい。殺すよって言われたけど」
「それは悪意があるって事じゃないのか?」
呆れたようにフィン。
「そうかもね。あとはあの人たちテールディの人じゃないらしい」
「本当か!」
「彼らの言うことが本当、ならね」
ラウルを見る限り嘘ではない気がする。が、すべてが嘘である可能性も否定できない。現時点で断定するのは難しかった。
「やっぱりテールディにももっと直接探りを入れた方がいいみたいだね。……王都オリゾンまで行ってみようか」
これには反論はない。ソルたちの動向も気になるところだが、四対三では分も悪いだろう。とにかく善は急げとすぐに出発することになった。
オリゾンは北東だ。馬を借りて飛ばせば、およそ三日で到着した。
「大きな街だな」
アシュトンの港も人は多かったが、こちらは更にけた違いだ。大通りに出て、歩く。
「あのっ」
その時、声をかけてくる者がいた。
「すみません、レムレス侯爵の館はどちらしょうか」
「え、いやオレたちも今着いたばかりだから……」
「何? 迷子?」
「えぇ、連れとはぐれてしまって……」
迷子という言葉をあっさり認める。金の髪の女性だ。年の功は十七、八といったところか。難色を示す顔はまだ少女のあどけなさを残していた。
「あの、申し訳ありませんが一緒にレムレス侯爵の館を探してはいただけないでしょうか」
……フィンの「今着いたばかり」という言葉を聞いていたのだろうか。見ず知らずの人間に結構な無茶ぶりだ。
「困った子ね。どこのお姫さんかしら」
イーヴの言葉に他意はない。が、その他意のなさをきょとんとした顔で、女性はイーヴを見てから
「どうして私が姫とわかったんです?」
と言ってきた。
「姫……って、姫!? 君、お姫様なの!?」
「人前で姫はやめてください。私、リエットです」
「お姫様がどうしてこんなところに?」
こどもっぽく顔をしかめてみせるがイーヴはお構いなしに彼女を姫と呼ぶ。しかし、それは気にならなかったのかリエットは彼の方を向いて表情を元に戻した。
「お忍びを兼ねて知り合いの侯爵家に寄る予定だったのですが、あまりの人ごみで……」
ざる警護、万歳。それともテールディはそれほど平和なのだろうか。リエットが意外におてんばで無自覚で撒いてしまった可能性もあるかもしれない。
シンはどうでもいい可能性を模索し始めている。
「丁度よかったんじゃない?」
「はい?」
「リエット、あなたにぜひとも聞きたいことがある。もし答えてくれたら一緒にお知り合いの屋敷を探そう」
「いいんですか?」
ぱっと顔を明るくしてリエットは提案を受けてくれるようだ。大通りから平行に走る一本隣の通りに出て、シンたちはオープンテラスのある喫茶店におちついた。
がたごとと石畳を行く馬車を横目にハーブティを頼む。
「質問をする前に、ひとつお願いがあるんだ」
「はい」
「実はこれは国家間にかかわる重要なことでもある。だから、私たちが『聞いたこと』について詮索はやめてほしい」
「……かまいませんが……国家間にかかわることってどういうことですか?」
それを詮索と言うんだよ。がくりとする三人を尻目にリエットは首をかしげている。
「まぁいいか……あのね、テールディはエクエスの大晶石を狙っていたりしない?」
「ちょっ……直球すぎよ!」
「それ、どういうことです?」
また詮索が入ってしまうが仕方ないだろう。シンはできるだけ差し障りないように事情を説明することにする。
「最近、不穏な動きをする輩がいるみたいなんだ。それが誰で、何をしようとしているのか私たちは調べてる。テールディが干渉してる可能性は?」
「そんなこと、あり得ません!」
がたん! とテーブルに手をついて立ちあがる。通りすがりの民衆の目が集まった。
「中立国のエクエスと戦争になるような真似をどうして……っ」
「リエット、落ち着いて……」
彼女は何も知らない。だが、伝手はできた。シンはどうすべきかを考える。
大人しく座りなおすとリエットは運ばれてきたローズヒップティーに目もくれずに、繰り返した。
「そんなこと、あり得ません。絶対に」
「どうしたものかしらねぇ」
息巻くリエットにイーヴは嘆息し、フィンは驚いているようだった。
「絶対に、か。言い切れる?」
「言い切れます!」
自国に対する信頼、あるいは誇りだろう。リエットが譲る気配はない。
「じゃあそれ、王様に確認できるかな」
「お父様に……?」
「テールディが干渉していないなら、この国の大晶石も狙われる可能性がある。危険を伝えるくらいはいいでしょう?」
「そういうことでしたら」
危惧すべきは戦争だ。リエットの言うことが正しければ国として残る可能性はアオスブルフのみ。緊張状態にある関係をあおるのは、火に油を注ぐようなものである。
その点は迷ったが、警告しておくにこしたこともないだろう。
エクエスの王もそうであったように、テールディの王にも敵を決めつけるのは早計であると思い至ってほしい。
* * *
本日の設定は名前の由来(地名編)です。
https://kakuyomu.jp/users/miyako_azuma/news/16817330651535413113
本編には直接関わりないですが、知っていると面白さ倍増&物書きさんのための雑学兼ねているのでよろしければどうぞ(*'ω'*)ノシ
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