15.星の意思(イニシオ)
「こっちの子は……あら、ひょっとしてシン?」
「え……私を知ってるんですか?」
「写真で見たことあるわ。ウィスくんの双子の妹だったわね。でも死んだんじゃなかった?」
なんという直球。
人差し指を頬に当てて「?」を浮かべていると、ウィスがひっぱたきそうな勢いで詰め寄っている。
「余計なことは言わなくていいんだ」
「失礼ねー私の言葉はいつだって意味のあるものよ?」
どの辺りにどんな意味があるのかわからないが、あまりのマイペースっぷりに他の仲間は唖然としている。
「他の顔は知らないわ。紹介してくれる?」
「リエットです」
「フィン=サクセサー」
「イーヴよ」
ふんふん、とアーネストは聞いてしっかりとインプットしたらしい。
「それで、何か用?」
「いろいろと聞きたいことがあって……」
ちらりと研究者を見る。できれば、余計な勘ぐりは避けたい。研究者は己の仕事に精を出して特にこちらを気にしている様子ではないが、アーネストは察してくれたらしい。
「のどが渇いたわ。食堂にでも行きましょ」
……余計人目がある気がするんですけど。
それとも木を隠すなら森、なのだろうか。食堂らしき白い飾り気のない空間へ行くとぽつぽつと人はいるが存外誰もこちらを気にしなかった。
アーネストはセルフサービスで落としてあるコーヒーをカップに注ぐと大量生産らしき椅子に座る。勧められてシンとウィス以外のみんなもコーヒーを手に席についた。
「それで、聞きたいことなんですけど」
フィンが口火を切る。しかし「ちょっと待って」と言うとアーネストはジェスチャーでもその続きを制止した。
「?」
「当てて見せるわ。……ずばり、あんたたちはセレスタイトから来た。違う?」
「な、なぜそれを……!」
「バカ! 乗るな! アーネストの良く使う手だぞ」
フィンとリエットが思い切り驚いてしまったので引き下がりようもなかった。ウィスの言い方だと、よくやることらしい。
「あら、当たっちゃった? ……じゃあ続けるわね。実は両方の世界を救済するために来た!」
「……!!」
だから。
フィンとリエットが学習能力むなしく「はい、そうです」という反応を繰り出している。それを見てシンとウィスは不可抗力で同時に頭を抱えたくなった。
「なんでわかるのよ」
「任務遂行中のウィスくんが連れてきた人間だからってのもあるわ。あとはそうね、その方が面白いかなって」
「……だから嫌だったんだよ」
ウィスが沈痛な面持ちで呟くとアーネストの目がきらんと光った。……ように見えた。
「ウィス=アルブム。データ管理者としてあんたの体内のエルブレスを今から計測するわよ」
「! やめろ! 今はそんな場合じゃないと……」
なんだかとっくみあいになっているので、シンは敢えて眺めてみる。イーヴが見かねて二人を引き剥がした。
「ちょっとー何するのよ」
「今はそういう話じゃないでしょ」
「しょうがないわね、話が終わったら検査よ」
どこまで検査にこだわるのだろう。アーネストは再び席に落ち着いた。
「で、何が聞きたいわけ?」
あ、ノー敬語ノー敬称でいいわよ、とアーネストは付け加えて言葉を待つ。顔を見合わせ、切り出したのはシンだった。
「本当に、セレスタイトは滅びなければならないの?」
「うーん、アースタリアが先に滅びれば、あっちの世界は助かるんじゃない?」
「自分の世界でしょ? なんて言い草なの」
イーヴが呆れている。
「ごめん、聞き方が悪かったね。本当にどちらかの世界が滅びなければ、今回の危機は乗り越えられないの?」
「その可能性については私も模索したんだけどね、そうでもないみたいよ」
意外な答えだった。いともたやすく解決の糸口がみつかったことに一瞬ウィスを除いた全員が唖然としたが
「本当ですか?」
リエットがその意味を理解して笑顔で身を乗り出した。勢いでコーヒーがこぼれそうになる。
「あんたたち、輝石が何のためにあるかは知ってる?」
「輝石って、大晶石のことよね?」
「ふーん、そっちでは大晶石って言うのね。その大晶石は元々、セレスタイト創生時に、こちらとあちらを支える天井……アクアスクリーンを維持するために設置されたシステムよ」
アーネストは水を得た魚のごとく、説明を始めている。聞き入るほかはなく、誰もが理解に努めようと間髪を入れずに続く言葉に耳を傾けている。
「
「
初めて聞く言葉だ。いや、それとも記憶を失う前は知っていたのだろうか。シンの復唱に答えたのはウィスだった。
「
「少し違うわね。この場合の
「? ? ?」
今のアーネストの説明はウィス向きだったのだろう。ベースがない分、よく理解できない話し方だ。ましてや他のみんなは、いままで馴染みもなかっただろう言葉の連発に混乱をきたしているようだ。顔に出ている。
「とにかく、大晶石はアクアスクリーンを維持する鍵なのよ。それをウェリタスで叩き壊す。すると世界が弱体化してそっち側にアクアスクリーンが落ちる。とどめに
「ウェリタス?」
「……ちょっとあんた。まさかウェリタスのこと話してないの」
得意げにさえ見えた流暢さを唐突に消して、無表情に近い表情でアーネストはウィスに問う。
ウィスは瞳を伏せて黙っている。何かを察したのか「しょうがないわね」とカップを持ち上げてアーネストはコーヒーを口にした。
少しだけ仕切り直しの気配の後、再び元の調子で話は続行される。
「ウェリタスは、
「ねぇアーネスト。さっきから気になってたんだけどウィスの言う
途中から混乱するポイントだったところを整理しようとシンは尋ねる。明らかにそう聞こえたが全員の理解は統一しておきたいところだ。
「えぇ、ウィスが言っていたのは、本来この星にあった『
「その本来あった
星の命の源とも理解できる星の意思、イニシオ。
本来、というからには今はないのであろう。しかし、なぜ?
それはきっと、この世界の根幹にかかわる大切な話だ。
シンは静かに聞いた。
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