古代中国、春秋戦国時代が舞台──といってもまったく構える必要はありません。私もほとんど知識はありませんでしたが、どっぷり物語に浸かって楽しむことができましたので!
霊や神や怪異を引き寄せる霊感体質の傲岸不遜な俺様先輩・士匄さんと、美少女めいた容姿ながら舌鋒は辛辣&根性もある後輩・趙武くんが祟られたり呪われたり、異界を彷徨ったり生贄にされかけたりしつつ知恵と度胸で切り抜けていく物語です。
傲岸不遜ゆえにピンチに陥る士匄さん、読んでいて反感を覚えそうなものなのですが、傲慢も一周すると高すぎる自負と自尊心ゆえに自らを律し毅然とした振る舞いになる……という不思議現象が起きるので、応援できる主人公になっております。バディ役の趙武くんがほど良くツッコミを入れてくれることもあり、若い子たちが無茶しては痛い目を見て、学んだり学ばなかったりする姿を微笑ましく楽しめるかと思います。
怪異への対処については、毎回、古代中国ならではの思想・信仰・習慣が大きな鍵となっているのが見どころです。怪異が発生した理由、求めるもの、解決方法──現代人には想像が及ばないところを、作者さんの豊富な知識で解き明かす、謎解きの趣もありますし、古代の世界観に触れる、歴史ものの醍醐味もあります。
そして、最後に強調したいのは青春はモラトリアムだということ。限られた時間だからこそ甘酸っぱく眩しく貴重なものだということです。
この時代、大国の貴族である彼らは後に政治や外交や戦争の矢面に否応なく立つことは想像に容易いわけで。その時に噛み締める苦さや悔恨もまた、エピソードの端々で語られます。彼らの青春が終わった後を知らされている現代の読者であればこそ、束の間の青春、若者たちの悲喜こもごもがいっそう眩しく尊く見えるでしょう。
時を越えた青春の輝きを、覗いてみてみませんか?
ちょっと仰々しい物言い
うん、中国だよねぇ
占いとかが迷信じゃなくて現実として捉えられる
うんうん、古代中国って感じ
偉い人が下々の者を人扱いしない
あるある、三国志とかでもよく見るよね
登場人物がスパダリって言う
そうそう、古代中国物って言ったらこれだよね!
…………ん?
時代としては紀元前六世紀(紀元前600年~501年)の春秋時代。
封神演義の太公望が有名な殷は紀元前1000年あたり。
始皇帝で有名な秦が紀元前220年位。
魏呉蜀の三国志の時代は紀元後220年位。
なのでどの程度の時代か、分かってもらえるかと思います。
ガッツリ古代中国してるけど、要所要所に現代の言葉と気安いやり取りが。
Win-Winの文字を見るとは思いませんでした(笑)
これによって硬くなり過ぎないけど柔らか過ぎないという、
なんとも良い塩梅でお話が流れていきます。
歴史ものに馴染みが無い方、ぜひ読んでみて。
現代っぽいやり取りも多いので、とっつきやすいはず!
歴史もの玄人の方々、本作お勧めしますよ。
ちゃーんと古代中国してますからね!
本作の登場人物の活躍した時代は紀元前六世紀。
これは中華の歴史において「春秋時代」
殷周革命(太公望が活躍する『封神演義』の時代!)の紀元前千年代なかばと、統一秦の時代(『キングダム』!)の紀元前二百年代とのふんわりまんなかあたり……
こう「伝説の彼方の時代」と「歴史叙述の時代」の中間地点にあたるんじゃないかと思う。
孔子さまが「怪力乱心を語らず」なんて嘯く時代ももう目の前ですが、『山海経』に出てくる饕餮やら開明獣やらが実際にいると信じられていた時代でもある。
そんな時代、軍事超大国の晋、ある意味君主より羽振りのいい大夫の後継者や若き当主といえばそりゃもう、
☑教養豊か
☑礼節を弁えている
☑気前よく些事には拘らない
☑軍事にもよく通じている
☑過去の歴史から学ぶことにも余念がない
☑祖先を敬い、祭祀も欠かさない
☑容姿端麗
(上記のチェックマークは嘘じゃないです。みなさまお読みになれば分かります)
まさに雲上人。完璧……なはず……
だいぶ霊感体質、果断といえば聞こえは良いけど雑な性格とも相まってとりあえずやっかいごとを引き寄せる主人公と、年齢順で彼の教導を受けてるってだけで迷惑が雨のように降りかかってくるのを努力と根性でなんとかしようとする後輩、ふたりのブロマンス(?)バディオカルトコメディ。
青春時代のイタさは二千六百年前でも変わらない!(かもしれない)
そして主人公の力業によって戦車で轢いたが如くに事件が解決していったあと、不意に訪れる淡い喪失感漂うエピソード……これもまた、まさに青春時代と申せましょう。
オカルト、オカルトファンタジー物というと、だいたい想像するのは、妖怪とか悪魔でてきて、それを霊能者とかエクソシストとか召喚士とかが、炎ボーン! 雷バリバリィ! 絶対零度でカチコチィ! 呪いでよくわかんないけど死んだー! とかまぁ脳筋能力バトルになるわけです。
本作は古代中国を舞台としたオカルト物でありながらも、先にあげたような物凄い超能力者(ある意味凄いが)とか超つえぇ退魔士とか出てくるわけじゃない。
主人公は学識高く頭も切れ腕っぷしもありガキ大将気質だが少々暴れん坊な貴族の子。そしてその子分であり相棒の貴族が軸となって物語は進む。
なんやかんやで怪異と遭遇するも、どう沈めるべきか文献を漁ったり、上役に相談したり、時にご先祖様にお伺いしたりと意外に地道に解決策を模索する。
怪異は遠慮なしにドッカンドッカン嵐を巻き起こし、べつに炎を操るわけでも波動拳を撃てるわけでもない二人はそれに怯むことなく……はないけどドタバタ立ち向かう。
怪異の解決って本来こういうもんなんじゃないかな?って思わせるオカルトエンターテイメント。
さぁ、次の怪異は如何にする?