青春はモラトリアム、遊んでいられるのも今だけよ?
- ★★★ Excellent!!!
古代中国、春秋戦国時代が舞台──といってもまったく構える必要はありません。私もほとんど知識はありませんでしたが、どっぷり物語に浸かって楽しむことができましたので!
霊や神や怪異を引き寄せる霊感体質の傲岸不遜な俺様先輩・士匄さんと、美少女めいた容姿ながら舌鋒は辛辣&根性もある後輩・趙武くんが祟られたり呪われたり、異界を彷徨ったり生贄にされかけたりしつつ知恵と度胸で切り抜けていく物語です。
傲岸不遜ゆえにピンチに陥る士匄さん、読んでいて反感を覚えそうなものなのですが、傲慢も一周すると高すぎる自負と自尊心ゆえに自らを律し毅然とした振る舞いになる……という不思議現象が起きるので、応援できる主人公になっております。バディ役の趙武くんがほど良くツッコミを入れてくれることもあり、若い子たちが無茶しては痛い目を見て、学んだり学ばなかったりする姿を微笑ましく楽しめるかと思います。
怪異への対処については、毎回、古代中国ならではの思想・信仰・習慣が大きな鍵となっているのが見どころです。怪異が発生した理由、求めるもの、解決方法──現代人には想像が及ばないところを、作者さんの豊富な知識で解き明かす、謎解きの趣もありますし、古代の世界観に触れる、歴史ものの醍醐味もあります。
そして、最後に強調したいのは青春はモラトリアムだということ。限られた時間だからこそ甘酸っぱく眩しく貴重なものだということです。
この時代、大国の貴族である彼らは後に政治や外交や戦争の矢面に否応なく立つことは想像に容易いわけで。その時に噛み締める苦さや悔恨もまた、エピソードの端々で語られます。彼らの青春が終わった後を知らされている現代の読者であればこそ、束の間の青春、若者たちの悲喜こもごもがいっそう眩しく尊く見えるでしょう。
時を越えた青春の輝きを、覗いてみてみませんか?