この物語にでてくる人物は、良くも悪くも、美しくも奇抜でも、一芸をもって身を立てています。日々芸を披露し、拍手を浴び、時にはヤジも受けそれでも止まることなく、場所を変え芸に身を入れていきます。全てはただ、生きていくために。
ただ生きていくこと。その当たり前のことが難しかった時代。この物語の人物たちは、その時代に確かに生きていました。一人一人が様々な思いと生まれ持って背負った定めに翻弄されながらも、美しく華を咲かせ、逞しく生きぬきました。いまの時代でも、生き抜くことの難しさは変わらないのかもしれません。
この物語は、曲芸団の芸人たちが時には励まし合い、時には出し抜いたりと絆と溝を交差させながも、数奇な運命の出会いのもと思いを一つにして、己の運命にある光を見つけていく物語です。
舞台は昭和初期。小規模なサーカス団。
その名も深川曲芸団……おっと、曲藝團。そこの畸型(きけい)、大柄で怪力の男、骨と皮だらけの男、驚くほどデブな女、さらには……。
と、どんどん、サーカスの出し物に、読者は魅せられていくことになります。
見事な曲芸の数々。
でも、真実、観客が魅せられているのは、日常からかけ離れた、畸型の珍しさ……。
畸型、サーカス団として流れる日々。その哀しさが、丁寧に描かれていきます。
その妖しさときらびやかさ、そしてサーカスの一幕自体が、虚構の夢である昏さ。全てを描きだす筆力は圧巻。
しかし、物語はそれだけでとどまらず、人情や、ハラハラの冒険につながっていくのです。
そして、ラストは……。
はじまりは、あのようにサーカスの垂れ幕の暗さを感じる物語だったのに、
光があふれるような、明るいラストなのです。
主人公の章一郎も、キャラが良い。
これは、温かい物語でした。
オススメですよ!
ぜひ、ご一読を!
私は、好きな作品ほど最後に向けて読むのが遅くなります。
終わりたくなくて、一人だだをこねて、それでもやはり終わらせなければと、震える手で本を開く。
期待と、淋しさと。
勿体なくて、勿体なくて……。この作品は本当に読み終わるのが嫌だった。
ごめんなさい、レビューにならないかもしれません。
ずっと「どんなレビューにしよう」と考えていたのに、今の私の胸いっぱいなこの気持ちを上手く表現できそうにありません。
他の皆様が素晴らしいレビューをなさっています。
そこに甘え、私は感情に任せて書かせていただきます。
はじめ、作者様はよくこの『畸型』というテーマを選ばれたなと、そこに感服致しました。
時代考証や文章技術や、目を見張るものは多々ありますが、私はこの難しいテーマを見事物語に仕立てあげたその手腕に脱帽と憧憬の念を禁じ得ません。
そして読み終わりました今、ただ一言、「人間力だな」と。
登場人物とは、すべてがその作者様の分身です。
主人公も、悪役も、名前のない脇役でさえも。
この作品の登場人物たちの、なんと豊かで面白みがあって、温かいことか。
細部に血が通っているのです。生きているのです。
私はそれが嬉しく、胸が締め付けられるほど感動致しました。
物語とはかくあるべし、などと偉そうなことは言えませんが、物語を紡ぐすべての方にお薦めしたい作品です。
この作品との出会いの場であるカクヨムにも感謝を。
(角川文庫さん、ぜひ書店に……)
舞台は昭和初期、旅する曲芸団の一座の物語。
ある出会いをきっかけに、曲芸団の畸形たちが、事件に巻き込まれていきます。
まず目を引くのが、とにかく美しい筆致と描写。
圧倒的な筆致により創り出される、昭和初期のレトロな空気感が作中全体に漂っています。
その時代にタイムスリップしたかのように、あるいはドラマや映画を見ているかのように、作品の世界に没入できますよ!
もちろん時代考証もしっかりされていますし、難しい部分には注釈もつけて下さっています。
古風というよりも、とにかくお洒落で濃厚な作風だと私は感じました。
この雰囲気、個人的に非常に好きです。すごく引き込まれます。
紙の本でじっくり腰を据えて読みたい!
そして、登場人物。
皆個性的で生き生きとしていて、その息遣いさえも感じられるほど。
主人公である章一郎をはじめ、各々の抱える葛藤や想いが、丁寧に描かれています。
物語後半で起きる事件では、続きが気になって、ページをめくる手が止まりませんでした!
最終話まで読了し、美しい余韻に心満たされております。
素敵な物語です。web小説にしておくには勿体ないほど。
皆様に全力でオススメしたい一作です!
時代背景、キャラクター、ストーリーどれをとっても物凄く読みごたえがあります。
しっかり資料を調べて書かれており、破綻のない作劇も素晴らしい。
また文体も往時を匂わせ風情があります。
物語は曲芸団の公演から幕を開けます。
妖しく見慣れぬ舞台に、一気に引き込まれました。
それから団員たちの人間模様、うごめく陰謀、ささやかな恋心などが描かれて行きます。
全ての登場人物が生きており、体温を持った人間として描写されます。
矮小な陰謀と見えたものは、やがて驚くほど危険な展開へと転がって行きます。
とにかくお勧めしたい名作。
「異形の者でありながら美声の歌手」という主人公の設定が私のツボに刺さったのは事実ですが、おそらくそれを差し置いても面白いはず!
私の主催したニッチな自主企画に参加いただいて出会えた作品です。
本当に妙な自主企画を立ち上げてよかったなと思うと同時に、参加してもらえて感謝です。
追記)
完結まで読みました。最高でした。
素直にただ、良い作品だからという理由でお勧めしたい。
みんな読んでね!!
ホラーでもあり、身体的特徴をそのまま自らの芸とした誇りある芸人たちの群像を描いた映画でもある『フリークス(米・1932年)』に捧げられているという本作。
昭和の初期、畸型たちのうごめくあやしき深川曲芸団もまた、そんな芸人たちが身を寄せ合い、芸を競う場所。
ここでは世間では忌み嫌う人もあるそれぞれの身体的特徴が才能の一部。れっきとした芸人の世界。
だがその世界。より高いギャラのため誰かを出し抜くのは日常茶飯事。主人公である狼男・章一郎も、ふとした出来心から危険な罠にはまってゆく……
現在第十二章の冒頭ですが、とある事件に巻き込まれた彼らの冒険譚から目が離せません。このレビューも、完結後に追記させていただきます。
追記:ついに完結です。
事件の渦中にある章一郎たちの命がけの冒険。
謎がひとつひとつ明らかになるごと、それでも手をさしのべあい〈生きる〉道を選びとっていく仲間たちの姿に心打たれます。
章一郎にとって〈生きること〉はほぼ〈思いを捨てないこと〉なのですが、それが見事に花ひらく終盤、穏やかで美しい余韻が見事でした。
昭和初期の日本、ドサ廻りの小さな曲芸団には異形の者が集まり、身体的な特徴と一芸を見世物にしていた。
日本中を旅回り、寝食苦楽を共にする彼らの日常を情緒的な文体で描いた小説です。
主人公の狼男章一郎は見た目は毛むくじゃらで恐ろし気でありながら、繊細で気弱な青年です。生まれも育ちも幸薄い章一郎は美しい歌声を持っていました。彼が抱く夢と葛藤は余りにも人間くさくて、生々しい。そして劇団員達もまた、一人一人が各々の欲望や希望に突き動かされていきます。
そんな彼らが思いも寄らぬ事件に巻き込まれていきます。
彼らを待ち受ける運命はいかに・・・。
読めば戦前の空気を感じる物語、おすすめです。