概要
駅に置かれた一台のピアノ。聴こえた旋律に導かれ、俺は彼に出会った。優れた音楽の才能と、まるで子どものような天真爛漫さを併せ持った青年、雪加蛍琉。彼との出会いが、色を失った俺の世界を一変させた。
彼と、彼の音楽と共に穏やかに過ぎようとしていた高校生活はしかし、突然終わりを告げる。
それから数年、再び交わった二人の世界。しかし、その先に待っていたのは予期せぬ悲しい未来だった。
眠ったまま目覚めなくなった蛍琉を救うため、俺は”ファンタジア”で彼の記憶の世界に入る。
蛍琉はなぜ眠りについたのか。
やがて明らかになる過去は、俺に残酷な真実を突きつける。
この物語は、俺、夏川蒼馬と、彼、雪加蛍琉の”二度目”の再会から始まる。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!取り戻すために、向き合う
美しい友情の物語。
本作を一言で言い表すには、この言葉がピッタリであると筆者は考えています。
文章、描写、音楽というテーマ。これらの要素もこの作品をより繊細で美しい物語にしているように感じます。
しかし、光あるところに影あるというように、ただ美しいだけの友情の物語ではありません。
数年間の昏睡状態に陥ってしまった親友の蛍琉が抱えていた苦悩、傷。
主人公である夏川は夢治療という最先端技術の装置『ファンタジア』を使い、治療を行うことになります…。
待ち受けるものは?蛍琉を追い詰めた原因は?夏川は彼を救うことが出来るのか?
あまり語るとネタバレになってしまうので、ここで切り上げさせていただきます。…続きを読む - ★★★ Excellent!!!大切な友を救い、もう一度語り合いたい・・・
そんな思いとともに、ピアノの美しい旋律が聞こえてきそうな物語でした。
眠ったまま目覚めない友人を救いたくて、友人の記憶の世界に入って友人を目覚めさせようとするという物語ですが、友人を救おうとしているつもりの「俺」の方も、実は友人に救われているのだというような優しいお話です。
描写が丁寧で美しい表現がよかったです。主人公からの視点だけでなく、それぞれの視点でも書かれていて登場人物の考えを理解しやすくよかった。
特に主人公の心の動きは良く伝わってきて、いつの間にか共感し引き込まれてしまいました。
私は、祖父母との思い出のシーンにとても惹かれました。優しさでキュンとなり、そして切…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ちょびっとSF要素のある、繊細な音楽小説
人間とはなんと繊細なのだろう。この小説はピアノを通して、まさにその旋律のように、友情の繊細さや美しさを描かれているなぁと感じました。
主人公も含め、登場人物たちはいろんなことに悩んだり、間違いを犯してしまったりします。
そしてファンタジアという、一見この小説には似つかわしくないSF要素が、物語をさらに深くし、登場人物たちのその苦悩を紐解いていきます。作者様の心情描写も素敵です。
最終話まで、僕は毎日数話ずつ読ませてもらっていたのですが、その度にピアノが聴きたくなりました(笑)
これは紛れもなくSF小説であり、青春小説であり、音楽小説です。
ぜひ、御一読を。 - ★★★ Excellent!!!もう一度、絆を繋ぐ物語
「優しい物語」。
あらためてレビューを書くにあたって振り返るに、本作から受けた印象・読後感はこの一言に尽きます。
覚めない眠りへ落ちた天才ピアニスト、主人公の夏川にとっては予期せぬ形でひとたび別たれた親友、蛍琉を目覚めさせるべく。
夏川は蛍琉の夢の中へと潜り、彼に覚めない眠りを齎した原因が何であるか、どうすればその眠りを終わらせることができるのか。それを探ってゆきます。
こうミステリめいた仕掛けでもあり、実情としても蛍琉を覚めない眠りに陥らせるほど彼を傷つけた過去の「事件」を解き明かしてゆく工程はミステリ的ではあり、真相を求めて先を読み進める愉しみがありました。
しかし、そのうえで。これ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!本当の「友情」の尊さを知ることができる最高のヒューマンドラマ
私の大好きな「音楽」小説、それも「ピアノ」ですね。私も「ピアノ」をたしなみますし、「ピアノ」を題材とした小説も今書いているくらいでして、すごく参考にさせていただきました。
なんとういか、主人公と友人との関係が本当に「アツイ」というか、尊いんですよね。「SF」要素が確かにあるのですが、根底は「親友」を救いたいという「主人公」の「純粋な気持ち」が中心にあるヒューマンドラマです。
主人公は、とあることをキッカケに「親友」の心の葛藤を知ります。そして、それを知った主人公が取った行動とは?てな感じの物語になるのですが、正直いって、私は読了後、感動して涙を流しました。号泣レベルですw
この…続きを読む - ★★★ Excellent!!!優しく切なく、美しい物語
この物語は、ピアノを通じて交流を深める二人の青春を描いた物語です。
脆く繊細な青年たちの心の機微が、美しい旋律にのせて、丁寧に描かれています。
ところが、現代ドラマだと思って読み進めていくと、第二章から物語は一気にミステリーとSFの様相に。
精神的に大きな傷を負って目覚めなくなってしまった親友を、主人公は「ファンタジア」というシステムによって治療しようと試みます。
ファンタジアによって親友の記憶を辿った主人公が見たのは、目覚めなくなった親友の抱えていた葛藤と、「きっかけ」となった事件。
果たして主人公は、親友を救うことが出来るのか?
切なく、どこか懐かしい、美しい物語です。
ぜひご一読を。