禁足地へと誘う一本の電話。そこら始まるのは恐怖か胸キュンか。

禁足地ってご存知ですか? 歴史や宗教、風習などの理由で、一般の人の立ち入りが禁止されている土地のことです。

主人公、布士翠の親戚の管理する土地の中にも、布士家の人間しか立ち入れないという禁足地がありました。しかし時代の流れか、その土地も手放し、人の手に渡ることに。
と、ここまでは翠に直接関わりのない話だったのですが、ある時、現在その土地を持っている不動産会社の副社長から電話がかかってきます。

副社長こと石堂さんが言うには、なんでもこの土地を開発しようとすると、次々と事故が起こるとのこと。それをなんとかするため、禁足地であったこの土地に入れる布士家の人間の力を貸してほしとのこと。
この現代にそんなオカルトめいたことが。なんてバカにしたものでもありません。古くから受け継がれているものには、それ相応の理由があるのです。しかも石堂さんには、その土地のことを除いても、何やらオカルト的な事情を抱えているもよう。

ごく普通に生活していたのに、突然稀有な事態に巻き込まれるはめになった翠。しかしそれは、恐怖と、そして胸がきゅんとするような出会いの始まりでした。

そう、胸きゅんなのです。本作のジャンルは、紛れもなくホラー。しかしそれと同時に、キャーキャー声を上げたくなるような、甘いラブな展開も待っているのです。

最初は、力になれないと言う翠に対して、脅しというか、めちゃめちゃ後ろ髪を引かれるような物言いで強引に手伝わせる石堂さん。ああだこうだと言い合うその様子は、まるでラブコメにおけるケンカップルの始まりようで吹き出しました。そしてその後も、恋愛好きならニヤリとするような展開が目白押しです。

何より、恋愛において翠の抱えている傷と苦悩。そして、それを知ってしっかりと受け止めようとする石堂さんは、胸きゅん不可避。二人の行く末を応援したくなること間違いなし!

もちろん、ホラーだけあって怖いところはしっかり怖いです。しかもその怖さが、単に怪異があるから怖いという単純なものではありません。
この作者様の書かれるホラーを読んだことのある方ならわかると思いますが、一番怖いのは生きてる人間。今回も、生きた人間の醜ささ身勝手さによる怖さがしっかり書かれていて、だからこそそんなのに負けないでとなるのです。

翠や石堂さんは、怪異や悪意を跳ね除け、愛を育むことができるのでしょうか。

さらに本作の魅力を挙げますと、翠の職業は作家さん。小説と向き合う姿勢や苦労、喜びなどといった作家ならではの部分が書かれていて、カクヨムユーザーなら興味を引かれること間違いなしです。






そしてそして、さらにもうひとつ。
これまで翠と石堂さんを中心に書いてきましたが、自分にとって本作で最推しキャラは別にいます。

第23話から登場する子で、どんなキャラかといいますと、本人曰く「みんな大好き、水地……」いえ、彼の魅力は、自分が語るよりも本編を読んで堪能してもらいましょう。
願わくば、自分と同じように、彼を推す人が一人でも増えてくれますように。

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