とんでもない設定からスタートする、とんでもないとんでも伝奇ホラー。
何回「とんでも」を繰り返すのかと訝しまれるかもしれないが、まあ実際とんでもないのだから仕方がない。
しかし、これは「破綻している」という意味の揶揄ではない。
ストーリーそのものは、「そうそう、こういうのでいいんだよ!」という、ややオールディーな雰囲気をまとう正統派伝奇ホラー作品である。
主人公は息子であるはずなのだが、私としては三人の父親たちに感情移入しながら読んだ。
とくにお気に入りなのは八津次(はつじ)だ。
独自の価値観を持ち、己を貫く自由人。
その彼がまさか……(ネタバレにつき自重)
伝奇ものが百合やBL、恋愛などを主題にした作品に侵食されがちな昨今、「それはそれで悪くないけど、たまには骨のある伝統派ストロングスタイルの伝奇が読みたいぜ!」という硬派な読者におすすめの一作だ。
なかなかに衝撃的な出だしから始まる物語。
何故主人公がそんなことになったのか。
時は少し遡り、現れしは殺人鬼の父親たち。それも三人。
その三人の父親から逃げるために辿り着いた先で、主人公は両手を失うことになるのですが……
主人公はともかく、主人公を取り囲む大人たちの吹っ切れ具合が半端ではありません。自分が決して正しいことをしていると主張することなく、悪であることを自覚したまま、それでも息子を守るために、理不尽な被害者たちのために、命を賭けて命を狩って行きます。
それがエゴだと知りつつも、その上で、信念にのっとって、一切の妥協を許さずに行動する父親たちの姿は、いっそのこと天晴です。
決して褒められたものではないはずなのに、心のどこかでやってしまえと応援している自分が居ました。
そんな父親三人に守られた息子である主人公たちは、死したはずの母親の正体を辿るうちに、とんでもないことに巻き込まれます。
果たして、殺人鬼は人外の化け物にも勝てるのか?
どうぞ皆さま。先の読めないストーリーにハラハラしたり、は? と手を止めて二度見三度三しながら、どんな結末になるのか追ってみてください。
私は何度スクロールする手が止まったか分かりません。
とある女性を軸にして集った三人の男と、その息子の物語です。
ホラーなのは間違いありませんが、登場人物たちは怪異を前にただ死を待つだけの存在でもありません。立ち向かう強さを持っています。
行動には結果が伴う。行動と結果の間には普通には繋がりが見えなくても、不思議と繋がっていると分かる。超常的な存在をもって、その繋がりを可視化してみせたのがこの作品だと言えるかもしれません。
先祖の悪事の「報い」、自分たちが行ってきた行為への「報い」。
自分の今までの行動に対してもしも報いがあるのであれば、それは良いことなのか悪いことなのか。
そんなふうに思える作品でありました。
怖いですが、一読の価値あり。名作です。