謎、秘密、闇、狂気、愛……そしてギャグ!

読み進めるごとに「面白い」「真実を知りたい」「先が気になる」という気持ちが強まる、練り込まれた、熱く、それでいて読みやすさも兼ね備えた御作品です。



物語の中核を成すのが『瘴気の領域』です。この中は「人が苦しみの末死ぬ」「死体が魔物と化す」「魔物がほぼ不死身となる」の三重苦の生き地獄であり、普通に侵入すればまず帰って来られません。

人々が住む主要地帯は瘴気と魔物を退ける『クリスタル』で守られているのですが、この「クリスタル」「マザークリスタル」という代物も、その本質が人類に利するものなのかどうか、いささか怪しい部分があるのです。


そして瘴気の発生により人類は団結するどころか、三つの分野においてバラバラの三国に分かれてしまいます。

・風と夢幻を操る魔術の王ゼフィールが君臨し、戦闘の実力が地位を決めるという明らかに民度がヤバい『実力領フリューゲル』。

・サブタイトルに出てくる「懺悔の丘」「神の祝福」「審判の儀」、これらの用語から受ける印象以上に色々と終わってる『信仰領ヴァルハラ』。

・まだ詳細は明らかではありませんが、ゼフィールと同じく王の証である『赫眼』を持つ女王プラリアナなる人物が治めていることと、信仰領に負けず劣らず倫理観が破綻していることは確実な『学術領ノスタルジア』。



ハッキリ言ってどこか選べるとしてもどこにも住みたくありません笑 しかしこんな過酷な世界だからこそ、そこに息づく登場人物達が、目を離せない魅力をもって強かに動き回るのです。


ジオさんは目立った才能を持ちませんが、試行錯誤を苦にもしない不屈の精神を持つ努力の人。では彼が望まずして禁断の力を持ってしまえばどこまで化けるのか? そんな主人公です。感情移入しやすい人物であり、一方で抱える秘密が、また彼を中心として広がる人物関係が今後も気になります。

彼と並ぶもう一人の主人公アサヒさんは、十歳の時点ですでに実力領最強の剣士となるも、「空っぽ」と称される、ただ強いだけの男…だったのですが、そんな彼が守りたい相手と叶えたい目的を得ればどうなるのか? 力に見合う大きな心と、細やかな気遣いを併せ持つ男前です。

学術領の現状ほぼ唯一の端緒である、人間嫌いの箱入り天才少女ディアさんもまた、重要人物の一人です。自身の知的好奇心に振り回され、理性と感情の狭間で悶える可愛らしい彼女ですが、その美しい緋色の瞳…『壊れた赫眼』とは何を意味するのか? 彼女の正体にも注目が集まります。

聖女とは名ばかり、謎の塊ナタリさん。やたらと積極的に動く信仰領の軍よりも、挙げ句に火を吹く「グール砲」よりも、彼女一人が恐ろしい。秘めたる剣技の底は知れず、なにを考えているか全く分からない彼女は、そもそも前歴(前職)が何なのか? 何を望みどこへ向かおうとしているのか? 必見です。


一癖も二癖もある冒険者ギルド『エクレア』のメンバーたち、舐めてかかると一発で形勢逆転してくる動物団員たち。赫眼を持たないゆえ生まれた瞬間その名に敗者の烙印を刻まれるフリューゲルの王子たち、やけに煩悩まみれな聖職者たち。どんどんヤバくなるアサヒ大好きおじさんと、アサヒ大好きを搾取する商人たち…?笑
まだまだ見どころ満載なこの御作品を、ぜひご一読ください!

その他のおすすめレビュー

福来一葉さんの他のおすすめレビュー95