読了後のレビューです。
物語の始まりはとある森。
主人公は精霊と縁ある少年。
セラという美しい名前、それは物語が秘める儚さや尊厳に満ちた世界へと導く魔法のような響きです。
物語で描かれる温かな家族の繋がりや、彼らが秘める悲しみ……それらが力強く、時には繊細な文章で描かれています。
そして何よりも驚かされるのは、情景や空気、風や海の音が聞こえるような場面の描写力です。
多彩な登場人物達の個性や想いもまた、物語を色々と鮮やかに染めています。
主人公セラが何を思い、何を見ていくのか……命の重みや、【生きていること】その意味に触れることが出来る物語です。
森の中にある閉鎖的な集落に住む少年セラは、精霊を見ることができる。
しかしそれ故に人々から奇異な目で見られ、孤独を感じていました。
これはそんなセラ少年が森を出て世界を見て、自分の秘密について知っていく物語……なのですが!
この森を出る前に、セラはある大事件を起こします。最初読んだ時は、えっ、こんな展開になるのと驚きました。
そんな大事件を起こして森を出て行ったセラですが、そんな彼のことを心配したのが弟のトニアです。
このトニヤというのが実にいい子で、兄セラの起こした事件の真相、セラが何を思っていたかが知りたくて、彼を追いかけて旅に出るのです。
なんて美しい兄弟愛。
森を出た兄セラと、それを追う弟トニアの二人の視点で描かれる、家族の絆の詰まった異世界精霊ファンタジーです。
精霊の見える少年、セラ。しかしその力は決して彼を幸せにするとは限りません。
周りから奇異な目で見られることだってあります。そればかりか、その力故に色々あって、とある事件を起こし、住んでいる森にいられなくなります。
ネタバレ防止のため詳しいことは書けませんが、この事件というのが、実に考えさせられます。セラの住んでいた森の住人たちから見れば、許されざること。だけどセラの視点で見ると、その行いも納得。
なら読者としては、これをどう思うか。そんな疑問を抱かせながら、物語は次の場面に移行しますが、この時点でストーリーはまだまだ序章。
森に住めなくなったことでセラは新たに暮らす場所を求めて外の世界へと向かうのですが、精霊が見えるという彼の力は、そこでも彼の生き方に大きな影響を与えます。
精霊が見える。その力に運命を翻弄され続けるセラは、旅の果てに何を見るのか。そして、彼にとって精霊とはなんなのか。
悩める少年の、答えを求め続ける物語です。
精霊が見える主人公は、敬愛する父を呑み込んだ樹を焼き払い、大事な家族を置いて旅に出た。しかしその体には、精霊の呪いと思われる文様が浮き出ていた。ところが危険な船旅の最中、凶暴な精霊から船を守ってくれたのは、文様だった。
大陸に渡った主人公は偏屈な精霊学者の弟子となる。しかしこの国は、身分によって住む地区が違うという特殊な造りをしていた。そしてある日、身分の最下層の人々が通う地区で事件が起こる。師の協力を得てその事件に関わったとみられる邪悪な精霊に遭うが、そこで主人公は不吉な予言を得る。
主人公はさらに大陸を旅し、精霊を王妃に据える国にやってきた。ここで主人公の体の文様は呪いではないことが分かる。その正体は——。主人公はこの国で王女の家庭教師をしながら過ごしていたが、自分を呼ぶ声を聴き、極北の民に会うために再び旅に出る。そんな中、主人公は義弟と再会。二人で故郷の村に帰ることを約束する。しかし主人公に待ち受けていたのは——。
決断を迫られる主人公が選ぶ未来とは?
主人公は全てを捨てて旅立ちます。もう、自分の帰る場所はないと思っていたところに、義弟がやって来て、また家族として暮らそうと懇願されるのです。壮大な世界観で描かれながらも、家族の物語であり、大事な人を大切に思い、行動する勇気の物語でもあります。
是非、是非、御一読下さい!
精霊が見える少年、セラ。彼はその特質から森の住民に爪弾きにされ、孤独な生活を送っていた。セラの家族も、ある理由から冷遇を受けている。
ある日、セラは泉の畔で5年前に失踪した父の声を聞く。愛する父の声を追って森に分け入ったセラが出会ったのは、樹齢千年の巨木だった───
一章まで読了した時点での感想ですが、非常に完成度の高い物語だと思います。
森の風景と『命の森』が抱える秘密、父の失踪の謎、セラの孤独感や怒りなどが美しい文章で綴られ、特に森の秘密が明らかになる場面の描写は眼前に映像が迫ってくるようで、鬼気迫るものがあります。
愛する父の思いを受け、神聖なる大樹に火を放ったセラ。この先彼が辿る運命を最後まで見届ける所存です。
この作家さまの作品はとても読みやすく、そして間違いなく面白い。
昨今の流行りの異世界やゲーム世界的ファンタジーが苦手な方も楽しめる内容だと思います。全力でオススメします!
休日に布団を被ったまま、あるいはあえて、喧騒の満ちるカフェでコーヒーを片手に読んでもいいかもしれない。
とにかく、スマホやパソコンでは足りない。
主人公のセラやトニヤ、彼らを取り巻くキャラクターたちの語る言葉には重みがある。これはたぶん、地の文に対して会話文が極端に少ないからなんだろう。
それゆえに、心にすんなりと沁みいってくる。先を読めば読むほど、物語が進むほど、彼らの言葉の重みが増してくる。一言一言に彼らの感情が乗っている。たしかに伝わってくる。決して僕の気のせいではないはず(笑)
情景描写や心理描写に関しましては、その叙情豊かな文章に、ただただ圧倒されます。事細かに描かれていますが、それでいて文章のリズム、テンポがいいので非常に読みやすくなっています。
作者様の練り上げられた描写は、半強制的にセラたちの世界へと連れていってくれます。
だからこの物語は、展開が遅いのがいいんです。ファンタジーとして静謐で、ゆっくりと真実へ向かっていくのが面白い。
読んでいるときの時間の流れがゆっくりに感じる。
切実に、文庫として読みたいと思わされたファンタジー小説。
まだ読んでおられない方、ぜひおすすめです。