第3話 昼休み

 教室で自分で作った弁当を食べている。

 料理は好きでやっている。

 両親は共働きだから、独学で、時に祖母から手解きを受けた結果、他人に振る舞えるレベルの料理は作れるようになった。

 今日の弁当には、昨日作り置きしたひじきの煮物と今朝作った玉子焼き、昨日の残り物からきんぴらごぼう、ポテトサラダを詰めた。

 自分の弁当に自画自賛ではあるが舌鼓していると、隣の枋木こぼのきさんは何やら悩んでいた。

 枋木さんの目の前には弁当があって、蓋は開かれている。

 弁当をじっくり見て、腕を組んで悩んでいる。

 どうして悩むのだろう。

 気になってきたので話しかけてみる。


「枋木さん」

「はい?」


 不思議そうに僕を見る枋木さん。


「食べないの?」


 すると、枋木さんは戸惑った。

 黙って待つと、枋木さんはこう言った。


「いつも、どのおかずから食べようか悩んでしまうの」


 なんという深い悩み事なんだ。

 少し驚いてしまった。

 どのおかずから食べようか悩む事なんか1度もないから。


「まさか、小中の給食も悩んだ?」


 すると枋木さんは頷いた。

 僕には分からない次元にいるんだなと思う。

 悩むのか…良いんだか悪いんだか。


「あの」

「ん?」


 思い詰めた枋木さんは僕に「お願い」と言って、一呼吸置いてから更にこう言った。


「この中から最初を選んで」

「は?」


 間抜けな声を出してしまった。

 僕が決めるの、それ。

 自分で選んで食べるのが良いのでは。


「お願い」


 上目遣いで潤んだ瞳で訴える枋木さん。

 本当に良いのかな。


「良いの?」

「はい」

「じゃあ…」


 半分ご飯で半分はおかずの構成。

 タコさんウインナーが2つ、玉子焼きが一切れ、昨日の残り物だろうか肉じゃが、冷凍のグラタンが詰めてあった。

 冷凍のグラタンはカップに入っていて、きっとカップの底には占いが書かれてあるだろう。

 ちょっと聞いてみよう。


「この玉子焼きは出汁?それとも甘口?」

「玉子焼きは甘口ですね」


 なるほどな。

 午前中に体育で怒られていたから、あれにしよう。


「玉子焼きから、どう?」


 枋木さんはパアッと明るい表情となって「ありがとう」と言って玉子焼きから食べ始めた。

 それからは美味しそうに食べ進めていたから安心した。

 僕も残りのおかずとご飯をぺろりと食べて完食した。

 明日は何を弁当に詰めようかな。

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