第9話 お誘い

 枋木こぼのきさんとファミレスに来た。

 奥のテーブル席が空いていたので、そこに対面で座った。

 女の子とお茶は初めてだ。

 これはデートっていうのかな。

 いや、自惚れない方がいい。

 調子に乗らないように。

 枋木さんと僕はメニューを一通り見てから、タッチパネルに注文を完了させた。

 早速枋木さんからドリンクバーの所に行った。

 僕はその様子を見ていた。

 なんだか、あっちへ行ったりこっちへ行ったりして迷っていた。

 悩んだ末、オレンジジュースをコップに半分注いで持ってきた。


「飲み物がたくさんあるから迷っちゃった」

「なんか分かる」


 次は僕がドリンクバーへ。

 アイスコーヒーにした。


「早いね」

「ファミレスならコーヒーかなって感じで」

「羨ましい」


 ふふっと笑う枋木さん。

 ちょっと大人びて見えた。

 しばらく他愛ない話をしていると、注文した品が運ばれてきた。

 僕はドリンクバー以外なにも。

 枋木さんはミニパフェを頼んだのだ。

 チョコレートバナナをチョイス。

 美味しいと言いながら食べる枋木さんは可愛く見えた。


薮木やぶき君」

「えっ…」


 チョコレートがかかったアイスクリーム、一口分をスプーンに乗せて、僕に差し出している。


「私だけだと申し訳ないから、一口どうぞ」

「えっ…と…」


 冷や汗が流れた。

 どうしよう、困った。

 これは、あーん、てやつだ。

 枋木さんはキョトンとした顔ではあるが、早く食べてと言った顔にも見えた。

 このスプーン…枋木さんが使っているんだよな。

 となると、あーんを受け入れた場合、してしまう。

 悩んでいると「あっ、そっか!」と枋木さんは言って、差し出したスプーンは彼女の口に入り、乗っていたアイスは消えた。

 そのスプーンは一旦置かれ、もう1つのスプーンを箱から取り出し、改めてパフェを掬い、それを僕に向けた。


「これなら大丈夫でしょ?」

「あー…はい…」


 マシにはなったが恥ずかしいのは変わりない。

 でも、彼女の好意を無下には出来ない為、僕はあーんを受け入れた。

 スプーンが口の中に入り、アイスの程よい甘さが広がった。


「美味い」

「でしょ!」


 嬉しそうにする枋木さん。

 僕はまだ恥ずかしくて目を合わせるのに数分かかった。

 楽しいお茶会は過ぎ去った。



 駅前のロータリーにて。


「テスト頑張ろうね」

「うん、頑張ろう」


 テストの健闘を互いに願って別れた。

 その後、テストは無事に終了し、返却されたテストに赤点はなかった。

 無事に夏休みを迎えた。

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