第2話 可笑しな動き

「前の人から順に番号言ってけー」


 体育の授業でのこと。

 全員整列して、1番前の人から順に番号を言っていく。


「いくぞー!」 ピーッ!


 笛の合図で「1」「2」「3」…と、順に大きな声で番号が体育館内に響く。

 全員言い終わった所で、また笛が鳴った。


「よし!次!」


 次は行進の練習。

 そう、これは体育祭に向けての練習である。


「右足から足踏みすること!」


 ゴツい顔の大柄な体育の先生は張り切っていた。

 一方の僕達生徒はというと、ダルいなって空気が密かに漂っていた。

 高校生にもなってやるなんて。

 だが、しっかりやらないと成績に多少なりとも響くのは分かり切っているから、全員真面目にやる。


「絶対間違えるなよ!」


 ピーピッ!ピッピッピッ!


 まず足踏みが始まった。


「腕も振れよ」


 指先まで綺麗にだそうです。


「次は進むぞ!」


 ピーッ!


 行進が開始された。

 どんどん前進していく。

 体育館1周をする。


「良いぞー!その調子だ!」


 先生の手拍子に合わせて行進をして無事1周した。

 元の位置に戻り、数十秒間また足踏みをして、笛の合図で止まった。


「やれば出来るじゃないか、さすが2年だな」


 この口振りだと1年生はバラバラだったのだろう。

 当たり前だ。入学してまだ互いに探り探りの期間なんだから。

 賢くピタッと合ってみろ、天才としか言えない。


「最後に今から右って言ったら右、左って言ったら左、後ろって言ったら後ろ、前って言ったら前な」


 言われた方向に素早く向くやつですね。


「いくぞー、右向けー右ッ!」


 全員右を向いた。


「ちょっとバラついたがまあいいや。次、左向けー左ッ!」


 全員左を向いた。


「うーん…まあいいや」


 頭をガリガリ掻く先生。悩ましい顔だ。

 どうやら次の体育ではこの練習となるだろう。


「次、後ろ!」


 全員後ろを向いたのだが、なんか1人だけ可笑しかった。


枋木こぼのき、お前1回転半して誤魔化したな」

「すみません!」


 前から5番目にいた枋木さん。

 おどおどしている。

 後ろから5番目に並ぶ僕の位置からでも、可笑しな動きをしていたのは分かった。


「お前、しっかりしろよ!」

「気を付けます!」


 クラスメイト達はくすくす笑っていた。

 それに対して枋木さんは苦笑する。


「じゃあ最後は簡単だからな」


 ピリッと空気が張り詰め、クラスメイト全員が集中する。


「前を向け!」


 全員前を、先生の方を向いたのだが。


「枋木ー!」

「ごめんなさーい!」


 結局ビシッと締まらず、笑いがドッと沸き、枋木さんは恥ずかしそうにしていた。

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