最後まで読ませていただきました。
こちらは現代日本を舞台に荒魂(あらだま)という敵と戦う高校生の少女、由美が主人公のバトルファンタジー作品です。
そんな由美は、普段から口数が少なく、どちらかというと大人しい主人公で、思っていることもあまり言えなさそうなのですが、物語中に哉太という男の子と出会い、彼女の恋愛模様も描かれ、彼との繋がりから少しずつ成長を遂げていきます。
また彼女らが持つ、特殊能力も作中の中でとても重要に描かれており、日本が誇れるようなクールさを持っています。
和のバトルが好きな方にも刺さるのではないかなと思います。
大きな戦闘の中に、二人の絆、そして恋、様々な結びつきがある作品です。
恋愛作品としてもおすすめな物語です!
大きな仕事なのに、仕事をした人の存在が認知されないことってありますよね。例えばイルミネーションの配線とか。
でもこれらは仕事人同士はお互いの存在を認識できますし、イルミネーションを見た人は「ああ、こんな素敵な仕事をした人がいるんだ」と想像することができます。
しかし本作の代人というヒーローは違います。彼らの力は「存在」。存在を対価に力を得て、その力で戦います。
力の使いすぎは文字通りの「消滅」を意味します。誰からも存在さえ忘れられる。親にも兄弟にも恋人にも、そんな人間はじめからいなかった、誕生していなかったかのように扱われる。
対する敵は「存在を喰う」荒魂という化け物。こいつに喰われた人間は存在がなくなります。先程と同じように、家族からも友達からも恋人からも、存在そのものがデリートされる。
そう、主人公たちは己の存在を賭けて他人の存在を守る英雄なのです。
代人の由美は荒魂を狩り続ける女子高生。そんな彼女の前に、突出した才能を持った少年が現れて……? というところから物語は始まります。
本作はバトルパートのみだけではありません。
日常パートもあります。
友達とはしゃいだり、恋したり、学校で日常を送るシーンがあります。
しかし戦って「存在」を失うと、そうした思い出さえ一切なかったことになります。日常パートがバトルパートに緊迫感を持たせているのです。
やがて出会う、強大な敵。
「存在」を賭けた戦い。
でも大丈夫。あなたは忘れないから。
しかとその目に、焼きつけてください。
新月の夜、荒魂という怪物が現れて人を食う。
食われた人は存在自体が消えてしまい、人々の記憶からも消されてしまう。
食われるとき、その命は仄青い光を放つ。そんな命の光を幾度も見ている者がいる。荒魂と闘う使命を帯びた者、代人だ。
この物語の主人公、由美と哉太は、その代人の少年少女です。それぞれに心の傷を抱えながら、荒魂を撲滅するために心血を注ぎ、文字通り身を削っています。
引っ込み思案な由美と、物怖じしないが心優しい哉太。対照的な二人は友情を育み、やがて淡い想いを抱いていきます。
鮮やかで分かりやすく、かっこいい戦闘シーンが散りばめられていて、読者を興奮の世界に誘います。バトル好きにはたまらない展開が続き、目が離せません。特に、知性のないはずの敵が知性のようなものを見せるシーンが私は好きなので、この展開は胸熱です。
このように戦闘シーンも素晴らしいのですが、この物語の最も優れた点は、作者様の十八番とも言える「人物の繊細な心情描写」ではないかと思います。
当初の由美には、前を向こうと踠きながらも過去に引き摺られてしまう、ちょっと心の弱いところがありました。
しかし、哉太と共闘するようになり、彼のまっすぐな心根や勇敢な覚悟に触れるうちに、徐々に変化していきます。
使命に燃える若き心と、乙女の揺れる恋心、そして青春、友情。それらがバランスよく配置されているので、全然飽きることなく読み進められています。
特に印象的だったのが、由美が戦闘中に絶体絶命に陥るシーンです。
そのとき、共闘していた哉太が由美に『あること』を施すのですが、このシーンの前と後で、由美のマインドは大きく変わります。体の一部を象徴的に扱い、精神的な成長を表現する手腕の素晴らしさにハッとさせられました。
さて、レビューを書いている時点で、私は最終章を拝読しています。
荒魂を根絶するために無茶をする哉太と、それを止めて新たな可能性を探りたい由美。さらに、思いがけぬ人が由美たちの前に現れて……。
どんなラストが待っているのか、皆さんも私と一緒に見届けませんか?
新月の夜にのみ現れる、人を食らう怪物──荒魂(あらだま)。
奴らに喰われた人は、存在自体が消えてしまう。家族であろうと愛する人であろうと、皆の記憶から消え、忘却の彼方へと葬られる。
そんな荒魂から人々を守るために新月の夜を駆け、奴らを狩る存在──代人(かわりびと)。土地神の加護を受け、不思議な力を扱う彼らはまさに''人ならざる人''であった。
代人の一人として生きる由美は、己の無力と荒魂への怨嗟を抱え新月の夜を駆ける。しかしとある少年、哉太(かなた)の家族をを''助けられなかった''ことで彼と出会い、そして運命を大きく変えていくこととなる。
美しくも儚く残酷に構築された世界観が現代と物語の狭間を曖昧にし、''こんな存在がいるかもしれない''と思わせてくれて。
一つ一つ丁寧に書かれた描写が織り成す戦闘は、容易に頭の中で映像を再生させてくれて。
由美と哉太が互いを信じ合い、本当の意味で相棒やそれを超えた関係になっていく様は心を震わせてくれる。
まさに新月のように、''そこにあるのにそこにいない''かのような儚い存在である代人である由美と哉太。
しかし、彼らは守っていくのだ。既に失った自分達のような目に遭わさない為に、誰かに''失わせない''為に。
静かに、確かに心を打つ物語。是非ともご一読あれ。
荒魂という怪物の特殊性として、荒魂によって失われた人に関する記憶を、生き残った人も失うという要素があるのですが、主人公たちのように荒魂に対抗出来たり認識が出来るレベルだと、記憶を失う事はないという。
この「大切な人を失ったという記憶を忘れられない」ところが、主人公たちにとって辛いところですが、でもその辛さがああるからこそ、立ち向かっていける強さに繋がっているという設定のバランス感覚がすごい!
戦闘シーンは周辺に意識を広げて敵を認知する《調》だとか、自分や周囲に影響する《動》、武器の生成の《造》を切り替えながら使いこなすところ、アクションゲームにしたら面白そうだし、そのような能力を駆使したバトルシーンはとにかくカッコイイし、新しい使い方を模索したりの成長要素もたまらない。
そして敵の出る時期が新月と決まっているので、それ以外は日常のパートとなるのですが、そちらの青春だとか恋愛だとかのエピソードがとても良い。ただのバトルの休息シーンではなく、戦う彼らの苦悩だとか戦う意味だとかも織り交ぜながら、次の戦いに繋がる要素となっていく。
主人公を含め登場人物が小気味いいというか、こういう人達って素敵だなと思える人ばかりなので、頑張れと応援しながら読んでしまうかも。
つまり、現代伝奇ファンタジーです。
理解しやすく、それでいて和風感がたっぷりの独自能力。
バックアップをする慢性的に人材不足な後援組織。
過去を背負った少女。これからを共に歩く少年。
二人の出会いがまるで符丁であったかのようにより厳しく変わっていく状況。
果たして彼女は、彼はどうなっていくのか。
変わり始めた世界は、何を始めようとしているのか。
そんな謎と不思議が興味を引いて、奥へ奥へと引き込んでいく物語です。
個人的推しポイントは、ヒロインのお姉ちゃんと、お友達の女の子が最高というところです。
超好き。推せる。幸せになれ。
そんな魅力的なキャラたっぷりの素敵なお話なので、おすすめですよ!