新月の夜に、失った者達が描く''失わせない''物語。

新月の夜にのみ現れる、人を食らう怪物──荒魂(あらだま)。
奴らに喰われた人は、存在自体が消えてしまう。家族であろうと愛する人であろうと、皆の記憶から消え、忘却の彼方へと葬られる。

そんな荒魂から人々を守るために新月の夜を駆け、奴らを狩る存在──代人(かわりびと)。土地神の加護を受け、不思議な力を扱う彼らはまさに''人ならざる人''であった。

代人の一人として生きる由美は、己の無力と荒魂への怨嗟を抱え新月の夜を駆ける。しかしとある少年、哉太(かなた)の家族をを''助けられなかった''ことで彼と出会い、そして運命を大きく変えていくこととなる。

美しくも儚く残酷に構築された世界観が現代と物語の狭間を曖昧にし、''こんな存在がいるかもしれない''と思わせてくれて。
一つ一つ丁寧に書かれた描写が織り成す戦闘は、容易に頭の中で映像を再生させてくれて。
由美と哉太が互いを信じ合い、本当の意味で相棒やそれを超えた関係になっていく様は心を震わせてくれる。

まさに新月のように、''そこにあるのにそこにいない''かのような儚い存在である代人である由美と哉太。
しかし、彼らは守っていくのだ。既に失った自分達のような目に遭わさない為に、誰かに''失わせない''為に。


静かに、確かに心を打つ物語。是非ともご一読あれ。

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