【傑作】ローファンタジー×青春もの

新月の夜、荒魂という怪物が現れて人を食う。
食われた人は存在自体が消えてしまい、人々の記憶からも消されてしまう。

食われるとき、その命は仄青い光を放つ。そんな命の光を幾度も見ている者がいる。荒魂と闘う使命を帯びた者、代人だ。

この物語の主人公、由美と哉太は、その代人の少年少女です。それぞれに心の傷を抱えながら、荒魂を撲滅するために心血を注ぎ、文字通り身を削っています。

引っ込み思案な由美と、物怖じしないが心優しい哉太。対照的な二人は友情を育み、やがて淡い想いを抱いていきます。

鮮やかで分かりやすく、かっこいい戦闘シーンが散りばめられていて、読者を興奮の世界に誘います。バトル好きにはたまらない展開が続き、目が離せません。特に、知性のないはずの敵が知性のようなものを見せるシーンが私は好きなので、この展開は胸熱です。

このように戦闘シーンも素晴らしいのですが、この物語の最も優れた点は、作者様の十八番とも言える「人物の繊細な心情描写」ではないかと思います。

当初の由美には、前を向こうと踠きながらも過去に引き摺られてしまう、ちょっと心の弱いところがありました。

しかし、哉太と共闘するようになり、彼のまっすぐな心根や勇敢な覚悟に触れるうちに、徐々に変化していきます。

使命に燃える若き心と、乙女の揺れる恋心、そして青春、友情。それらがバランスよく配置されているので、全然飽きることなく読み進められています。

特に印象的だったのが、由美が戦闘中に絶体絶命に陥るシーンです。
そのとき、共闘していた哉太が由美に『あること』を施すのですが、このシーンの前と後で、由美のマインドは大きく変わります。体の一部を象徴的に扱い、精神的な成長を表現する手腕の素晴らしさにハッとさせられました。

さて、レビューを書いている時点で、私は最終章を拝読しています。

荒魂を根絶するために無茶をする哉太と、それを止めて新たな可能性を探りたい由美。さらに、思いがけぬ人が由美たちの前に現れて……。

どんなラストが待っているのか、皆さんも私と一緒に見届けませんか?

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