それは四年まえの約束を果たすという名目で明かされていく過去と、それを乗り越えようと奮闘する彼らの物語。
【物語は】
主人公の宏樹の元へある一本の電話がかかってくるところから展開されていく。その通話の相手は人生の中で一番熱い夏を共に過ごした仲間の一人。
そのような相手であるにも関わらず宏樹がすぐに応答しなかったのには理由があった。彼が思い出したくなかった苦々しい過去とは?
【この作品の題材や向けについて】
あくまでも個人的な見解となるが書き手の思想や姿勢、製本、文学フリマなどが出てくるので自分でも作品を手掛けているような層に共感を得られる作品だと思う。
タグにはないが恋愛も含まれるため、自分に自信がなく両思いかもしれないけれど踏み出す勇気がないという層に勇気を与えるような作品でもあると思う。
【主人公について】
彼は努力家でありながら失敗をせずに成功したいと望むタイプの人間だと思う。しかしながら、自身の実力がいかほどか理解もしているため自信家とは言えない。挫折してもめげずに向かうタイプではないため、一度失敗してしまうと立ち直りが難しいと思われる。
彼が努力家であるとうかがえる部分は多々あり、好きだからこそ努力するということも伝わってくる。とは言え打算でやっていたことに関しては後ろめたさがあるのか、慕われることに戸惑いを感じているようにも見受けられる。
作中、彼は『琥珀先生』と囃し立てられるが実力が見合っていないと感じているらしく、そう呼ばれることに躊躇いを感じている。
だが少なくとも四年前の彼はそうではなかった。
【仲間と主人公】
この物語での主軸は四年前の約束を果たすことにあるが、その過程の中で彼には乗り越えなければならないものがいくつかある。
四年連絡を絶つということは、彼らにもそれぞれ変化があるはずだ。
仲間内でおつき合いをはじめたものもいるかもしれないし、何かの理由があって距離をおいているような関係性の者もいるはず。だが電話越しで再会した彼らの人間関係がどうなっているのか、宏樹は知る由もない。
彼らの現状が明かされ、また宏樹の過去や想いも明らかになっていく。
これはこの物語の魅力の一つと言えよう。
【主人公の過去】
かつては同じ目標を持ち、その夢に向かっていた彼ら。主人公が現在まで彼らと連絡を絶っていたのはそのことが深く関係しているのだろうか?
約束を果たすために再会した彼らではあったが、どうやら宏樹には彼らには言えないものを抱えていたようである。
その発端となった事件は正義感だったのか、それとも仲間を思う気持ちだったのか? あるいは……。
主人公が何故彼らと距離をおくことになったのか、序盤ではいろいろと憶測してしまう。それが明かされた時、宏樹は彼らの前から去るという決断しかできなかったのだろうと思わされる。
【物語のみどころや魅力】
自分が読んでいて一番気になったのは『何故、主人公が筆を折ったのか?』この部分である。はじめは『先生』などと囃し立てられているにも関わらず、自分に実力がなかったからなのかと感じてしまう。過去が明かされていくにつれ、なるほどと思わされる。
主人公は相反する気質を持っていると思う。努力は確かに実ってはいるが、それは正解でしかない。それが分かっているがゆえに、自分に才能や実力が伴っていないと感じられるのだと思う。
自分のしていることは周りに影響を与え、救ってもいるがその結果は『そうなるようにした』からの副産物。
例えば人気を獲得するためにすべての人に優しくした。すると確かに人気は得たが、”あなたに助けられた”と崇拝する人も現れる。しかしそれに関しては予想していなかった。こういうような感じ。
正解の道から自己を表現するという方向に至るのは非常に難しいだろう。
作者が何を合格としているのかは分からないが、宏樹に必要なのは『100点満点を取る』ことではなく『上手くなくても整ってなくてもいいから、自分の言葉で想いを伝えること』だったのではないかと思う。
さてこの物語は約束を果たすために『アンソロジーを作る』という以外にも、それを通じて変化していくものがある。それが人間関係。
これについて語るよりも読んだ方が思い白いと思うのでサラッとしか触れないが、この変化も見どころの一つであり、『え?』と思う展開が待ち受けている。
過去を乗り越える勇気をくれる作品であると思う。主人公は果たして抱えていた過去から立ち直ることが出来たのか? どうやって乗り越えたのか。
その目でぜひ確かめてみてくださいね。お奨めです。
(備考:4−5 夜明けのおにぎり(2)まで読了でのレビューです)
このお話は高校時代にヨミカキという小説投稿サイト(なんかどこかでみたような気がしますね)にて知り合って、一緒に切磋琢磨した仲間同士が、再び出会って一冊の本を作りあげるまでの物語です。
その本のテーマは「青春やりなおし」。
そしてその本のテーマと重なるように、主人公がもういちど青春を取り戻すお話です。
もともとは高校生らしい瑞々しさから、少しだけ大人になって大学生になった彼らが、でもまだ「青春」を残してもういちど想いを重ねていく。
そんな物語は少しだけ苦さも含みながらも、温かい物語でした。
物語の仲では主人公はあるきっかけにより物語を書けなくなってしまい、そしてその頃の仲間と再び集まる事になってまたもういちど物語を描く。
そんな展開がありますが、個人的に私自身もそんな体験をしたこともあり、思わず重ね合わせてしまうところもありました。
読んでいてこれからの未来を感じさせました。
とても素敵な物語です。
高1から執筆を始めた主人公・矢形宏樹は、高校生物書きたちを集めたオフ会を企画し、「月夜ノ波音」というサークルを形成する。アンソロジーを作ってイベントに出ることを目標にしたものの、宏樹自身が突然ネット小説から離れてしまう。
そこから4年経ったある日、サークル仲間の大村健二からまた集まろうと声がかかり、宏樹たちの青春が再び始まる…
青春がぎゅぎゅっと詰まった作品。ネット上での気軽なやりとりや実際に会ってみたときの気恥ずかしさがとてもリアルに描かれています。また、ネット上だからこそのすれ違いも共感できるので、読んでいて相づちを打ってしまいます。
アンソロジーの表紙やページ配分を考えたり、会場設営をしたり、メンバーたちとリモートで会議をしたり、そういった経験のない私は「あ~こんなことしたい!」となりました。
同じ場所で同じ時間を同じ志を持つ人たちとともに。イベントでわくわくや楽しいを共有する。素敵すぎです…
ぜひみなさんも宏樹たちの青春のやりなおしを見届けてください!
高校生の頃、小説を書いていた主人公が挫折し、それから時を経て、もう一度あの頃の仲間たちと、小説を書いていくというお話です。
もう至る所に青春が散りばめられています。眩し過ぎて、時々読んでて苦しくなる時があるほど……。
そして主人公たちが小説を書くというお話なので、同じ書き手の方たちにはよりリアルに、より一層キャラクターたちに同調できることと思います。
時に共感し、時に耳が痛くなるような、書くことへの想いや苦悩や考えが溢れています。
小説を書かないって方も、なるほど……と思われることが多々あると思います。
個人的には、書いたことがないという方にこそ読んでほしい。もしかしたら書きたくなるかもしれませんし(笑)
括って、全員に読んでもらいたい、おすすめの青春小説です。
このお話は、自分を見ているような錯覚を覚えました。私も高校時代で「理系」への進学と共に「断筆」しましたから、よくわかります。
このお話は「高校時代」、とあるキッカケで「小説」を書かなくなった主人公が、心にかろうじて残っていた情熱の「炎」を再び燃やし、「一歩」前へ、そう、「とても大きな一歩」を踏み出す物語です。
この物語は「フィクション」なんですが、私の周りにも「こういう人」います。「何か」のきっかけで、止まっていた時間を動かせる人。そして、そのキッカケの多くは「人」、とくに「昔の仲間」であることは、本当によくあることです。
そんな「友情」と「恋愛」を両輪に、前に進みだす主人公のお話です。
主人公・宏樹は、高校時代、ある出来事を境に小説を書かなくなった。
ネットで知り合った同世代の仲間たちとのある約束も反古のまま、大学に入ったものの目標も見出せずに過ごしていた4年後、突如の昔の仲間からの強引な連絡。
ネットを縁に再び集まる仲間たち、動き出す計画、熾火の様に奮い立たせる情熱、少女とのほのかな心の通い合い。
大学生なんて、後から見れば「青春まっただ中」も良いところなのだけれども、その渦中にいれば、高校から大学へは大きな時間の断絶、成人もし、就職も意識しなければならない。さらに、その先も。
そんな、人生の痛みも重みも知った若者たちの青春群像を、代官坂のぞむ先生が描き出す!
小説は風景が浮かんでくる~等とよく言いますが、これは語り手の隣に自分がいるような錯覚を覚えました。
語り手である主人公と会話文の間に一切のノイズが挟まらず、主人公がまさに生きている、ということを証明してくれているようで息をはくように文字を追う事ができたことに驚きました。
文章構成も見事なのですが、展開と絡めていくキャラが主人公以外でも、すでに独立し、はっきりとした意志を持っているため、登場人物が増えても混乱することが一切ありません!
主人公と気が合う、いわゆる相方ポジキャラが周りキャラの魅力を一層引き出してくれるという主人公に取っても物語じたいにとっても貴重なキャラが開始時点でいるのも大きいかもしれないです。
面倒見が良いというか、グループに一人いるとグループがバラバラ、整列して一列、ではなく輪を作るようになるようなキャラなので、主人公とヒロインの存在感を引き立てながらもそのキャラが会話するとついつい意識を向けてしまいました。
物語の主軸も20代以上の方から見るとノスタルジーに、20代以下の方であれば共感を得られるような「あの頃に熱中した・・・」という書き方がとても心に染み入ります。
色んな趣味が溢れる中でみなさん一つはあれは熱中したなぁ~というものがあると思います。
趣味の違いはあれどその頃の熱を思い出させてくれるとても素晴らしい作品なので、ぜひ読んで頂きたいです!
いい思い出だけではなさそうでしたがw