本気で、くやしい

 この小説を読み終わってから数日がたった。なのに、頭の中にあの世界が渦巻いていて離れない。家事も、執筆も、読書もはかどらない。なにも手につかない。

 読まなきゃよかった。

 本気で思った。

 最初からそうだった。誰かのレビューを見て、面白そうだと思ってのぞきに来ただけだった。なのに、一話を読んだとたん、鳥肌が立った。

 真っ黒な森の、神社。ちょっとはみ出し者の二人。

 風景も、人物も、映像を見ているように浮かんでくる。深い森の湿った土のにおいまで立ちのぼってくるような感覚。
 そのまま一気に切りのいいところまで読んだ。でもあとはもう、止まらなかった。

 端役に至るまでの登場人物の一人一人が、戦う様が、映画を見終わった時のように残像として残っている。何か気のきいたコメントを残したいのに、感情が塊になって渦になって、言葉で何をどう表現していいのかもわからない。

 くやしい! くやしい! くやしい!

 どんなに練習しても、どんなに頭をひねっても、自分には絶対にこんな小説書けない。どんなに頑張ってもかなわない。

 小説は勝ち負けじゃない。わかってるのに、くやしくてたまらない。

 だって今も、頭の中にはあの世界が、あの人物たちが続きを読んでくれとぐるぐる回っている。

 でも、まだ続きは読まない。くやしいけど、もう一度最初からこの序章を読み直す。そしてそのまま一気に続編に突入したい。

 しばらくは、何も手につきそうにない。
 

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