星空の下の静寂

米太郎

星空の下の静寂

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 ‌雲ひとつない夜。

 ‌空には無数の星が輝いている。


 ‌一つ一つの星が眩い光を放ち、それが空を埋めつくしている。


 一つの星をじっくり見つめれば見つめるほど、何光年も先へ吸い込まれるような感覚。

 ‌まるで、星の海に溺れてしまうような感覚。


 ‌誰かと一緒に居ないと恐怖を覚える感覚。




 ‌ここは、北の国。

 ‌人里離れたホテルに2人で泊まりに来ている。


 ‌深夜、ホテルから少し歩いた湖の畔にやってきた。

 ‌辺りには雪が積もっており、白く輝く大地はしんと静まり返っている。



 深‌夜に2人で星空を見る。

 ‌極寒の地ならではのデートだ。


 ‌防寒着を着込み、頭にはニット帽、耳にはイヤーマフを付けて、マフラーで口まで覆い隠す。

 ‌手袋はスマホ操作ができるタイプのものを着用している。


 悠希ゆうき‌は隣にいるのだが、口を開けると寒い空気が体を侵食してくるため、スマホを使ってやり取りをする。




 ‌――とっても星綺麗だね。



 ‌悠希ゆうきは私からのメッセージに気付いたようで、私にならってスマホを使って返信してくる。



 ‌――普通に喋ればいいじゃん?

 ‌――星、綺麗だね。



 ‌私もスマホで返す。



 ‌――静寂を楽しみたいんだよ。

 ‌――わからないかな〜?この気持ち?



 ‌――分からなくもないけど。



 ‌私は、悠希ゆうきの肩に頭を乗せた。



 ‌――こうやってメールで会話するのって、遠距恋愛の時みたいだね。



 ‌――そうだね。

 ‌――あの頃は朱里あかりも忙しくて、電話出来ない日が多かったもんね。


 ‌私達は一時期遠距離恋愛をしていたカップル。




 ‌あ、流れ星だ!

 ‌どうか悠希ゆうきと結婚出来ますように……。



 ‌持っていたスマホを両手の間に挟み、手を合わせる。

 ‌そして目を瞑り、空を拝んで願い事を心の中で唱えた。


 ‌結婚、結婚、結婚……。


 ‌3回唱える。


 その間10秒程、スマホでの会話も途切れた。




 ‌スマホのバイブレーションが悠希ゆうきからのメッセージを伝える。


 ‌――綺麗な流れ星だったね!

 ‌――何かお願い事したの?



 ‌――ふふ。秘密〜。

 ‌――悠希ゆうきとこのままずっと一緒に入れますようにって。



 ‌悠希ゆうきからの返信が一瞬止まった。

 ‌少し考えた後、悠希ゆうきから返事が来た。



 ‌――私達、やっぱり別れた方が良いよ……。



 ‌今度は私の動きが止まった。

 ‌悠希ゆうきからの返信が立て続けに来た。


 ‌――私達、女同士だよ?

 ‌――これ以上付き合っても幸せにはなれないよ……。




 ‌……私はスマホを弄る手が動かなかった。


 ‌知っている……。

 ‌私だってそんなことは知っている……。



 ‌高校から付き合い始めて、悠希ゆうきだけが東京の大学に進学した。

 ‌Uターン就職で大学卒業と同時に北海道に戻ってきたのだ。


 ‌その間も付き合い続け、もう20歳半ばになっている。



 ‌このまま女同士で付き合っていても、幸せにはなれない。

 ‌それは正論だと思う……。


 ‌頭では理解してても、気持ちが追いついてこない……。


 ‌私は悠希ゆうきが好き。愛してる。

 ‌このままずっと一緒にいたい。


 ‌子供が作れなくたって、普通・・の幸せな家庭が持てなくたって、悠希ゆうきと離れるなんて嫌。



 ……‌ずっとずっと一緒に居たい。

 ……‌離れたくない。

 ‌……私には悠希ゆうきしかいない。

 ……‌私の人生には悠希ゆうきしかいない。



 ‌私が返事に困っていることを感じた悠希ゆうきは、スマホをポケットにしまい、私の頭を撫でた。


 ‌満天の星空の中、沈黙は続いた。




 音もなく静かに流れ出る涙。

 ‌溢れ出て、溢れ出て、そのまま地面に落ちそうになる。


 ‌悠希ゆうきは静寂を守るように、私の頬から涙を拭いていく。




 ‌男ってなんだ。

 ‌女ってなんだ。

 ‌性別ってなんなんだ……。



 ‌私と悠希ゆうきを阻むものはなんだ……。


 ‌女に産まれた事が悔しい……。





 ‌……けど、やっぱり諦めたくない……。




 ‌私はその言葉で、静寂を破ろうとマフラーを避け、口を開いた。


 ‌悠希ゆうきはそんな私の口に、口付けをして塞いだ。




 ‌久しぶりのキス……。



 ‌話す気力は失せてしまった。




 ‌悠希ゆうきはスマホを取り出して、メッセージを送ってきた。



 ‌――朱里あかりの気持ち分かったよ。

 ‌――幸せにしてあげるなんて言えない。

 ‌――けど、不幸にはしない。

 ‌――もう泣かせないから。



 ‌次から次へと涙が溢れる。

 ‌嗚咽が出そうになる度に、悠希ゆうきがキスをして止めてくる。



 ‌――明日役所に行こう。

 ‌――パートナーシップ証明貰いに行こうか。

 ‌――結婚・・でなくとも、一生涯のパートナーになろう!



 ‌無数の星に包まれる夜。


 ‌一つ一つの星は各々違った色で、違った形で、違った明るさで輝くように、幸せも人それぞれでいいと思う。



 星の光は‌湖に反射して、湖にも星の海が広がる。

 ‌幻想的な景色はどこまでも広がっている。

 ‌どちらが上だか分からなくなる。



 ‌ここに2人で来れて本当に良かった。



 ‌この世界には上も下も無いのかもしれない。

 ‌幸せの形だって、一つ一つ違っていい。

 ‌上も下もないんだ。


 ‌私達は夫婦パートナーだ。




 ‌美しい星空の中、幸せな静寂が続いていた。


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星空の下の静寂 米太郎 @tahoshi

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