欠けぬなら、囓ってしまおう、ホトトギス

ルベルゼ月王子は完璧な人間だ。王族としての責任を持ち、民への思いやりがあり、文武両道で使用人からも崇拝されている。
しかし結婚相手を決める舞踏会で王子は婚約者を選ばなかった。そのことに腹を立てた「私」ことリアネはメイドに扮して王城に乗り込むことに。

どこまでも完璧で隙のない「月」。自ら欠けることがないのなら私が囓ってやろう!私が王子の素を引き出してやる!!

そんな気持ちで王子と関わることになったリアネ。彼女は王子に勝負をしかけ、毎晩ゲームをすることになります。ですが、毎日共に時間を過ごすことでその気持ちに変化が現れ――

1話が短いながらも読者を引き付ける書き方がうまく、どんどんページをめくってしまいます。この王子が悔しがる姿を見たい、素の顔を引き出したい、といつの間にか読者もリアネに感情をリンクして読んでしまう。
この作品の巧みな所は、物語が進むにつれ、リアネと一緒に読者の心情も変化していく所です。初めは散りばめられる謎への好奇心で読んでいた読者も、王子とのやり取りを重ねるうちになんだか楽しくなってしまい、王子との時間が終わる頃にはリアネと一緒に寂しくなってしまう。その心情描写が秀逸だからこそ、迎えた結末のカタルシスが素晴らしかったです。ああ、良かった。と心からホッとしました。

完璧なのに何か大切なものが欠けているような不器用な王子と、グイグイ王子の素に迫るリアネ嬢。どこかぎこちなくも、両者の間には確かに愛があります。大真面目な二人。だけど傍から見るとちょっとクスッと笑ってしまう二人。
囓られた月の結末を、見届けてほしいと思います。

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